第8話 そして、心霊スポット研究会の女性が

そして、心霊スポット研究会の女性が早々と席を立ち、連れだって出ていく。

 他の人も同じ方向同士、それぞれタクシーを呼んだりして帰り支度を始めている。

 さて、俺はどうしよう。俺は下宿じゃなく自宅から通っているが、自宅は電車やバスの路線から外れている。だからといって酒を飲んで、バイクで帰るわけにはいかない。

 先輩たちの話だと、この時期、新歓コンパを狙って、警察があちこちで検問しているらしい。

 どうしようかと考えていると、部長が声を掛けて来た。

「沢村君。君大沢高校の出身だろ。学区から言えば、ここから結構離れているし、良かったら、部室に泊まらないか? 部室棟なら二四時間人が出入りしているし、確か寝袋が在ったはずだから」

「ああっ、助かります。雨風が凌げれば贅沢は言いません。そこに止めてください」

「よし、じゃあ案内するよ」

 俺は部長と連れだって居酒屋を後にする。部室棟に向かう道すがら、訪ねてみた。

「部長も一緒に、そこに泊まるんですか?」

「いや、俺は下宿に帰るよ。あんな汚いところで寝るのはごめんだよ」

 なんだよ。自分が無理なところに俺を泊めさせるのか。俺も部長の下宿に泊めてくれよ。しかし、心の抗議は敢えて声には出さない。遇ってまだ一日、俺もそうだが、部長だってそこまではまだ心を許していないだろう。そう考えると、藤井さん、いやもう彩さんでいいか、は少し慣れ慣れしすぎると思う。免疫のない男の子はすぐにその気になるものだから……。


 *****************


 一方、心霊スポット研究会の隣の座席では、六時過ぎから沢井美優に付きまとっていたヤリサーのメンバーが同じように新入生を招いて新歓コンパを始めていた。

 こちらの方は、男が五人、新入生と思われる女性が三人。テーブルを囲んで盛り上がっていたが、開始三〇分ほどで、女性の方はすでに酔いつぶれ、テーブルの上にうつ伏していた。

 女性のグラスには、医学部生が病院から盗んで来た睡眠薬が混ぜられ、すでに女性たちは昏睡状態に陥っている。すでに何をされてもわからないお持ち帰り玩具(おもちゃ)が出来上がっていた。

 そして、男たちは、偶然となりの座敷が心霊スポット研究会の座敷であることを、トイレに立った男から聞いて知っていたのだ。

 その後は、敷居のふすまに聞き耳を立て、ずっと心霊スポット研究会の様子を伺っていたのだ。


「今年の新入生もかわいい子がいないな。なんでこのサークルには上玉が居ないんだ。隣のサークルには超上玉の藤井彩と沢登麗、それから例の新入生がいるのに!」

 男は、うつぶしている女性の隣に座り、ブラウスのボタンをはずし、手をその隙間から忍び込ませて、女性の乳房を弄んでいる。

「松本さん、あの新入生の沢井とかいう女は、こちらからも声を掛けたんですが、邪魔がはいって……」

「ばかやろう。あの沢村ってやつだろう。さっさと引きはがして連れて来いっていうんだ!」

「そうは言っても、人目につく犯罪まがいのことができないし、あの沢村ってやつもなんかアブなそうなやつで、人前で刃物でも振り回されて警察沙汰になると、こちらのやっていることもバレバレになっちゃいますし」

「確かに、俺たちのやってることはあくまで密室でなきゃあならん。そこで、やっちまった後は、行為のばっちり写っているビデオを見せて脅かせば……」

「なんでも言うことを聞く肉奴隷の出来上がりというわけですね。それにしても、松本さんこんな悪いこと何年もよく続けますよね」

「あん、俺は二留していま三回生なんだよ。大体こんな面白いこと辞められるかよ。金に困れば、撮ったビデオを地下マーケットに横流しすりゃいいんだから」

 松本の手に力が入ったのか、意識のないはずの女が喘ぎ声をあげる。


「それにしても、この大学にあんな美人がいたなんてな。去年のミスキャンパスで初めてみた藤井、いつか俺の物にしてやろうとしたのに……」

「奴らが行く心霊スポットに先回りして、脅かして怖がって腰が抜けたところで俺たちが助けに入って仲良くなる。後はいつも通り酒に酔わせてという計画も、うまく撤収されて失敗しましたしね」

「そうなんだ。奴ら最初のうちこそ、女を置いて逃げ出したようだが、最近じゃ女を囲むように、全員でうまく撤収しやがる。くそ生意気な沢村とかいうやつともども男は全員ぶち殺して、女だけさらうか?」

「そこは俺ら学生なんで最後の手段で……。今回は、あの杉田ってやつを協力させてうまくやるんで。何しろあいつ、あの沢井って女に惚れてるみたいで、同じ大学に来たということが、憧れから執着に変わったみたいで」

「何度か会ったけど、あの人の好さそうな奴がな。執着って感情は怖いなよな」

「沢井とやらせてやると言ったら、簡単に俺たちの言うことを聞くと思うんです」

「杉田?」

「ああっ、俺と同じゼミの後輩で、時々世間話にかこつけて、心霊スポット研究会の行き先を聞き出していたんですよ。今度は本格的に仲間に引き入れます」

「なら女を一人あてがえ。共犯にしとけば後には引けんからな。まあ、美優っていうやつは最初はわしだからな。後は好きにしろ。あの三人、理性が壊れるほどたっぷりかわいがってやる」

「おいおい、杉田まで壊れずにもってくれるかな……」

 男たちの下品な会話はまだまだ続く。


「おいそろそろ帰る時間だ。そこの玩具忘れて帰るなよ。初物は少々形が悪くてもごちそうだからな!」

 最初の下品な会話の初々しい反応から、女の子たちは処女だろうと当たりをつけていたのだ。

「「「「はははっ、そりゃそうだ!」」」」

 よからぬ企みを胸に、昏睡状態の女の子を背負って、ヤリサーの男たちは居酒屋を後にする。


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