第176話 当然、片割れとは彩の結婚相手
当然、片割れとは彩の結婚相手、その二人が何らかのチャンスを捕まえて、大儀(藤井家では、再び中央政権に返り咲くことだと捉えていたのだが、下の句、『闇夜に輝く 天の香久山』の意味が分からなかったのだ。
おそらく、大儀を為す時期だとは想像できたのだが、神聖視されている天の香久山が、闇夜に輝くの意味がまったく不明だった。
実際、この句を詠んだ呪術師もトランス状態で、その時、目の前に浮かんだ情景を読んだだけであり、詳細については何一つ覚えていなかった。
そのため、藤井家では、とりあえず彩に伴侶を与えてみて、様子を見ることにしたのだ。
それで彩が16歳になった途端、婚約者候補として、それなりに地位の高い者とお見合いをさせてみたのだ。
しかし、そんな家族に反発を抱いた彩は、現れた婚約者候補に無理難題を押し付け、性根やこれまでの不正を暴き、彩の美しさに求婚してきた輩(やから)を肘鉄を喰らわせてきたのだ。
また、藤井家の者たちも、相手の汚聞(スキャンダル)を暴いたことで、巻き込まれることを未然に防いだ彩を表立って責めるわけにはいかなかった。
そんなわけで、藤井家が大儀を得ようとたくらんだ、彩のお見合い大作戦は大失敗に終わったのだ。
しかし、歌に歌われた「闇夜に輝く 天の香久山」どおりの情景が、今夜目の前に現れたのだ。どちらかと云えば前の時は、彩を擁護する立場にあった母親でさえ、いきり立ったのは当然だった。
「そうよ。あんたが生まれた時に送られたあの和歌と同じ情景だったのよ」
「偶然やろ? それがうちに何の関係があるん?」
「片割れよ! 片割れ。今までと違って、今度こそいい人が現れるていう兆候なのよ。それで、大儀を為す。すなわち、藤井家が中央政権に返り咲くということなのよ!」
「そんなあほな!」
「楽しみにしていて、彩の運命の相手が見つかるから」
「そんなん、どうでもええやん!! うちまだ学生やで」
「遠慮せんでも大丈夫。きっと幸せになるから」
そう言って、一方的に電話を切ってしまった母親。
「たくもうー」そういって彩は会話の内容さえいい加減に忘れてしまいそうだった。
それと云うのも、彩にとっては、学祭のミスキャンまで巻き込んだコトリバコ騒動の疲れと明日の飲み会の方が重要だったのだ。
しかし、そんな彩の気持ちを無視して、2、3日後には新たなお見合いの日程が組まれることになるのだ。
そんな騒ぎの中、もう一つの事件が起こっていた。
何と言うことはない、彩の次の見合い相手が、啓示にも似た直感に導かれ、自分たち一族が代々守り奉っていた神社のご神体を秘密裏に買い求めていたのだ。
◇◇◇
今日はコトリバコの事件が終わり反省会と称して、大学近くの居酒屋「勝っちゃん」に心霊スポット研究会は集まっている。
いつものように鈴木部長の音頭で例会は始まる
「みんなグラス持ったか? それじゃあ乾杯!!」
「「「「乾杯!!」」」」
「いやあ、コトリバコの謎が遂に解けた。まさか、沢登選手と沢村君の野球対決が雌雄を決することになるとはな。しかし、世界の存亡を野球で決めちまうなんて……」
「二人とも野球バカ!」
鈴木部長の言葉に麗さんが辛辣な言葉を吐く。
「まあまあ、沢登さんには今回もお世話になった。それに沢登さんの謎も解けたしな」
「麗の謎って……、まあうちもびっくりしたけど」
彩さんが仏頂面でジュースをすする麗さんの代わりに話に加わる。
「それで、わが心霊スポット研究会も、杉沢村、犬鳴村、キサラギ駅、コトリバコと都市伝説の謎を解いてきたわけだ。それに仲間も留萌さん、沢口さん、ホムニス教授と続々と増えて来た。
どうして僕たちの仲間になったのかは、最初の人物紹介の所を見てくれ、もっと詳しく知りたくなったら、「杉の木の下には杉沢村が埋まっている」「「犬鳴村は来る勿れの関に存在した」「キサラギ駅の当て字は鬼仏駅となるようです」「コトリバコと麗」を読んでくれよ」
いや、部長最後の所は一体誰に向かってじゃべってるの?
「それで、心霊スポット研究会の次の行き先は鮫島にしようと考えているんだ」
部長いきなり次の心霊スポットの行き先を唐突にでてきましたね?
「鮫島って、あのネットを騒がした鮫島事件の真相に迫ろうってことでしょ」
俺の言葉に部員たちもお約束の言葉が続く。
「それは絶対にやばいって!」
「それを知ろうとするものは公安に消されるって!」
「今更それをほじくり返して……遺族の気持ちを考えたことがあるんですか?」
「いやあ、そのセリフは自作自演だから」
部長がそう話す通り、鮫島事件はインターネットの掲示板に書かれたスレが最初だ。「鮫島事件を語るスレ」と称して事件を知らない人の好奇心をくすぐる出だしで始まり、それに追従したスレも「人が死んだ」「公安が絡んでいる」「あれは2ちゃんの闇だ」などと断片的な書き込みが続き、「本当のところは教えてもらえないけれど、何かがあったらしい」と流布されていったスレだ。
もっとも、このスレの最初の数十件は同一人物の投稿で、この事件もシャレだと張本人が名乗り出ているにも関わらず、いまだにこの事件は収束せず、真偽不明の書き込みが追加され続けている。
俺自身も、都市伝説を語ったジョークだと思っている。
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