第2話
少し大きめの建屋、レンガの模様をした壁紙で洋館のような外見をしている。
子供たちが庭ではしゃぐ楽しそうな声が聞こえる。
孤児院の格子状の門を開け庭に入ると子供たちが俺の名前を呼びながら駆け寄ってきた。
子供たちの頭を順番に撫でたり、抱っこをしていると透き通った女性の声が聞こえた。
「久しぶりじゃんSU、どうしたよ?」
そう言いながら窓から火のついた煙草を持った手を上げる院長のユウが見えた。
手土産を持ち上げて見せると子供たちに手を洗うように言い、上がってきな、と言い顔を引っ込めた。
俺は子供たちと家に上がり、手土産を子供たちに持たせるとユウがいる部屋に向かった。
大き目のデスクにブランデーの瓶が数本、そしてグラスと煙草の灰皿が置いてあり、壁一面に本がずらりと並んでいる部屋で外を見ながら煙草を吹かすユウがいた。
話を切り出そうとしたら新しい子をここに入れんのかい?、とユウから切り出してきた。
俺は話が早いと思い、結月のことを教えた。ユウは黙って聞いていたが彼女のことを伝えきると、孤児院に入れるのは条件付きだと言われた。
条件として彼女の教育にかかる金は孤児院ではなく俺から出せとのことだった。
経営が支援だけでは難しいというのが理由だ。
俺はそれで構わないと伝えた。
ユウは珍しいものでも見たのか意外そうな顔をした。が、直ぐ笑いアンタも物好きだよねぇ、と言った。
十数人の子供たちを無償で育ててる貴方も相当な物好きだなとは思ったが照れ隠しで煙草が飛んでくるので口には出さないで置いたが、何かを察したようにユウはこっちを睨んだ。
少しの間ユウと机にあったブランデーを飲みながら軽く世間話をしているうちに部屋のドアがノックされ、年長者の子がドアの隙間から顔を出した。どうやらユウに用事があるようでユウは少し席を外さなければいけない様だ。
俺はそのタイミングで帰ることにしてユウにその旨を伝えた。
玄関を出る際子供たちに敷地から出るまで見送られながら孤児院を後にし、帰路についた。
それから2日後、極東重工鉄鬼衆の隊長に割り当てられている部屋で書類仕事をしていると病院より連絡がきた。
結月の体の状態は良好で明日にでも退院できるとのことだった。
俺は結月を迎えに行く為、定時で上がることを通信用の端末で副隊長のウィングに伝え、何かトラブルがあればすぐ連絡するようにと言った。
夕方病院へ向かったところ、何人かが病院の前でたむろっていた。
撮影用機材やマイクなどを持っている所を見るに取材記者たちのようだった。
入り口に入る際取材記者の一人が俺に気が付き、いきなり質問を投げかけてきた。
何故あなたがここに来ているのか、病院に以前の事件の被害者がいるのかなどの質問だった。俺は質問に一切答えず記者を無視して病院に入った。
しかし後ろでは他の記者たちを集めようとしているのか何人かで電話をかけているようだった。
結月の病室へ向かうと結月が病室にあった荷物を纏めている所だった。
彼女は俺を見ると笑顔でおはよう御座います、と挨拶をしてくれた。返事を返し、頭を撫でてやると笑顔がふにゃっとし、少し恥ずかしそうな表情をした。
孤児院についての事を彼女に話すと少し驚いた表情をして良いんですか?、と少し不安そうな声で言った。
身寄りが無い彼女を俺が見捨てる事が出来ないし、ユウも全然来ても問題無いと言っていた事を伝えるとありがとうございます!、と言いながら腰あたりに腕を回す様に抱きついて来た。
少しして恥ずかしかったのか顔を赤くして離れたが。
明日孤児院に向かうので今日はホテルで一泊することを告げた。
その後担当医から彼女の詳しい診察内容などを聞き、退院手続きを済ませた。
ロビーの方から玄関近くに居るであろう記者達の様子を相手から見えない様に伺うと先程よりカメラマンを含む数人増えていた。このまま結月と出ると質問攻めに会うのは確定するので結月には裏の緊急搬送口で待って貰って、そこに駐車場にある車を持って行ってそのまま乗って貰いユウのいる孤児院に向かう事にした。
俺一人で玄関を出ると案の定記者達が質問を浴びせて来るが全部無視をしてそのまま車に向かった。
途中記者の一人が転倒し、怪我した!記事に載せてやる!、とか言っていたが無視を続け車に乗り結月を迎えに行った。
緊急搬送口で彼女を車に乗せ、車を出してそのままホテルへ向かった。
次の日孤児院につくとさっそくユウと子供たちが出迎えてくれた。
結月はいきなりの歓迎に驚いて警戒したのか俺の後ろに隠れてしまった。
俺は大丈夫だと彼女に言い聞かせると少しおどおどした様子で顔をのぞかせた。
ユウはその様子をまじまじと見ていたが結月に近づきしゃがんで彼女に目線を合わせた。
「これからアンタを世話するユウってんだ、SUからはある程度の事は聞いてるよ。これからよろしくな」
そう歯を見せるように笑って言うと多少結月の警戒も解けたのかよろしくお願いします、と小声でユウに言った。
それを聞いてさらに笑顔になるユウ。
そうして結月が子供たちと交流を図るように言ってその間に孤児院に入る手続きを済ませた。
手続きが済んだ後生活に必要になる結月の服などを買いに行った。
正直女の子向けの服なんぞ分からなかったから結月に好きなものを色々選ばせた。
彼女は色々物珍しかったのか、いろんな服を試着しては俺に見せてきて褒めてやるとすごいうれしそうな表情を見せた。
服を買い終わるころにはすっかり夕暮れになっていた。
孤児院へ戻る際中結月が何か考えている様だったのでに大丈夫か?と聴くと
「分かりません、正直まだ少し戸惑っています。ただ他の下層にいた子たちよりは恵まれているのはわかってます。すごい感謝していますし嬉しいのですが、怖い部分が多いです」
そう不安そうな声で言った。
俺は膝をつき彼女を抱きしめて頭を撫でた。
「大丈夫だ、お前に何があろうとも俺はお前の味方だし絶対にお前を助けてやる。だから安心してくれ」
そういってやると表情は見えなかったが、抱き返してきたのでそのまま抱きかかえ孤児院へ帰った。
途中恥ずかしくなったのか降ろしてください、と抗議の声が上がっていたが抵抗をあまり感じれなかったのでそのまま孤児院につくまで抱きかかえていた。
そんな思い出を思い返しているうちにいつの間にか出社の時間が迫っていた。
急いで荷物を準備し、朝食をレーションで済ませてから隊長室へ向かった。
白を基調とした部屋で中央には半透明な画面がついている曲線部分が多い長机が置いてある。
部屋に着き、通信用のイヤホンをつけるとおはようございます隊長、と可愛らしくも聞きなれた声が聞こえた。
その声を聴いて、朝思い出していた頃から比べると大分出世したな、などと思った。
事件から5年後極東重工にオペレーターとして入社し、2年で実力を発揮して専属のオペレーターになるまで成長したのだ。
むろん彼女の実力で出世したのだからすごいし、誇らしかった。ただ、俺の専属で良かったのか今でも疑問に思うときはあるが。
少し思いに耽りすぎていたようで、結月から何度も名前を連呼されていた。
謝ると少し怒った声で今日の予定を言い始めた。
そんな彼女も可愛いなと思いながら予定を確認し、今日の仕事に取り掛かる準備を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます