第76話 カリーニングラードへ
1945年4月9日。
ケーニヒスベルクは空爆の果てに陥落した。
国民突撃兵として都市に残された市民たちも殺され、市内に突入した赤軍は残された女性や子供達に襲い掛かった。
市内のあちこちで凄惨な強姦と私刑、略奪が繰り広げられた。
それは一か月後、ドイツ各地でベルリンで、そっくり繰り返されることとなる。
ウクライナやベラルーシの抵抗勢力は潰され、ドイツ占領政策に協力した市民は即決裁判で殺された。
バルトの国々はソビエトの支配下に入った。
「これはひどいありさまね。ヴィクトル大尉」
「ああ。この腐った遺体の山を早く処理してしまわないと、疫病の発生源になりかねない」
「私たちが赤ん坊を育てる頃には、この国はきれいになっているかしら」
「ああ、ナチの奴らも協力者どもも一掃して、美しいソビエトの街が甦っているさ」
ドイツ軍の降伏後、ケーニヒスベルク市内に入城して来た赤軍兵の中に、一組の男女カップルがいた。
黒い髪に黒い瞳、意思の強そうな面長のしっかりした顎をした看護兵は、アントニナ・マカロワ。
自治区ロコチでドイツ軍に協力し、パルチザンを大勢銃殺していた『機関銃のトーニャ』と呼ばれた娘である。
傍らに立つのは、彼女の正体を知らぬユダヤ系ロシア人曹長ヴィクトル・ギンズバーグ。
家族の全員をドイツ兵に殺され、天涯孤独になった士官だった。
彼らはこの地で結ばれ、ベラルーシの小さな町で戦後を過ごす。
1979年、アントニナがKGBによって逮捕・銃殺されるまで。
1991年9月6日。
ソビエト国家評議会はバルト三国の独立を承認したが、リトアニアの一角にあるこの街はロシアの飛び地として残った。
いま、かつてのケーニヒスブルクは、ソビエト最高会議幹部会議長カリーニンの名を取り『カリーニングラード』と呼ばれている。
2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻し、隣接するバルト三国はじめ NATO・ EU加盟国と対立姿勢になっても、まだそこはロシアのままだ。
住民が国境近くへ行くのも禁じられた、閉鎖された州として残っている。
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