第156話 勝てなくてもいい

「勝てなくてもいい。ハッカイが優勝者に渡される瞬間、神水を振りかけ、破壊する」

「うん、私たちも麗さんと同じ考え! だから、ミスキャンに出場すると決めたの」

 ミスキャンに出るという三人の意図が、今分かった。なるほど、ハッカイを破壊し使えなくする方法は、麗さんが言った神水で清め妙見久呪で破壊する方法しかない。愛宕神社でハッカイに虎杖丸が弾かれたことでも、他の方法はないと考えていい。

 優勝者の手にハッカイが渡る瞬間を最大のチャンスとみて行動を起こす。後で騒ぎになるかも知れないが、大事の前の小事。この作戦は理に適っている。


「それしか方法がないか……。だったら部隊の上の人数は多い方がいいな。どんな邪魔が入るか分からないし」

「部長、どんな邪魔が入ろうとも、俺が守って見せます」

 俺の力強い宣言に誰もが納得したように頷き返してきた。

  

 あとはミスキャンの要綱の内容の吟味に入って行く。服装は和装と洋装、さすがに水着審査はないみたいだ。例年では、和装は大体成人式の振袖で、洋装は可愛らしいロリィファッションかガーリーファッション、中には大人ぽく決めるフェミニンファッションらしい。

 じゃあ、心霊スポット研究会代表はどんなファッションにするかと云うと、和装は岡島神社で借りる巫女姿、それに三人とも日本人離れした顔立ちとスタイルだし、可愛らしさを前面に出したロリィファッションでいくことになった。

 そこまで話が決まると、ミスキャンの募集要項にあるQRコードを読み取り、みんな写真付きのエントリ―シートをスマホから学生課に送信した。


 そういった訳で、俺と美優そして留萌さん、放課後駅前のショッピングモールに来ている。

 昼間言っていたロリィファッションの服を買いに来ているのだ。そこになぜ俺がいるのかと云うと、色々試着するから意見を利かせて欲しいと美優に訴えられたからだ。女の子二人だと趣味が偏るということだが、そういうのは前年度ミスキャンの彩さんにお願いすればいいと思うんだけど、男の人の目線でアドバイスが欲しいといって強引に連れてこられた。

 そんなわけで、ロリィファッション店をうろついているんだが、この場違い感が半端ではない。店員さんの視線は痛いし、あえて視線を合わせないようにしているんだが、この売り場には下着も置いているし、フリフリのレースに囲まれて、目のやり場にも困っている。

 そんな中、試着室から呼ばれるために店の奥まで入って行かなければならないし……。

 でも、試着室のカーテンを開けてフリフリの服を着てくるっと回ってくれる美優や留萌さんは、まるでフランス人形のようにロリィファッションが似合っている。

 感想を求められても、ボキャブラリーが少ない俺は「似合っている」か「可愛い」としか言葉が浮かばない。

 不服そうに上目使いで二人に見つめられると、もう直視さえできなくなる。

 俺のその態度が二人を不安にするのか、二人のファッションショーは相変わらず続いている。


「あれー、錬君やん! なんでこんなところにおるん? まさか、 女装の趣味とか?!」

 このクリアな声は……。声の方に振り返れば、そこには彩さんと麗さんが立っていた。

 やっぱり……。彩さんの声って良く通るから、こんなところで訳の分からないことを言わないでほしい。周りの人の目が白くなったような気がする。

 冗談とは分かっているが、周りの人の誤解を解くためにも言い訳をしとかないといけない。

「違いますよ。美優と留萌さんの買い物に付き合っているだけです」

「ああっ、そうか。ミスキャンで着る服やね。うちの時はイカン女教師のせんで攻めたんやけどね」

 彩さんの言葉を聞いた途端、俺の脳裏にいつもはポニーテールを下の方で括って、紺のスーツから大胆にワイシャツのボタンをはずして、ミニのタイトスカートから伸びるパンストに包まれた足を想像してしまった。

 それも悪くない。彩さんって大人の色気ムンムンだからな……。

「どしたん? 錬君。見たいんやったら今度したるで」

「いや、そんなことは……。それより、今日は?」

「錬君たちと同じ。麗の服を観ようと思って。ほら、麗ってうちと違って小柄やし、色白で童顔やから、こんなゴスロリの方が似やうんちゃうかと思うて」

 ゴスロリって、この人、巫女と魔女っ娘の違いが良く分かってないよ。というかまったく別物なのに、日本の巫女が西洋にいったら魔女っ子になる発想だな。

 そういう麗さんは麗さんで、ガターベルトやスカートの中を色々とひっくり返してみている。

「彩さん、あれは?」

「さあー、訊いてみれば……」

「あの、麗さん。何してるんですか?」

「銃を隠すところはどこかなと見ている」

「はあ? なんでそんなことを?」

「テレビで女スパイとかが良くやっている。神水を隠すのにちょうどいい」

「なるほど、うちはそこまで考えてなかったわ。盲点やな」

 彩さん、盲点って。その言葉に反応した声が後ろから二つ。

「本当だ。そこまで考えていなかったわ」

「ほんと、私たち、優勝しなくても良かったんだよ」

「つい楽しくって、色々試着しちゃったね」

「そういうことやったら、美優ちゃんはそのふわっとした藤色のスカートにズレないように白いタイツと白のガターベルト、すぐに神水が抜けるようにスカートは短めがええな。 

 瑠衣ちゃんはそのおおきなフリルが重なった白いスカートに槐(えんじ)のタイツとガーターベルトがええんちゃうん。

 麗はその黒い広がったスカートにフリルのレースがあしらわれているやつ。タイツとガターベルトは黒一択やな」

「「「うん。そうだね。私たちの目的は着飾ることじゃなかったよね」」」

 あれだけ迷っていた美優と留萌さんが彩さんの一言で納得してしまったみたいだ。もちろん麗さんも……。俺の存在ってなんだったんだ?

「錬君、このショッピングモールでモデルガンを扱こうている店ってあるかな。そこやったらレッグホルスターが売ってるかも」

「確か、五階のおもちゃ売り場の隣にそういう専門店が在ったはずです」

「ほな、次はそこに行こ」

 彩さんと麗さんの登場であっさりと決まった俺たちだったが……。彩さんの選んだ服はちょっとエッチぽくて、すっごく可愛いので、俺は十分に優勝を狙えると内心は確信していた。実際にホムニス教授を見るまでは……。

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