第17話 な、なんだよ~!! ゾ、ゾンビか?!

「な、なんだよ~!! ゾ、ゾンビか?!」

「ばか、くだらんことを言ってる場合じゃない。あいつを助け出すんだ!!」

「そうだ、そうだ!!」

「早く武器を出せ!!」

「あいつらは、頭をぶち割れば、死ぬぞ!!」

 口々に叫び、今目の前に起こっている非現実に向かって鼓舞する。考えるのは後、今はこいつらを蹴散らし仲間を助けることが先決である。

 そして、相手がゾンビなら松本たちは、やつらの弱点を知っている。

 まずは階段を駆け下りながら、ゾンビに向かって強力な催涙スプレーを噴射する。

 しかし、ゾンビには全く効いている気配がない。もともと目が潰されているからだが、それでも、腹に空いた穴や潰された目など粘膜が出ている場所には効きそうなんだが、奴らには痛神経が通っていないらしい。

 階段を駆け下り、一階の踊り場、いよいよ奴らに手が届くほどの距離になった。

「ちっ、頭をぶち割ってやる」

 奴らの頭めがけて、バールを渾身の力で振り下ろす。が、しかし、奴らは少し動きが緩慢になるだけで、手を伸ばして捕まえようとしてくる。

「な、なんだよ。確かにいまバールの先が頭に突き刺さっただろうが! なんで動けるんだよ」

 手足が在らぬ方向に曲がっているため、ゾンビたちの動きは鈍い。それを不便に思わないのかゾンビたちは強引に進んでくる。その動きは、道理に合った動きしか見ることに慣れていない松本たちには不気味の一言だ。


 しかも、軍服を着た軍人は、日本刀を振り回して切り付けてくる。

「武器を使うゾンビなんて……」

 その行動は松本たちの常識を超えている。常識が通じないない相手、その行動が理解できないだけで、松本たちの理性はタガが外れ恐怖が噴き出す。

「「「「うわぁー!!!!」」」」

 恐怖を克服しようとして、ゾンビたちの群れに飛び込んでいく者。恐怖からのがれようとやみくもに逃れよとする者。

 そして、松本は後者だった。我先にゾンビたちが上がってきた階段の反対側、出口へと突っ走る。間一髪で、両側の部屋から飛び出して来たゾンビの攻撃を掻い潜り、なんとか出口の扉にたどりついた。

 しかし、松本と同じように逃げ出した者たちは、部屋から出て来たゾンビとの交戦になった。人知を超えたゾンビたちの怪力と頑丈さ、いったん掴まれば、刃物を刺そうが頭を潰そうが関係ない。その怪力でつかんだ箇所の肉を握り潰し、引きちぎり、興奮するように唸り声を上げている。ゾンビの群れを潜り抜けた松本を除いて、他のヤリサーメンバーは、五〇人近いゾンビに前後を挟まれ、逃げ道をなくしている。木刀を振り回し、バールを振り回し、ゾンビたちに反撃を試みるが、振り回す得物をよけようともせず、ただひたすら相手を掴もうと両腕を伸ばし、動きを封じこめようと得物を持つ手を攻撃してくる。

 連携もくそもない、ただ数で押す暴力に、一人また一人と犠牲になっていく。

 もちろん、外に逃げようとする松本を追いかけるゾンビも、ゾンビの追撃を何とか振り切り松本と同じように外に逃げようとするメンバーの仲間もいる。

 松本は、迫りくる恐怖と戦いながら、両開きの玄関の内カギを開けた。

「やっと、開いた」

後ろを振り返れば、目を潰され耳も潰され、うなり声を上げている口は大きく開いたまま、よだれをたらして、両腕を前に伸ばし近づいてくるゾンビたち。

「こいつらなんで俺を追いかけてくるんだよ。そこに獲物がいるだろうが!! そうか匂か? 人間の匂いが獲物の場所をゾンビに教えているのか?」

 少し冷静になった松本は、なぜゾンビが人の存在が分かり、追いかけてくるのかを思考する。それと言うのも自分だけがこの建物の外に出ることに成功したのだ。

 中にはまだサークルの仲間がいる。そして、ゾンビに腕の肉、肩の肉を引きちぎられながら、その手を逃れ、松本を追って逃げようとする仲間の姿も目に入っている。

 しかし、松本は、両開きの扉を閉めると、持っていたバールを扉の取っ手に通し、閂(かんぬき)の要領で固定した。

 松本に続こうとしたメンバーは、扉に体当たりして、扉が開かないことに絶望の声を上げる。すぐ後ろには、ゾンビの群れが迫っている。先ほど肉体の一部を犠牲にしながらやっと逃げることができたのに。

「松本!!!!」

 その場で男たちは、ゾンビのタックルに転がり、転がったところに、何人ものゾンビがのしかかってくる。

「くそがー!!」

松本への恨みを声の限りに叫ぶが、どこからか伸びてきたゾンビの手が男の口の中にねじり込み、そして顎を思いっきり掴んで下に引く。

「あががっ!!」

男は顎を外され、言葉にならない阿鼻叫喚の叫びを口にする。


 扉の外では、松本は呼吸を整えていた。

「これで、しばらくは時間が稼げる。もう、あの周りの絶壁を乗り越えて逃げるしかないな」

 そう呟(つぶや)いて、見ていた扉の向こうで、ゾンビたちの体当たりが始まっている。頑丈なゾンビたちは体が傷つくことなど気にせず体当たりをかますのだ。バールはともかく、閂の受けになっている取っ手の方はそんなに長い時間持ちそうにない。

「よし、行くぞ」

 松本は逃げるべく振り返ったところでその光景に絶望する。いつの間に集まって来たのか扉の外には、松本を囲むように、五〇人以上のゾンビが両手を伸ばして近づいてきている。

 このゾンビたちの格好は先ほどの日本軍人のような恰好ではない。もっと古いボロボロの麻の直垂(ひたたれ)にくくりハカマ 足は裸足で、まるで平安時代の庶民のような恰好をしている。そして、ゾンビの中には、鉈(なた)や鎌(かま)、そして鍬(くわ)を手に持つ者もいる。

 そんな光景を見て、松本は言葉を吐き捨てた。

「……建物の外にもいたのか……」



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