第170話 しかし、俺も闇鬼神となった十七夜に
しかし、俺も闇鬼神となった十七夜に苦戦していた。
「虎爪牙斬(こそうがざん)!!」
八方に虎杖丸の斬撃を飛ばすが、切れるのは触手のみで本体の方は斬撃を飲み込みさらに強大になっているようなのだ。
「だったら、直接切り刻むのみ!!」
闇鬼神に肉薄して、虎杖丸を袈裟懸けに振り落とすが、
「……手ごたえがない……」
霊気を纏った虎杖丸が届かないなんて……。なら、こいつはどうだ。
「雷爆天!!!!」
虎杖丸から電撃が奔りスパークする。そこで初めて闇鬼神が怯んだのだ。
だが、それだけではこいつを倒すことはできない。何か手はないか。こいつら魂だけの存在を倒す方法は? そんな俺に天使の声が聞こえてくる。
「錬、あの花道に時空の口が開きかけている」
美優の声だ。地鳴り、トンネル、雷。俺の中で一本の戦略に繋がった。キサラギ駅の経験生きる。それらは時空を開くカギとなるものだ。
「十七夜! 魂だけの存在は地獄に落ちて、永遠の苦しみを抱いて懺悔していろ!!」
「雷爆天 マックス!!!!!!」
最大出力の雷が十七夜を襲い、そのままベンチ横の通路に押し込んでいく。その先には時空の口が大きく開き待ち受けていた。
花道全体の空間が歪み、暗雲が渦巻き、電撃が縦横無尽に走りながら、闇鬼神を捕えそのまま時空へと引きずり込もうと口を大きく開けている。
「くそがー!! 」
闇鬼神が最後のあがきとばかりに、花道を埋め尽くすように闇の触手を伸ばしてくるが、俺は神速の剣さばきでことごとく切り落とす。
「往生際がわるすぎるぜ!!!! 雷爆斬!!!!」
「くそがーーーー!! 天帝の罰に怯えて、自滅しやがれーーーー!!」
俺は電撃でできた刃を闇鬼神に向けて飛ばす。それは見事に闇鬼神を真っ二つにして、電撃に捉えられたまま、闇鬼神は時空の口に飲み込まれていった。
「十七夜、天帝は罰を与えたんじゃない。人にすべての可能性をお与えになったんだ……」
時空の口が閉じ、消えていく闇鬼神に向かって俺の中にベネトナッシュが呟いたのだった。
ふうっ、俺は、霊力枯渇で膝を付きそうになった。でも、ベネトナッシュにはまだ仕事が残っている。
俺たちは振り返って反対側のベンチを見た。そこにはただただ美しく表情を無くしたパンドラが立っていた。
俺たちは彼女に向かって歩き出した。
「私は、幽の肉体に宿った十七夜が一番好きでした。人間の可能性に対する慈愛に満ちていて……。ともすれば、十七夜とともに作ったコトリバコの目的を失いがちになるほどに……。
でも、十七夜は言ったのです。もし彼が私の与える試練を乗り越えられないようなら、所詮、人間の可能性など有限なもの。その時はハッカイを使って、もう一度、歴史をやり直させましょうって……」
昔を懐かしむような眼をして俺たちに向かって話し出した。
「あなたたちは見事に十七夜の試練を乗り越えました。私には野球という物はよくわかりません。でも、あなたと十七夜の魂のぶつかり合いは心が震えるほどでした。
そして、幽の肉体を失い、十七夜も冥府へと旅立ちました。でも私はパンドラの匣に最後に残った「不死」を手に入れ、彼たちを追いかけることも出来ません」
そう云うと、赤い瞳から涙があふれ、真っ白いまつ毛を濡らしながら、ほほを伝った。
思わず心奪われる美しさだ。なんか浮気したような気がして美優の方を見たが美優も美しさに心を奪われているようだった。
ちょっと安心した。男女を問わず心惹かれるんだ。だがそんなことより聞かねばならないことがある。
「パンドラさん。美優以外の少女たちはどうなったんでしょう?」
「ああっ、ご心配を掛けましたね。すでに岡島大学病院のベットで眠っているはずです。後はこのアンプルを打てば目を覚ますはずです。それに、私の力であの誘拐事件そのものもなくなっています。この甲子園の騒ぎもね」
どうやら、彼女たちも全員無事だったようだ。俺がパンドラからアンプルを受け取り、安堵すると今度は鈴木部長が前に出て話を始めた。
「パンドラさん。あなたはパンドラの匣を開けたことを後悔しているみたいですが、そんなことはありません。天帝は人類の可能性に掛けて匣をパンドラさんに与えたのです。もしパンドラの匣が開けられていなければ、人類は未だに木の実を食べ、自然に怯える太古の生活をしていたんですよ。
暴食、色欲、強欲、憂鬱、憤怒、怠惰、虚飾、傲慢、すべてのものは人類の進化に必要な物だったのです。もし、仮にそれらのもので人類が滅んだとしても、天帝は人類の可能性に賭けてみたかったんでしょう。もし、天帝に間違いがあるとしたら、それはあなたの卓越した美しさでしょう。誰もがあなたを欲し望んだ。それがあなたを苦しめた。でも、あなたには帰る場所があったんです」
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