第126話 エピローグ

 ◇◇◇


 あのキサラギ駅騒ぎから一か月が過ぎた。幸いあれ以来、あれほど頻繁にあった列車の飛び込み事故は無くなった。しかし、前期試験の方はというと、まあ、まだ後期試験がある。とにかく試験前にバタバタしていたから。それでも、キサラギ駅を題材に監察医の社会的意義を取り上げたレポートは提出に間に合い、それなりの高評価を貰うことも出来た。

 もちろん、レポートにはキサラギ駅のことは具体的には書いていない。あの地獄めぐりを書いたって、ファンタジーと笑われてしまうだけだ。沢口さんから色々な監察医の話を訊いて事件解決に向かった話を現場の声としてまとめたのだ。

 それで、沢口さんからあの後の飲み会での話もついでに聞いたのだが、なんと、美優の次は麗さんがやり玉に挙がっていたのだ。

 確かに、麗さんの心霊に関する能力や知識は半端ではない。何のために、そんな力を得ようとして修業しようとしたのか麗さんに質問が集中したらしい。

 その状態で、麗さんは特に隠すこともなく、ケロッとその秘密を吐いたらしいんだ。

「私の使命は、ハッカイの完成を阻止して呪いを止めること。そのために密教の修行をしてきた。今、神社には私が封印したイッポウからチッポウまで回収できている」

「ハッカイ、それにイッポウ、チッポウだって? それって、都市伝説のコトリバコのことじゃないのか? あの都市伝説の呪われた呪具の上位に間違いなくランクインするコトリバコだよな?」

「コトリバコ? それって何? ランクインするかどうかは知らない。でも呪いは強力」

「そうか、でもコトリバコで間違いないだろう。じゃあ、心霊スポット研究会の次の目標はコトリバコを求めるツアーにしよう。こんなところで次の目標が見つかるなんてな」

 どうやら、部長はめちゃくちゃ乗り気だったらしい。周りのみんなも、いつものことだと部長の言葉に対してリアクションの準備をしていたらしい。しかし、麗さんの声は冷たかった。

「あの組織と戦うことになると、今までのは只の遊び」

「杉沢村や犬鳴村、それにキサラギ駅の踏破が遊びだって?」

「そう、これに首を突っ込むのはあまりに危険。密教系の最大の奥義に久呪(くじ)呪法がある。妙見神社は表密教の八封久呪(はっぽうくじ)、敵対する宗派は八開久呪(はっかいくじ)」

「封じると開くか……。コトリバコを中心に呪いを封じる組織と振りまこうとする組織が対立しているということか……」

「ハッカイは、悪魔の呪具。世界を滅亡させる力がある。そのハッカイを完成させようとしている裏密教団こそが一七夜教(かなぎきょう)」

 麗さんの言葉に、周りはしーんとなる。そしてしばらくの沈黙の後、その沈黙を破ったのは鈴木部長だ。

「かなぎ教?」

「そう、かなぎ教。十七夜(じゅうななや)と書いてかなぎと読む」

「十七夜……。陰暦の十七夜のことか? 確か叶(かの)うとかまたは立待月(たちまちづき)とも読めるはず。望みがもうすぐで叶うと云う意味なのか? コトリバコを使って……。もうすぐ何かとんでもないことを起こすのか……? ここは慎重に行動しないとな……」

 その後、例会は重苦しい雰囲気のままお開きになったらしいのだ。


「沢登さんは、子どもの頃から、その密教の修行をしていたそうです。妙見神社に伝わる伝承を信じて……」 

 そう言って沢口さんは話を終えた。

都市伝説のコトリバコ……、 それを漢字で書くと子取り箱だ。確か幼子を使用する蟲毒の一種だったはず? その呪いは女性限定だったはずだけど……。そのコトリバコを、天帝を祀る妙見神社が総力を挙げて探し封印している。

 コトリバコと天帝を祀る岡島神社? 一体どんな繋がりがあるんだ? 箱と云えばハンドラが思い付くんだけど……。

ああっ、そうか、この世界が何度も滅亡に危機に瀕し、その度に文明を一からやり直しているのは、パンドラの箱が開けられたからだと云えるわけだ。きっと、プレアデスではこんな物騒な箱なんか存在しなかったから、平和で愛に満ちた世界を作ることができたんだ。

なるほど、この絶望の箱が再び開けられようとしているのなら、

俺はプレアデス星人から転生した美優が望む世界に、少しでもこの地球を近づけるためなら……。

俺は部外者のフリをしてやり過ごしたいのが本音なのに。鈴木部長の荒唐無稽な仮説を無性に聞きたくなっている。

 俺の胸は激しくざわつくのだった。




 完


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

第三章、キサラギ駅編、完結です。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

第4章はコトリバコ編です。そして、謎の霊感少女 沢登麗さんの生い立ちにスポットが当たります。そして、沢村錬のラストのウィニングショットは?

煽っておいて、しばらく更新を停止します。

復活したら、また、応援をお願いします。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る