一言も喋らず缶ジュース飲むオフ

ナルシ君再び

 インターネットの掲示板で、こんなオフを見つけた。


『一言も喋らず缶ジュース飲むオフ』


 そんなわけないだろうと思い、面白いので参加。


 待ち合わせは県中心部のショッピングモールの駐車場。

 初めは15人程いた希望者も、殆どドタキャンや音信不通になるのは当たり前で、後はオフ会の様子を遠巻きに見るウォッチングさんに変わる。


 結局、今回は私と他二人であった。


 車の車種とナンバーを頼りに探すと…あ、いた。


 二人は私に気付くと、手を振って近付いてきた。


「こんにちわ」


 一人はガッチリというか…ムッチリとしたオジサンであった。

 顔文字多いから絶対女の子だと思ってたんだが…マジか。


 一方、もう一人。

 あれコイツ知ってるぞ。


「ナルシ君!」


 相変わらず、体幹どうなってんの?って形で立ってる。前回のオフ会の参加者。

 同じ掲示板なんだから、奇遇も何もないんだけどね。


 ナルシ君は「ゥフッ」と微笑むと、オジサンの車へ。

 予定では近くの池に行って、景色を見ながら缶ジュースである。


 うーん。

 オジサン、女の子だと思ってたんだけどなぁ…。

 車に乗っちゃうのは、なんかなぁ…。


 でも、まぁいいか!


 躁転しているので、危機管理能力も薄れている。


 ナルシ君も一緒だしな。


 じゃあ、出発。


 二十分ほどすると池が見えてきた。


 オジサンは千円札をナルシ君に渡すと、これで二人も買っていいと言う。

 私はお茶をご馳走になった。


 三人でベンチに座った。


「…………………」


「…………………」


「…………………」


 マジでなんも喋らねえ。


 いや、来る最中の車内も無言だったけどさ。

 そんなことは無い、見ず知らずの人の車に乗って、何事もないのだから、全身で楽しまねば!


 しゃ……喋りたい!


 興味が無いふりして、煙草吸ってるけど、本当は喋りたい!


「いやぁ、無言オフだけどぉー、まさかそんなわけないですもんねぇ?」って、なりたい。


 様子を伺うと、オジサンは完全にくつろいでる!

 そういうもんなのか!?

 ナルシ君は、あ、こいつは気まずそうだ。しかも、私が来るとは思わなかっただろうしなぁ。っつーか、カルピス好きね君。


 予定時間は三十分である。


 残り時間五分。


 うわぁー、うわぁー、本当に無言なんだ。

 と思った矢先、「トイレ行きます」と言って、ナルシ君は側にあるコンビニに向かった。


 二人きりのベンチ。

 すると、オジサンが話しかけてきた!


「俺さぁ、長男なんよぉ」


 え、何の話だよ。

 嫁さはいがねぇゾ。


「次男は家に居てさぁ。嫁さんもいい人で」


「へぇー」


 オジサンは三十代後半だったけど、確かニートなんだよね。


「若い頃さぁ、親に言いくるめられてさぁ。うち、農家なんだよ…」


「農家の長男って大変ですよねぇ」


「そう。俺も若い頃、遊びたい盛でさぁ。

 それで親が言ったんだよ…」


 ゴクリ。


「実家で農業してれば、就職も結婚もしなくていいって」


「うまい話じゃないですか!」


「全然うまくないよ!」


「おっ……落ち着…す、スミマセン」


 えぇ!?

 ちょっと…オジサン泣いてる!

 泣いてるよ!


 その時、後ろで物音がする。


 今度はなに!?


 ナルシ君が立ってた。


 お前、なんでそんな目で私を見てんだよ!虐めてないよ!


「俺はさぁ、ウゥそれで浮かれてさぁ、ウゥゥ、そしたら弟が結婚して帰ってきてさぁ…ニートじゃ頼りねぇからって農業始めちゃってさぁ!」


 流石にナルシ君、かっこいい立ち方してない。


「俺、家に居場所無くなったんだよぉぉ、ウゥゥ」


 ナルシ!やめろ…そんなに、蔑む様にオジサンを見るな…!

 この人まじ泣きだよ!


 どうすんの…帰りこの人運転だよ…完全に取り乱してる。


「ははは。

 や、いいお嫁さんじゃないですか?

 こう農機具の使い方教えてあげるとか…」


「そんなん、もう、親父がやってる!」


 ど……どうしよう。

 なんとかなだめて落ち着かせなきゃ…。


 咽び泣くオジサンの背中をさすりつつ、なんとか励ます。

 そして、コッソリとケータイで。

『ナルシ!ケータイ弄ってんじゃねぇよ!』


『任せてください!』


 任せるって、お前、そんな隅っこ座ってんじゃねぇ!


 言っちゃおうか…。

「これって、無言オフですよね」って。


「無言っつってんのに口開くなゴミクズが」って。


 もう、そろそろ限界。


 その時、駐車場の方から、誰かが向かってきた。


「うさぎ君!」


 ナルシ君、会話術の高いうさぎ君を呼んでたのか…。

 ナルシ君……た、頼りねぇ。


 うさぎ君は「いや、合流出来てよかったよ!参加したかったんだよねぇ」などと口裏あわせる。


 うさぎ君、最初から四人分のパンとジュース持参してきた。

 なんだろう。

 同じ長男でも、オジサンとうさぎ君のスペック差。


 オジサンにパンをすすめ、まずは口を塞ぐ。

 完全に子供を扱う様に………。

 腹が満たされ、しばし飲食すると、オジサンは少し落ち着いたようだった。


 なるほどね………。

 あー、よかった。


「まぁまぁ。そろそろここは冷えますから!」


「すまんね!すまんね!」


 帰りの車内では、ナルシ君に代わりうさぎ君がオジサンの車に乗り、運転手となった。うさぎ君の車はナルシ君運転である。


「俺もさ、今日はこんなつもりで来たんじゃないんだけどさ!」


「何事も、感傷的になる期間はあるものですよねぇ」


 オジサンの愚痴は続いたが、ショッピングモールの駐車場に着くと、すんなり帰っていった。

 ほっ……………。

 うさぎ様様!


「ちょっとコーヒーでも飲んでく?」


「行く!」


「俺も!むぅはっ!暇だっし!!」


 オジサンから解放された私とナルシ君は、二つ返事でOKした。


 これから、うさぎ君の説教が待っているとも知らずに………。


 ごめんなさい!

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