第177話 似たような話に牛の首って言うのがある

「似たような話に牛の首って言うのがあるよね。あまりに恐ろしい話のため、聞いた人間が死んでしまって誰一人その話の内容を知る人が居ないっていう話」

「沢井さん、良く知ってるよね。牛の首も内容を知ろうとしても「あんな恐ろしい話は聞いたことも……」って内容は誰も知らない。無類の恐ろしい話っていうことだけが噂になっているわけだ」

「鈴木、だからこれって実体の無い噂話なんやろ? それとも何か断片でも掴んだんか?」

「いやあ、全くのお手上げ。語るなのタブーを破るのがこんなに難しいとは……」

 なんだ、鈴木部長でも無理なのか。ちょっと「な、なんだって!!」と叫ぶのを楽しみにしていたのに。

「でもここには、第三の目を持つ沢井さんや、神話の時代を生きたパンドラの記憶を持つホムニス教授も居るだろう。何かヒントとなる話があるんじゃないかなと期待してるんだ?」


「鈴木部長、そんなの無理です」

 美優は速攻で否定する。美優の第三の目はあくまで空間を見る能力だけど、そんなピンポイントの心霊スポットを探るのには向いていない。なんのあてもなく視野を無限に広げてしまえば、美優の生命の危険が危ない。

現に第三の目を使った後は、脳の方が膨大な視覚情報を処理しきれずにしばらくは頭痛と吐き気に襲われると言っていた。


「語るなのタブーですか? 神話にもほとんどないパターンですね。見るなとか話すなのパターンなら約束を破るとろくなことにならないという教訓になっているわけだけど……。語るなのタブーには何の教訓も思い浮かばないな」

 ホムニス教授の言うように、確かに見るなの神話では、イザナギとイザナミの話でイザナミが死んでイザナギが冥界にイザナミを迎えに行き、冥界を出るまで決して振り返らないようにいわれていたのに、振り返ってイザナミを見てしまい、化け物の姿のイザナミを見てしまうというオチだった。

 それに、ギリシャ神話にも全く同じような話がオルフェウスとエウリュディケとの話にあった。後は、つるの恩返しとか雪女とか、大体約束を破ったためのしっぺ返しの話だよな。


「やっぱり、無いのか?」

 がっくり肩を落とした部長。留萌さんの時も語るなのタブーではあったけれども、本人の経歴を探れば隠していることは自ずと分かってしまうものだし、そう言った意味では関係者が不明の鮫島事件では……。

まあそのうち都市伝説と心霊スポットを引き寄せる強運?を持った美優が、何かを引き寄せてくれますよって、もっとも何もない方がいいんだけど……。


「そんなことより、沢井さんに相談が……」

 沢口さんが遠慮がちに話を持ち出したが……。気にすることはありません。今のところ、鈴木部長はなんの根拠も仮説もなしに、鮫島事件を切り出しただけです。


 美優も鈴木部長に遠慮はない。

「なんですか? 沢口先生。私で役に立つなら」

「なんかさ、香川県の方で事件が遭ったみたいで、応援を頼まれているのよ」

「事件?」

「記憶喪失の女の子が海の中で見つかったって言うんだけど……。何かの事件に巻き込まれたみたいなんです。でも、香川県警じゃお手上げみたいで……。向こうの法医学教室の教授が私を通してホムニス教授の意見を聞きたいって」

「それでどうして私が……」

「怪我の具合から何が有ったかは私たちにも予想が付くんだけど……、記憶喪失って病気じゃないから。美優ちゃんの第三の目の洞察力に期待してね……」

「うーん。医学の専門家でもない私が、お役に立てるかどうか? どうして私なんですか?」

「それは……、その女性が私たち医者の常識を凌駕しているというか……」

 

 沢口さんが答えあぐねていると、ホムニス教授が助け舟?を出した。

「その女の子、目が青いのよ」

 瞳が青いって言われても、ハーフならあり得るだろ? アルビノのホムニス教授の赤い瞳の方が珍しいだろうとは、敢えてそこには突っ込まない。

 さすが神の記憶を引き継ぐホムニス教授だ。俺が何か言い淀んでいるのが分かったのか、ホムニス教授はさらに話を続ける。

「瞳が青と云っても、虹彩の色ではないんだ。瞳孔の色が青いのだよ。どんな瞳の色でも瞳孔は黒い。これが地球人の常識なんだ。それが海と空の色を集めたような蒼眼、実は彼女、宇宙人だったりしてな?」

「だから、私に?」

「そう昴(プレアデス)も青白く光る美しい星団ですもの」

 なるほど、相手は宇宙人なんだ? プレアデス星団の星の神話絡みになると、俺も行くことになるな……。日時とかちゃんと決めとかないと……。

「それで、沢口さん。香川に行くのはいつ?」

「先方は、速い方がいいってことで、沢井さん、出来れば明日はどう?」

 美優が俺の方を見て申し訳なさそうに言った。

「錬は大丈夫?」

「あ、ああっ、俺も最初から行くつもりだから、明日なら七時からのバイトに間に合えばOK」

「良かった。錬も来てくれるつもりだったから」

「錬、授業より女やバイトが優先って、それ留年一直線のパターンやで」

 うっ、彩さんの言葉は胸に突き刺さる。


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