女特有のアレ
『そんなに嫌なら外にいれば?』
甘い。
夏だぞ。山ん中の廃墟だぞ。
車を停めた瞬間に虻がワンワン寄ってくる。
窓やドアの開け閉めが困難な程。
先日、友人が心霊トンネル凸したらしいが、トンネルの中にスズメバチが巣食っており、やっとこ車まで逃げたが、今度は車が虻にまみれており、全員で急いで乗り込み急発進。
バックミラーに映っていたのは………!!
走るのが遅かった仲間である。
急いで戻りそいつを乗せ、結局虻が飛び交う車内で口論になった。その挙句に、帰り道でイノシシに会い何度も頭突きされ、その軽自動車は廃車になったのであった。
あー怖い怖い。
心霊スポット怖い!
なので、万全に用意をしなきゃならない。電撃ラケットも持参。
よし、出発!
駅に到着。
6人と出会う。
まず4人が先に待ち合わせし、三十分ずらして運転手組の私ともう1人が来る。
これは駐車料金がかかるため。
来ないやつは置いていく。
オフ会は遅刻者やバックレが多いため、このような対策がとられた。
私は立体駐車場から駅に行くと、改札口ですぐに集団を見つける。
そして、心の中でガッツポーズ!
「こんにちは!」
「初めまして」
「今日はよろしくお願いします」
私も「よろしくお願いします」と挨拶をし、早速口にする。
「その格好で行くんです?危なそうです!」
数人が『えっ』と言う顔をする。
なんなんそのシモが丸出しのスカート。
バッサラバッサラ言うワンピース。
廃墟は山奥だぞ。
心霊スポット番組のグラビアさんとかは、アレは仕事だからね…。
「廃墟は辞めた方が……怪我とか危ないですし、虫が凄いですよ!
橋はどうでしょう?何箇所か知ってますけど…」
廃墟でもいいけど、私は車内で待つね。
あと、救急セット持ってきたよ。
そのうち1人が手をあげる。
もう1人のドライバーである。
「ウチの車のエアロパーツ高いんですよね、山道はちょっとぉ……」
なんで車出した?
その車は大事に乗っとけ。
「んじゃあ、橋で……」
主催者の決断。
「了解です」
橋も山だし虻は来るんだけどね。
私の車には主催者ともう1人の女子が乗った。
遠回りして、有名な峠を通る。
みんな県境にいる人たちであまり来たことはないらしい。
ケイコさんと言う方が参加していて怪談に詳しく、事細かに解説してくれる。
車で通過するだけなので、みんなテンション下がるかなぁと心配してたんだけど、彼女のおかげで充分盛り上がった。
エアロさんの車の人たちも盛り上がってればいいけど…。
今度は橋に到着。
よく遺体が上がる下流周辺を説明し、今度は上流の飛ぶ方の橋に車を進める。
なんか字ズラで見るとすごい不謹慎だな。
その名所は大きな川にかかる高い橋。
昼間は割と人通りが多い方だとは思う。
高いフェンスがあり、素晴らしい絶景を妨害している。
「でも、このフェンスがいかにもだね!」
「こんなの『飛んでますよ!』って言ってるようなものですよねぇ」
「でもこれ登る気なら登れるんじゃない?」
「すごいガッツですね…それ」
「センサーとか付いてるんじゃ無かった?」
おぉ、盛り上がってる。
よかった。
手前にある駐車スペースから、橋の歩道に徒歩で出る。
エアロさんの車がやっと到着。
橋から景色を眺める。
今日は雲一つないし、青々とした木々の葉が照り返って輝いている。
川の水量も少なく、涼し気な水の音が岩に響き渡る。
にしても、フェンス邪魔だな…。
昔、私を乗せたタクシーのおじさんがここの話をしていた事を思い出す。
よくある怪談で、この場所まで客が指定して乗車する。ここに着くと、客が消えてると言う物である。
ありがちだけどまぁ、実際に体験したら怖いだろうなぁ。
「……?」
駐車場から何やら女どもの声がする。
随分盛り上がってるなと顔を向けると、エアロさんが他の女に囲まれてる。
今度は何っ!?
喧嘩してない!?
エアロさん側に乗ったのは2人の女性である。
この2人は面識がある友達同士だった。
仲良さそうだったし、とすると、エアロさんが何か言ったのか?
私と主催者が様子を伺う。
「いいですよじゃあ、私たちここからタクシーで帰りますよ」
「最初から他の予定入れなきゃよかったんですよ!」
エアロさんが渋い顔で答える。
「いやぁ、だってほんとは廃墟に行ってすぐに解散の予定だったじゃないですか!」
あぁ、予定変更しちゃったからなぁ…。
揉めちゃったのか。
しかし、最初にルート確認はしたし、おおよそどのくらいの時間がかかるか、分かったはずなんだけど。
友達同士の女組が橋に来る。
お前らも乗せてもらっておきながら言い過ぎだろ。
私は主催者と一緒にエアロさんのところへ行く。
エアロさんは車にもたれ掛かったまま動かない。
「折角ですから、エアロさんも行きましょうよ!」
「景色いいですよ!」
「別にいいよ。興味無いから」
あぁもう、臍曲げちゃったぞ。
「何かあったんです?」
私が聞くと、スラリとしたデニムの足を組み替えて、話し出した。
「………一緒にいたら、なんかこう。帰りたくなっちゃった…」
概ねの再現である。
「ねぇ、車の香水キツくない?」
「服に付きそうじゃない?超嫌なんですけど」
「音楽うるさくない?」
「こんな歌ぜんぜん興味無いぃ」
「トンネル怖くないね」
「噂は嘘なんじゃない」
それは腹立つわ。
「用事思い出したって言ったら、揉めちゃって…ごめん」
「アイツらここに置いて行こうか?」
「セイユさん、それはちょっと」
エアロさんは「ハハハ、んじゃ帰りは席替えしてくれる?」と言ってきた。
うぇーと思ったけど、仕方ない。
主催者が2人を別々に離そうかと提案したが、ややこしくなりそうなので却下。
結局2人は私が乗せて帰ることになった。
帰りにコンビニでアイスを食べようと、主催者が言い出した。
気を使ったんだろうな。
でも、この2人と、一刻でも早く解散したい。
「コンビニ近くにないんですよね」
「んじゃ、1度旧道に出てから…」
「〇〇駅まで行けばコンビニありますね」
「よし、行きましょう!」
駐車場で話し合ってると、2人が口を挟んできた。
「え、コンビニのアイスとか、勘弁なんですけど…(笑)」
「不味くない?食べなくていいよね!」
「では、お二人は、その駅に着いたら解散ということでよろしいですか?」
うわ、主催者ブチ切れてる!
「えっ!」
「そんな突然」
たたみかけろ!
「大丈夫です!今なら一時間に一本は電車ありますから」
「お二人の家までなら夕方までには帰れますよ…」
うわ、全員賛同。
私もだけど。
2人が運転手の私を見る。
「大丈夫!駅までは送りますよ!
私なんかこないだ、夜中に湖に置き去りにされましたからね!そんなことしませんよぉ」
遠まわしに忠告。
私の車に文句つけたら途中の個人商店で降ろすからな。
帰りの車内。
2人とも無言だった。
知らん。
2人を降ろして、コンビニでアイスを買う。
ふぅ、平和。
私はガリガリ君を購入。
4人で車の陰でモシャモシャ食べる。
「あっ!」
私のアイス落ちた………。
罰当たった…。
うぅ…… 。
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