第182話 しばらく海岸を歩き回ったけど、
しばらく海岸を歩き回ったけど、時空の裂け目みたいなものは何もなく、美優が言うのは、隣り合った異世界がそこに有るのは分かっているんだけど、でも、綻びも亀裂も無くて、とてもこの世界に干渉できるような状態ではないということなのだ。
「あーあっ、くたびれ損か~」
「いいじゃない。デートをしに来たと思えば」
「まあ、そうだな。大体、キサラギ駅やコトリバコの甲子園の時だってそうだけど、何かきっかけがないと異世界につながるのはムリかも」
「そうかもね……」
何も収穫のなかったことに責任を感じて、元気なく返事をする美優を元気づけようとして、たまたま、浦島太郎の像が目に入った。
「美優、きっと亀を虐めないと時空が開かないんだよ。この先にある異世界はきっと竜宮城なんだ」
「じゃあ、エリスは乙姫様なの?」
「かもな?」
そう言いながら、一応、浦島太郎と亀の像を調べるが、花崗岩ではなく、普通の堆積岩でいずれは風雨に浸食されて形が崩れていくようなものだった。
花崗岩でなければ、電磁気波は出ないか……。それにこの形じゃトンネルのように磁界を作るのも難しいか。
俺は、それらを確認して、美優に向かって首を振る。
「そう上手くはいかないわね。でも、この先に異界が在るのは間違いないから、鈴木部長にこの辺りの写真を撮って相談しましょ」
そういって、スマホを取り出し、辺りの風景を写真に収めて行く。もちろん、二人で撮った写真の枚数の方が断然多い。
「大体、調査も終わったから……、帰ろっか?」
「そうだな。残念だけど、今のところエリスに関する情報は無いしな」
そうして、俺たちは家路につく。帰りの瀬戸大橋は来た時ほどの感動を俺たちに与えてはくれなかった。
岡島大学まで帰って来た俺たちは、さっそくホムニス教授に大した収穫が無かったと連絡を入れた。
ホムニス教授の方も「エリスに表情が戻って来た。こういうことは慌てても、どうなるものでもない。まあ、あの眼鏡の彼も交えて話す機会を持とう」と答えられ、初めから手掛かりになるようなことは期待していなかったようだった。
「とまあ、こんな感じだ」
俺は美優にホムニス教授との話の内容を話した。
「そうですか。そうなるとやっぱり頼りは鈴木部長ですか……」
「そうだな。こんな時に一番役に立ちそうなのは鈴木部長だしな。今までの経緯を一応メールで知らせておくよ」
「そうですね。なら、彩さんと麗さんにも!」
「そうだった。心霊スポット研究会のみんなと留萌さんにもメールを送っておくよ」
そう言って、スマホを取り出し、みんなにメールを打った。
美優がエリスと名付けた少女は記憶喪失であること、大変な美人であること、瞳が瞳孔まで青く地球上の人種には存在しないこと、さらに、来ていた服はこの世に存在しない天衣無縫だったこと、そして、この世の物とは思えないものに襲われたらしいこと、それらのことから、おそらく異界の住人がこちらの世界に迷い込んだらしいこと、発見されたのは浦島太郎伝説のある香川県の鴨之越と丸山島と間のトンボロ現象が起こっていた海の中に現れた道で発見されたこと、
花を見て、感情を取り戻したこと、名前を与えたことで、美優はエリスの時間が動き出したといったこと、それらのことをまとめて、心霊スポット研究会の面々にメールを送った。もちろん、発見された場所の写真は何枚か添付して送付した。
しばらくして返ってきたメールは「エリスさんの写真は無いの?」だった。
山岡、田山、大杉の野郎だけじゃなく、彩さんも麗さんも留萌さんもだった。みんな何を考えっているんだ! まったく! 写真は撮って来てないぞ。
ただし、彩さんだけは、更に一言「香川のうどんは関西のうどんと比べて美味しかった?」が付け加えられていた。
美優と顔を見合わせて噴き出してしまった。
「うどんを食べてくるのを忘れてたね」
「まったく、目に付いたファミレスで昼は済ませたからな。それにしても……」
「「彩さんって、関西至上主義だったんだ!!」」
二人の声がハモって、再び笑って合ってしまった。
だが、鈴木部長だけからは返信が来なかった。きっと、いつものように色々と推理しているのに違いない。
このみんなのエリスを見たいという願いは意外と早く叶うことになった。
こんな好奇心駄々洩れの願いなど叶わなくてもいいと思うんだけど……。
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