私の足が突然曲がらなくなった話

 病気をいくつか患っていた私ではありますが、手術の経験と言うのは実はほとんど無かったりします。


 ほとんど……と書いたのは実は1回だけ手術をしたことがあるわけです。


 まぁ、普通はそんなにしょっちゅうするものではないと思うんですが、幸いにしてその一回だけです。


 その理由はタイトルでネタばれてますが、足が唐突に曲がらなくなったことに起因しています。


 高校生の時だったかな確か。あの時は非常にビックリしましたよ。


 私は、右足を突然曲げることができなくなってしまったんです。


 足が棒のようになる……と言う表現はありますが、本当に右足が棒になったかのように真っ直ぐなままなんです。


 力を入れて無理矢理に曲げようとすると、膝の中で何かが引っ掛かったような感じがあるんですね。それが何か分からないんですが、その何かが足を曲げるのを邪魔していました。


 で、足が曲がらなくなるのですが膝を両手で持って捻る様にして動かすと何かが外れるような感触と共に曲げることができるようにいなります。


 無理矢理に曲げることも可能だったんですけど、そうなると「バキッ!!」とか「ボキッ!!」と言う不吉な音が鳴ってしまうんですよ。それはなんだかイヤーな予感がしたので極力はしませんでした。


 で、その生活を数週間ほど続けると……今度は膝に痛みが走るようになってきました。


 普段は平気なんですが、足が曲がらなくなると痛くなる……。


 でも、足が曲がらないってのは想像している以上に歩きづらいものです。だから痛みを伴った状態でも曲げることになる……。


 その頃には慣れてきたもので両手でいちいち外さなくても膝を抜けさせるように動かすことで曲げることができるようになっていたわけなんですが、まぁ……結果としてこれが良くなかったですね。


 原因も分からず、膝の痛みは日々強まる……だったらきっとすぐに病院に行ってたと思うんですよね。


 痛みは強くなる時もあれば、弱い時もある、そんなあいまいな状態だったんですよ。だから病院に行くほどではないかなと思ってそのまま放置してました。


 そしてある日、本当に歩けないほど痛くなりました。


 足は棒のようにまっすぐにしかできず、歩く時も無理矢理にも膝を曲げることはできなくなってしまい、引きづる様に歩くしかできない状態です。


 幸いにして休みの日にもやっている整形外科があったので、即座に病院に行きました。


 ちなみに次の日にはこの足の痛みは治って曲がる様になっていたんですけど……流石にそこで行かないという選択肢は無かったです。授業中やら登校中に歩けなくなっても嫌だったので、大人しく病院に行きました。


 そして最初、レントゲンを撮ったのですが……骨には異常なしでした。


 層言われて、なんともないのかな? 成長痛かなんかなのかな? と思ってたんですが、先生にこれはレントゲンで映らない部分に問題があるねと言われます。


 それからMRIだったかな? それを撮ることになったんですけど……運悪くMRIはすぐに撮れないということでした。予約でいっぱいだということだったのです。


 ちょうど予約が空いているのは診察当日から一週間後だったので……その時にまた来てねと、痛み止め等の薬をもらってその日は帰らされます。


 まぁ、平日に空いてても学校があるので無理だったので、ちょうど休みの日に空いているのはありがたかったです。


 それから一週間……相変わらず膝は毎日ボキボキと音を立てますが、痛み止めを飲むほどに痛むことは無かったです。


 ただ、足が棒になる頻度は上がってきていた……と言うより毎日なっていたので、そろそろ不味いかな? と内心で恐ろしくなっていたことを覚えています。


 そして、運命のMRIを撮る日がやってきました。


 MRIを撮った後に、先生の言った一言が印象的でした。


「あー……やっぱりねぇ……。ここの形がおかしいわぁ……」


 一人納得したように先生はMRIで撮った写真を私に見せるのですが、私にはさっぱり何がおかしいのか分かりません。


 聞けば、私は膝の軟骨部分……半月板の形がおかしいのだとか。


 普通の人の半月板は文字通り半月のような形をしているらしいのですが、私の半月板は満月のような形をしていてそれが膝関節部分に悪さをしているんだとか。


 見た感じ、スポーツで形が変わったようには見えないからこれは生まれつきだねと言われました。


 運が良ければ一生、問題なく過ごすこともできたようなのですが私は運が悪い方だったらしく……満月の形をした半月板がちょうど膝関節に引っ掛かりを作ってしまったようです。


 そのため、炎症が起こったり、膝が曲がらなくなったのだとか。


 ここからが予想外だったんですが。


「これは手術して取った方が良いね。曲がらなくなってきてるなら早めの方が良い……」


「へ? 手術……ですか? 薬とかで何とかならないんですか?」


「無理だねぇ……この状態を放っておくと本当に足が真っ直ぐで固まっちゃうかもしれないから、今のうちに取った方が良いよ」


 そう言われて、あれよあれよという間に入院から手術の日取りまでが決まってしまいます。


 うちの親も突然の「手術」の二文字に困惑しきりでした。


 私も困惑してました。


 詳しい病名はもう忘れてしまいましたけど、私のケースだと放っておけばおくほど危険になるのだとか。


 幸いなのはその手術は完全に切開するのではなく、内視鏡で膝に小さい穴を開けてできる手術なんだと教えてもらいました。一昔前は完全に膝を開かなければならないところだったとのことですが、最近可能になったのだとか。


 うん……膝を開くなんて怖すぎますよね……。


 それから、私の退屈な入院生活が始まります。足以外は何ともないんですから本当に退屈だったんですが……なるべく足に負担をかけないようにと車椅子を勧められました。


 いくら内視鏡で手術をしても、術後はしばらく歩けないだろうからと……慣れておく意味でもとのことで。


 初めての車椅子……こう書くと不謹慎かもしれませんがちょっとだけワクワクしたのは事実です。


 でも扱いが難しいですね、車椅子って。特に角度を変えたり、振り向いたりするのが難しかったです。だけどまぁ、そこは色々と病院内を車椅子で散歩したりと徐々に徐々に慣れていき……。


 やってきました手術当日。


「局部麻酔と全身麻酔、どっちがいい?」


 と、まるで機内食のような選択を迫られたので私は全身麻酔を選びました。ヘタレですから意識ある状態で手術とか嫌だったんですよ。だけど、その後の事を知ってたらもしかしたら局部麻酔にしてたかもしれません。


 手術前日と当日……私はお腹の中を空っぽにしなければならないと……看護婦さんから浣腸されるハメになるわけです。


 いや、自分でできるから!! できるからね!! と思って拒否したんですが……看護婦さんが出してきたのは見たことも無いどでかい器具でした。


 てっきり自分でできるような想像していたんですけど、何だかメカニカルと言うか、ポンプが付いてて明らかに自分ではできない代物でした。


 下半身丸出しで背後から看護婦さんに私は浣腸されるわけですよ……三回も……。もうね……恥ずかしくて恥ずかしくて……。


 そんな羞恥を受けるなら局部麻酔を選ぶべきだったんでしょうが……選んでしまったものは仕方ありません。とりあえず羞恥に耐えて手術の日に備えます。


 そして手術当日……物凄い長い注射針の注射で鎮静剤をまず打たれました。


 これもものすごい痛かったんですが……麻酔の前に打つやつらしく、それを打ってから全身麻酔をして手術……と言うのが本来の流れらしいです。らしいですって言うのはですね、この鎮静剤を打ってもらった後から私の記憶が飛ぶからです。


 普通は鎮静剤を打っても意識は残っていて、手術室までは普通に自分で移動するらしいんですが……私は何をどうしても起きなかったらしいです。鎮静剤が麻酔並みの効果を発揮したのかは不明ですが、とにかく起きなかったらしいです。


 そして気が付いた時に私が発した一言は……「手術まだなの?」と言う言葉でした。


 気が付いた時間は夜の10時。鎮静剤を打たれたのは朝の8時。


 14時間も眠り続けていたわけですね。


 手術は無事に成功して、私の膝には溜まる血を抜くためのポンプが取り付けられてました。ちょっとグロいですが、ビニールプールに空気を入れるときに使うやつにそっくりな奴が私の足から伸びて血を取ってるわけです。


 そこからは車椅子で2週間ほど入院して、抜糸をしてポンプを取って退院となりました。


 途中……そのポンプが車椅子に絡まって私の足から無理矢理に引き抜かれそうになるというハプニングはありましたが……ともあれ無事に手術は終わったわけです。


 今ではもう膝は引っかかることなくきちんと曲がります。


 だけど私の右膝は、手術をしたために半月板がほとんど残っていない状態なんですね。壊れやすいというか、膝が壊れてる状況なので正座とか長時間のマラソンはダメと言われてたりします。


 でも日常生活には支障が無いくらいまでは回復しておりまして、早めに手術して良かったというところでしょうか。


 この半月板が生まれついて形がおかしいというのは珍しいわけではなく、結構あり得る話らしいです。


 ですので……もしもあなたの膝がぽきぽきとなって痛んだり、曲がりにくいというのであれば病院でMRIを取ってみるのも良いかもしれません。


 あれから20年ほど経過してますので、医学も進歩しています。今はもしかしたら違うかもしれませんが、当時言われたのは「大人になればなるほど、実行する手術が大きく大変になってしまう」という事でした。


 ちなみに今も膝は、寒い日とかには痛みます。手首に膝にと、我ながらボロボロの身体です。それでも大きな病気や怪我をしてないだけマシともいえますが……。


 これは病気とはまた違う、生まれつきのものでしたが……。


 もしも自分の足がおかしいな? と思った方のヒントに少しでもなれば幸いです。

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