第157話 それから大学も学祭一色で

 それから大学も学祭一色で慌ただしく過ぎて、アッとゆう間に学祭当日を迎えた。

 オリジナリティ溢れる模擬店に展示それにパフォーマンスと歌っているが、どこの大学も同じ内容なのだろう。見慣れた景色が目の前に広がっている。そして少し内容に注目すると身内で盛り上がっているだけの内輪びいきの連中の乱痴気騒ぎだ。

 もし、俺がサークルに入っていなければ、こんなところには決して出てこないだろう。

 まあ、俺たちもそこのところは変わらない。文化とはかけ離れたミスキャンパスに最大限力を入れている。たまに模擬店の中から声を掛けてくる顔見知りの連れを適当にあしらい、ミスキャンの会場である第一体育館に足を運ぶ。

 体育館の入り口には、ミスキャン候補の写真とプロフィールが並び、そのレベルの高さを競い合っている。

美優、麗さん、留萌さんはその中でも群を抜いていると思うのはやはり身内びいきか……。

 プロフィールにはバスト・ウエスト・ヒップのサイズも書かれている。付き合っている俺が知らないことをみんなに晒すってっていうのはどうなのと感じるが、そこに目が行ってしまうのは男として仕方ない。

 美優のスリーサイズは、上から85・58・86、留萌さんは88・60・88、麗さんは80・54・84となっている。全員モデル顔負けのプロポーションだ。

 但し、このサイズ、必ずしも留萌さんのバストが一番大きいとは限らない。大事なのはアンダーサイズと何カップかだ。麗さんを除くと、推定Dカップ前後、あと形も大事で、おわん型、釣り鐘型と彩さんからロリィファッション売り場で仕入れた受け売りの知識を確認しながら、最後にホムニス教授の写真を見て、そんなことはどうでも良くなってしまった。

 真っ白い髪に赤い瞳、陶磁器のような肌はどこまでも白く、整った顔は精巧に作られた人形のような顔立ち。そして最大の特徴はまるで生気が感じられない、喜怒哀楽を超越したような次元の表情。人と人との営みで造られたのではなく。例えるなら宝石のように大自然

の営みによってつくられた表情。

 すべての造形が神秘性を増し、人々を魅了する人を超えた存在。

 俺の直感は彼女の存在に畏れた。すくんだ足が一歩も前に出ようとはしない。

 そんな俺は背後から人に押されて、人の流れに沿って体育館の中に押し込まれたところで、やっと自分を取り戻した。

 体育館の中はすでに、立ち見がでるほどの盛況ぶりだ。

 確か、メールで最前列に席が取れたと在ったが……。

 キョロキョロと周りを見回しながら、前の方に進んでいくと、俺に向かって手を振る彩さんが見えた。人をかき分けながらやっとそこにたどり着いた。

「近い所で見ていないと不測の事態に対応できんからな」

「まったくその通りです」

 彩さんの言葉に、ホムニス教授の写真に圧倒されていた俺は、今日の本来の目的を思い出す。

 舞台の下にいる俺のなすべきこと、それは十七夜教の横やりを防ぐこと。そう考えて舞台の上を注意深く視線を飛ばす。

 まだ、舞台の上には美優たちは現れていない。照明の上、舞台袖、怪しい気配も人影もない。もっとも、あのフードの男だけは俺の力でも感知することはできなかった。それほど得体の知れない男だ。警戒するに越したことはない。

 舞台の上では、司会の女性アナウンサーが一〇人の審査員を紹介している。

 この人たちがミスキャンの審査をするようだ。

 みんなこの大学のOBで、経済界での成功者みたいだ。テレビ局の重役や新聞社の重役、一流企業の社長に、今をときめくIT企業の社長とかそうそうたるメンバーだ。

 さすが地方国立大とは云え歴史は古いだけはある。

 そんな人たちが協力するこのミスキャンパスはそれなりに知名度が高く、就職にも有利に働くらしい。これは彩さん情報だけど……。


 そうやって司会者がトークで盛り上げる中、いよいよ、ミスキャンの候補者たちが舞台の袖から現れて来た。

 ます、最初に出て来たのは、自薦組の三人。それぞれ成人式で着るような振袖、ただし柄はモダンで今風の頭の盛り具合で、それなりに上手くまとまっていて美しい。

次は美優が登場していた。白衣(はくえ)に緋袴(ひばかま、)長い髪を檀紙と呼ばれる紅白の和紙で纏めて水引で髪留めとした美優が登場した。おしろいを必要としないぐらい白い肌に、目元と口元には朱が施され、近寄りがたい完璧な清楚さが漂っている。

 そして、続いて登場した留萌さんも美優と同じ服装ながら、その日本人離れした顔立ちと小麦色の肌は、日本古来の正装とのギャップさえ逆手に取り、巫女の神秘性を高めている。

 後に続くのは教育学部、そしてその次には麗さん。本職の完璧な着こなし、凛とした表情には全く隙がなく、神に仕える決意が瞳に宿る浮世離れした美しさだ。

 三人とも、そばに立つアナウンサーと遜色がない。と云うかひいき目抜きでも勝っていると思う。

 

 そして最後に登場してきたホムニス教授は、舞妓さんの恰好をしていた。アップにした白髪(はくはつ)に白毛(はくもう)のまつ毛と眉毛、目元にだけ赤いラインが入った肌は白磁器のように滑らかで、それでいて触れると硬質な印象を与えている。

 本当に生きて呼吸しているのか? 現実離れしたその美しさに会場からはため息が漏れた。

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