あおいさん

 二階建てのゲーセンの一部分にオンラインゲームのコーナーがある。

 そこにうさぎくんと彼女さんがいた。


 へぇ!こういうタイプが好きなのか!

 黒いジャケットに赤いスカート。ガーリーな感じで可愛らしい。


 あ、あれ?白のブラウスに薄茶色のスカートは?レース編みのヘアアクセは?


「ど、どうもセイユです」

「俺の彼女のアオイ」


 ん?なんだ?


 アオイさん、ポカンとしてるぞ?


「えっと……はぁ、よろしく」


 流されて挨拶した!


 えぇっ!?アオイさんは今日、私と会うんだったよね?

 なんでこんなにびっくりしてるんだろう。


 ゲーセンではうるさいので外に出る。


 さすがのうさぎくんも気まずそうだ。

 な、なんか喋らなきゃ!


「あ、アオイさん!と、取り敢えず、今日の話なんだけど!」

「はい」

「結構綺麗な病院でしたよ!待合室もソファで、先生もサバサバしてて」

「病院………?」


 ほら見ろ!話が伝わってないんじゃないか?


 アオイさんは「あぁー!」と手を合わせた。

「『精神科』って、ソレかぁ!アハハ!」


 えぇっ!

 今度は何!?

 一人でウケてる。


 ひとしきり笑うと、アオイさんが口を開く。


「いやぁ、精神科には行ってるんです!」


「え?」

「えっ!!!?」


 おい、うさぎくんの方がびっくりしてるぞ。


「私、解離性同一性障害なんですよ」


 マジか!初めて会った!

 人格が何人もいる、あの病気か!

 それで今日の予定が、この人(人格?)に伝わってなかったんだ!


「そうだったんですね!

 なんかすごい大変だって聞きます…」


「そう、ですね。

 あ、それでカレンダーには『精神科』ってしか書いてなくて…通院日はもっと先なのにアレって思ったんですよねぇ、すみませんでした」


 アオイさんはぺこりと頭を下げる。

 嘘をついている様には見えない。


「いえいえ、こちらこそ、余計なことしてすみません!」


 うさぎくんだけが、「え?え?」と私たちの顔を見ながら混乱している。


「あ、あの!うさぎくんには……」


「え、言ったはずなんですけど…」


「え、何が?えぇ?何が、もう病院行ってたの!?」


 あらら。

 というか、その様子だと、解離性同一性障害ってのもピンと来てない様子ね。


 でもよかったね。浮気じゃなくて。

 少なくとも、このアオイさんはデートに来たわけだから……。

 まぁ、私は医者じゃないしな。


 3人でファミレスに入る。


 うさぎくんコーヒーとパスタを注文。

 アオイさんはアイスティーとケーキを注文。

 私はピザとパスタとメロンフロートを注文。

 2人とも、それで足りんのか…?


 途中、アオイさんはトイレへ行った。


 しかし、帰ってこない。


 そんなに広い店じゃないんだけど、ここからトイレ見えないし。

 一応、見に行くか。


 女子トイレに行くと、アオイさんどころか、個室もメイクルームも誰もいない!


 うさぎくん、すぐに探しに向かう。

 その日はそれでお開きとなった。


 結婚したいって言ってたけど…なかなか慣れるまで大変だろうなぁ!




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