第5話 『幼馴染』な日浦 美玲
「………………」
後日、午前の授業全てが終わり昼休みに突入した。現在俺とモブは昨日霊峰院から案内された場所の内の一つ、食堂を利用して昼食を食べていた。
金銭的に節約はしたかったのだが、以前在籍していた高校にはなかった食堂の雰囲気というものを感じたかったからモブを昼食に誘ってみた。食堂には長方形の白いテーブルが何個も並んでおり、そこに座る生徒も多くほぼ埋まっているほど。現にがやがやと生徒の話し声で賑わっている。
券売機の前では大勢の生徒が列を作って並んでいる。券売機にお金を投入して様々なメニューを注文する方式なのだが、俺は340円のカレーライス、モブは830円の特上天丼を注文していた。
普段の俺ならば特上天丼という何気に高価な食べ物を注文しやがったモブに恨み節(負け惜しみ)を呪詛の如く呟いているところなのだが、生憎とそんな気分ではない。それは何故か。
「はぁ……」
「御子柴君まだ気にしてるの? まさか『麗氷姫』が御子柴君のお世話係になったのはびっくりだけど、いくら高飛車で美人でも冷たいのが彼女の平常運転なんだから気にしてもしょうがないでしょ」
「いや、あれは俺が完全に悪かったんだ……。僅かでも親しくなれたと勘違いして、彼女の髪型を面白い髪型だなんて言ってしまった……っ!」
「御子柴くんって、繊細そうだけど案外誰に対しても物怖じしなさそうだもんね……。僕らなんて彼女の冷たい雰囲気と態度、理事長の孫っていう立場があるから、あの鋭い眼光で睨み付けられたらもう何にも言えないもん。……まぁ中にはそれがご褒美っていう
「あれから霊峰院さんに話しかけても無視されるし……。はぁぁぁー……」
俺はスプーンでカレーを
———結局、あのあと冷たく鋭い視線で『大変不愉快ですわ。雪村先生にはわたくしから伝えておきますのでもう帰りなさい』と霊峰院に威圧感たっぷりに言われてそのまま解散となってしまった。
まぁ厳密に言えば、慌てた俺は職員室の方向へと
(流石に無神経すぎだったよなぁ……)
あの日ほどバイトでこれまで培ってきたコミュ力の未熟さを痛感した日はない。今日も教室内で謝ったり世間話をしたのだが、残念ながら彼女に無視されてしまった。まさに俺の完全な一人相撲。情けない俺の話に耳を傾けていたモブはへらっと笑うと、箸で天ぷらを掴んで声を掛けてきた。
「元気出しなよ。ほら、僕の海老の天ぷら一本あげるから」
「おー、心の友よー。心なしか元気が出た……ってあれ、確かカレーと天ぷらって食べ合わせ悪いんじゃなかったっけ?」
「胃もたれはしそうだねぇ。本当に悪い組み合わせは天ぷらとスイカだよ」
「へー、そうなんだ」
俺はモブの知識にふむふむと頷きながらカレーと海老の天ぷらを口に運ぶ。きっとまだ若いから胃もたれしないだろう。なにせ今まで体調を崩したことが無いほど健康体だ。バカは風邪をひかないと言うが、俺のためにあるような言葉だと思う。
「……あ、ほら御子柴君。あそこのテーブルに『麗氷姫』が座ってるよ」
「お、霊峰院さんって食堂利用してたんだな。霊峰院さんの両脇に座っている二人組は彼女の友達か?」
「いや、友達というよりは取り巻きっていう表現の方が合ってるかな。確か僕らの隣のクラスの子で、『麗氷姫』とは一年の時から一緒にいるみたいだよ」
「へー、別に全員から嫌われているわけじゃないんだな。……霊峰院さんと話してるあの二人も、なんだか楽しそうだ」
「うーん、そう?」
モブは首を傾げるが、俺にはそう見える。
入り口付近に座る俺らと真ん中側に座る霊峰院さん。俺らの席とは大分離れているが、彼女らの様子はここからでも良く見えた。彼女らの座っている席の周囲には誰もいないようだが、理由は言わずもがな。
(うーむ、これからどうアプローチを仕掛ければ霊峰院さんに本気の謝罪を受け入れて貰えるか。真剣に考えなきゃだな……!)
現在の関係性は絶望的とはいえ、俺の世話係である霊峰院さんとどう接していけばいいのかモブに相談しようと口を開こうとするが……。
突然、背後から俺に声が掛けられた。
「―――ねぇねぇ、もしかしてキミって
「ん……?」
「えーっとほら、
「あー、そうだけど……誰?」
「私だよ私! 小学校のとき同じクラスだった
「…………みっちゃん?」
俺は昔の恩人との思いがけない再開に目を見張る。
彼女は艶のある長い黒髪を揺らしながら、片手をぐーぱーぐーぱーと開いたり閉じたりする懐かしい仕草で俺に向けて手を振った。
「うん! 久しぶり!」
―――彼女は
久しぶりすぎて初めは気が付かなかったが、あのときの可愛い姿からそのまま綺麗に成長したような少女になっていた。小学校以来なので彼女は一応幼馴染の部類に入るだろうか。清楚系な雰囲気を漂わせる綺麗な彼女にいきなり話し掛けられたことで内心舞い上がりそうになるが、俺は落ち着いて自制する。
美玲ことみっちゃんは、太陽のような笑みを浮かべた。
「元気にしてた? あのとき急に転校が決まったからびっくりしたんだよ!」
「あ、あぁ、そうだな……! 小さいときは色々ごたごたしてたし……。でも、俺だって良く分かったな?」
「同じ学年でいきなり五月に編入してきた人がいるって何気に話題なんだよ?
「あぁ、じゃあな! ……って、もう行っちまった。慌ただしいのは変わらないな」
俺は手を振りながらぱたぱたと去る彼女を見送る。券売機の方に並んでいる友達らしき数人の女子のもとへ行くと、そのまま列に加わり会話の輪に混ざったようだった。
その様子を見た俺はふと笑みを溢しながら食事の手を動か―――、
「ちょ、ちょっと御子柴君!? 日浦さんと知り合いだったの!?」
……そうとしたのだが、今まで固まっていたモブが机を乗り出して俺の肩をガシッと掴んでくる。何故か頬を紅潮させながら目を見開いて鼻息を荒くしているが、今の流れで何か興奮する要素があっただろうか。
俺は若干モブの様子に引き気味になりながら質問に答える。
「あ、あぁ。小学校の時に同じクラスで、あることをきっかけによく遊ぶようになった子だよ。途中で転校して離れ離れになったが、たぶん『幼馴染』って呼んでも良いんじゃないかな。ま、元気そうで何よりだよ」
「……の、……ギ…………こ……!」
「ん、すまんモブ。小さくてよく聞こえない。もう一回お願い」
俺が話していた途中から
きょとんとしながら首を傾げる俺だったが、そんなことはお構いなしにモブはある言葉を言い放つ。
「このギャルゲー主人公がッッッッッッッッッ!!!!!」
「なんでだ!?」
彼の思いがけない言葉に俺は全力で突っ込むのだった。
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