キングの苦悩

 秋口、キングから電話がきた。


 もうパーティーにも慣れ、特に個人的なアフターフォローはなくなっていた頃である。

 個人的にキングの友人内の集まりにも参加し始めたので、電話で話すのは久々だな。


「もしもし、珍し!どうしたん?」


 電話の向こうのキングはなんかいつもよりローテンションであった。


「どっか行かない?なんか………1人になりたくて……」


 1人になりたいなら1人で行けよ、と思ったが、まぁこいつの周りはいつも友達で溢れかえっているしな。


 私は承諾すると、電話を切った。


 なんだか、ファミレスで愚痴って感じじゃ無さそうだな……とにかく頭を空っぽにしたいって感じ。


 私は縁の下にあった鉈を洗うと、バスタオルでぐるぐる巻にして、ゴミ袋とタオル等と共にボストンバッグに詰めた。

 キングの自宅に到着。


 ワンコールするとキングが玄関先に現れた。

 なんというか、いつもみたいにキマってない。ヨレヨレで薄汚れたシャツともしゃもしゃのハーフパンツ。


 こいつもこんな格好すんだな。


「へいっ!兄ちゃん、今日は私がエスコートしてやんよ!」


 キングはプッと吹き出すと、助手席に乗ってきた。

 後部座席にある梨とスイカを不思議そうに見ながら。


 近くにあるダム湖に行く。


 駐車場に車を停め、ボストンバッグとスイカを抱える。


 遠くに釣り人が見える。


 あとは来ても、熊くらいである。


 適当な場所に来るとキングは座り込み、ダム湖を見ながらボンヤリしている。


 私はボストンバッグから鉈を取り出し、スイカを割る。半分にしただけのスイカにカレースプーンを刺し「ほれ、食え」と差し出す。


 キングはそれを受け取ると、大して驚きもせず、すんなりシャリシャリ食いだした。

「こないだ生主さんと一緒に遊んだよ!また遊ぶんだー」


「よかったよ」と言う。


 そう言えば、こいつ私と同じ歳だったな。


「なんであんなに手間のかかるオフ会やってるの?」


 キングはうーんと考えると、こんなことを言っていた。


「昔さぁ、勤めた時に俺、全然人を使えなくてさぁ。店に迷惑かけっぱなしだったんだよね。

 しかも、女の子同士のいさかいって凄くてさぁ、全然コントロール出来なくて。

 そのうち、俺をいつも助けてくれてた人が独立したんだよ。順調で、俺も店を一つ持たせて貰ったんだ。でも、1年もしないうちに潰しちゃってさぁ」


 なるほど。

 自分の勉強か。


「なんとか……なんとか、見直して貰わないといけないんだ」


 見直すって……あの場にママとやらがいなければしょうがないんじゃ………。

 いや、いたのか?あの中に。ママが。


「ほかの仕事をするのは考えてないんだ?」


 キングは食べ終わったスイカを灰皿にして一服。

 少し、間を置いて。


「俺は………ママを裏切れない……!」


 なんだか、凄い覚悟ね。ニートには分からんわ。


「今日はありがとう」


 帰り際、キングが言う。


「なんかお礼がしたいけど……何がいい?」


 お礼?

 お礼かぁ。


 あいにくスイカと梨で腹はいっぱいだしな。

 今日の夜はうさぎくんと遊ぶんだよな。


 何がいいかなぁ………と思いつつ、もう私の目はそこに釘付けなんだけどネ。


「んじゃあ…えっと」

「うん」

「けっ、けっ、けっ、……………!!!」


 キングがキョトンとする。


 うわぁぁぁ、なんかプロポーズみたいになってない!?

 でも、もう止まんない!


「血管!腕の血管触らせて!」



「………………………いいけど…」


 うおぉ!こんな浮き出たデカくて長い血管触ったことないぃ!


 しばらく、運転席から差し出されたキングの腕をつかみ、血管を触る。


 プニプニ、プニプニプニプニプニプニ。


 ハァハァ!


「ふーっ、ありがとう!」

「えっ?もういいの?」


 うむ、満足じゃぁ…。

 なんかちょっと、水で溺れてる姿とかも見たいけど…犯罪になっちゃうからね。

 これでいいよ。


 車を降りる際もう一度触らせて貰った。


 プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ。

 ハァハァハァハァ!!


 それから3ヶ月程後だろうか、お店出すと言うメールが来た。

 よかったね。


 程なくして、キングのコミュニティから抜ける事にした。生主さんともシノとも付き合いあるし、ここはもういいかな。


 ついでにキングのプロフィールページに飛んでみた。

 キングの写真は愛犬の画像になっている。犬を抱き抱えるキングの手元。

 その隣に誰かのシャツと手が映ってる。


 どっかで見たような……。

 煙草を吸おうとした時、ライターを差し出してきた、あの手だ。


 アユミさんか。


 それ以上、深入りしなかったが、もしかしたらママってのはアユミさんだったのかもな。


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