第155話 俺は二時限目の授業を自主早退して
俺は二時限目の授業を自主早退して、学食の一番奥の目立たない席に陣取っていた。教科書持ち込み可の単位楽勝授業だ。すでに出席者は定員の半分ほどになっていて大講義室の席は半分ほどしか埋まっていない。
俺も後ろの出口からこっそり抜け出して、今こうしてここに居るわけだ。授業が終わるまで後三〇分。俺は心霊スポット研究会のメンバーのラインに「座席確保」と打ち込んだ後、スマホを操作しながらみんなの来るのを待っていた。
そこにやった来たのは、鈴木部長をはじめ心霊スポット研究会の男性陣、それに彩さん、理工学部は少しここから離れているので遅れて来た麗さんだ。
「沢村、授業をさぼった甲斐があったな。いい場所を取ってあるじゃん」
山岡さんがAランチのトレーを運びながら俺に声を掛けて来た。
「山岡さん、まあ、あまり人に聞かれたくない話ですし……。それに、女性陣が揃うと目立ちますから」
今や彩さん、麗さん、美優は時の人だ。そんな三人が揃っているとなると、注目を集めてしまうのは間違いない。
「そうだな。そろそろ話を始めるか?」
「ちょっと待ってください。俺も飯買ってきますから」
「あれ、沢村まだ食ってなかったのか?」
「当然だろ。先輩方を差し置いて先に飯食う訳ないじゃん」
「錬君、さすが後輩! 愁傷な心がけやん。お姉さんが後でいい子いい子してあげる」
彩さんが愛情たっぷりな声で俺に向かって言った。結構良く通るクリアな声質のため、周りの男が一斉にこちらを見た。彩さんはめちゃくちゃいい笑顔で俺の方を見ている。いたずらっぽい笑顔。俺を困らせるのが大好き……。
これもネタなのか? 面白ければ何でもいい根っからの関西人だ。
俺は目つきを鋭くして周りを見渡す。注目していた連中はみんな視線を逸らしたり、作ったように話題を口にし出した。また、俺の目つきが周りの人を威嚇してしまった。
最近、俺を怖がる人と接触する機会がなかったから目つきの悪さを忘れていた。
「じゃあ彩さん。飯、買ってきますので、後でいい子いい子してください」
「うん、分かった。ホテル予約しておくね」
なんか周りが下を向いている。このまま彩さんのペースに巻き込まれると飯を買いにいく時間がなくなる。俺は彩さんを無視して食券機の方に歩いていた。
苦笑いをしている鈴木部長が、学生課から貰った一枚の紙(ミスキャンパスの募集要項)を示しながら、話題を変えたみたいだ。
俺がカウンターで中華定食を頼んでいると、学食中に驚きの大きな声が響いてきた。
これは俺たちのテーブルの方だ。あの冷静な鈴木部長が驚嘆の叫び? 一体何が起こったんだ?
そこに遅れて来た美優と留萌さんと鉢合わせた。
「錬、遅れてごめん。なんかテーブルの方で大きな声が聞こえたけど?」
「いや、俺もなんでかは……? とにかく行ってみよう」
俺たちがテーブルに戻ってくると、部長が麗さんに問いただしている場面だった。
「それで、沢登さんはこのミスキャンパスに出場するのか?」
「うん。ハッカイを取り戻す。それに何かの時に近くにいた方が対応できる」
「何かの時って……?」
「周りが不穏な動きを見せれば、すぐさま神水をぶっかけ、破邪の久呪を切る」
「……なるほど……」
「あの……、私もミスキャンに出ようと思う……」
「えっ、留萌さんも?!」
「うん。さっきまで私たち学生課に居たのよ。「私たちが寄付したんだから、寄木細工飾の箱を返してもらえないかって」。そしたら、この箱をミスキャンの賞品にしようと打合せしていた時、ホムニス教授が興味を持ったみたいで、ホムニス教授自身が承認した挙句、ミスキャンに出るっていいだして、今更引っ込めることが出来ないって言われたの。
さすがに私たち、あんな場所にあった物を気楽に寄付しちゃって責任を感じているの」
確かに、あの勿来の関はアイヌ民族の虐げられた歴史の上に立っている。そんな歴史がある場所なら、過去にコトリバコがあっても不思議じゃない。きっとイッポウやチッポウは過去に何度も使われ、未だに東北のどこかに在るのかも知れない。
「ふーっ」
鈴木部長が深いため息を吐いている。
「しかし、この学祭実行委員にホムニス教授が一枚噛んでいたとはな。ほとんど研究室から出ない深窓の令嬢。たまにメスを振るうと神の手(ゴッドハンド)と異名をとる天才外科医。
まして年齢から言えば三〇歳をゆうに超えているはずなのに二十歳のような年齢不詳の美貌、おまけにアルビノ特有の真っ白い髪に赤い瞳、その神秘性と相まって、大学ではアンタッチャブルな存在として、誰もあえて話題にしないしなあ~」
「その彼女がミーハーの極みみたいなミスキャンに出馬するなんて考えられるか?」
「ほんま、確かに人を魅了する形状なんやけど、彼女がハッカイに魅了されるなんでな。これは強敵やで……」
鈴木部長、山岡さん、彩さんがホムニス教授について語ったので俺たち一年生にも大体の事情が呑み込めた。
大杉も同じように事情が分かったのだろう。しかし、強気に出るだけのカードがこちらにもある。
「でも、こちらも三人も超美人が出るんだし……、そのホムニス教授っていい歳なんだろう? 問題なく勝てるんじゃないか?」
「さあな、俺もそうだが大杉だって実際にはみたことないだろ? 噂だけが先行している人だからな」
大杉の強気な発言は、山岡さん曖昧は発言を否定することはできない。
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