第22話 金楼館
強引に連れて来られた金楼館って店は・・・まあ、名前負けしてない金ピカな外装の宮殿みたいな造りの店だった。これ絶対高いやつだ・・・
「いらっしゃいませ!ダルス様!アタル様!シーナ様!」
ええ!?いつの間に俺やシーナの名前を?てか、10人以上が御出迎え・・・一斉に頭を下げる光景は壮観だった
圧倒され、足が止まる俺の背中をダルスは思いっきり叩きやがった・・・口で言え口で!
「ビビんな、背中を丸めんな、顔を上げろ・・・出迎えに対して出迎えられる立場を知れ・・・店が客を作る・・・客は店にもてなされる・・・その関係が崩れれば店の格が落ちるってもんよ」
おん?店が客を作る?なんだそれ・・・
「格式ある店にはそれなりの客しか来ねえ・・・安心しろ、こういう店はそれ以下の客でも身を任せればそれなりに仕上げてくれるさ・・・だからビビんな」
「ダルスさんが来てる時点で格式どうこう言われても説得力で欠けるんだが・・・」
「違いねえ!・・・殴るぞ?」
殴ってから言うな馬鹿力ジジイ!・・・とにかく堂々として店に従えって事か・・・飯食うだけならそこらの店で良かったんだけどな
店員の案内でテーブルにつくとすぐに料理と酒が運ばれてくる・・・まるで当然の如く運ばれてくるが俺らが来る時間とか分からなかったはず・・・それなのに何の淀みもない
「ご希望があれば都度・・・それではご歓談下さいませ」
そう告げると部屋には店員が全て居なくなり、俺ら3人が広い部屋でポツンと残される。シーナは緊張して震え、ダルスは遠慮なく酒をあおり飯を食らう
俺も前に出された小皿の上に乗った一切れの肉をフォークで刺して口に運ぶ
・・・う、美味い・・・肉もそうだがかかってるソースも甘過ぎず辛過ぎず絶妙なバランス・・・多分この肉にはこのソースが合っているのだろう・・・他のソースではここまで美味しく感じられない・・・と思う
「肉は塩が一番だが・・・まあ、このソースもいけるな」
黙れジジイ
「あ、その・・・美味しいです」
そうだねー、美味しいねー
「まあ、これに関してはアタルに感謝だな」
モグモグ・・・ん?どういう意味だ?
「何せ上位種の肉など滅多に食えん・・・ポンポン出てくれりゃあ俺が狩ってやるが」
上位種・・・モグモグ・・・俺に感謝・・・モグモグ・・・肉・・・肉ぅ?
「まさか・・・この肉・・・」
「おう!『土魔狼』の肉だ」
犬っころぉぉぉ・・・お前・・・人を肉と呼んどいて・・・美味しいじゃねえか!
「まあ、『土魔狼』になったって事は・・・」
言うな・・・それ以上言うな・・・間接的に、とか思うと吐きたくなる・・・でも、この世界に限らず人喰いは居る訳で・・・うーん、考えないようにしよう!
「で?あのへなちょこパンチで倒せたとは思えん・・・どうやった?得物は?」
ちっ・・・自分の更に肉が無くなったから早速聞いてきやがったな・・・こっちはまだ食べ終わってないってえのに・・・さて、どう答えるか・・・
「サテートに聞いた話だと切断面が今までにないくらい綺麗だったらしい・・・途中で少しでもズレれば切断面はガタガタになるもんだが・・・そんな斬れ味の得物を持ってるようには見えねえけどな・・・」
うぐっ・・・サテートめ・・・余計な事を・・・
「ま、魔法を少々・・・」
「魔法?風魔法か?風圧で上位種を切断出来るなんて、どんだけ高位の魔術師だ?しかも巣窟に15匹の『土狼』・・・そんだけ魔力を要する魔法を唱える時間なんざねえと思うがな・・・」
うむむむ・・・確かにゴブリンとの戦いを見た限りだとエマって子は魔法を唱える時に溜めを作ってた。シーナも回復する時は詠唱して溜めてるし・・・あれだけの数の犬っころに囲まれて呑気に魔法を溜めてたら・・・普通食い殺されるよな・・・
「無詠唱でも必ず溜めは必要だ・・・首だけを落とすのにどれだけの緻密な魔法の操作が必要になるか・・・まさか鼻の利く『土狼』が呑気に寝ていたってのも考えられねえ・・・アタル・・・正直に話せ」
きゃうん・・・ジジイのくせに理詰めで来んじゃねえよ!・・・どうする・・・いっそ念動力の事を・・・いや・・・このジジイも信用出来るしシーナももちろん・・・でも、超能力は・・・
蘇るのは日本での差別の日々・・・超能力者が捕まる度にニュースは大々的に取り上げ、如何に超能力者が恐ろしいかを専門家が世間に訴えかける・・・あんな日々をこっちの世界でも、と考えると・・・
「・・・『気』だろ?」
「木?」
「『気』だ!・・・シューリー出身の奴が使うのを見た事がある。筋肉もそこそこのガキが魔物を粉砕する姿は圧巻だったぞ・・・アタルもその『気』を使ったのではないか?」
気・・・気功とかその辺か?うーん、漫画とかだとよく気とか出てくるけど・・・超能力とはまた違うんだよな・・・でも・・・いや、まてよ・・・
「分からない・・・ってのが正直な所かな?・・・記憶がなくて・・・でもこうすれば倒せるっていうのが何となく分かるって言うか・・・」
「ふむ・・・」
うへー・・・見てる見てる・・・疑いの目だ・・・あれは。ダルスは経験豊富だし、俺の嘘なんてとっくに見抜いてるのかも・・・でも、押し通す
「これが『気』って言うなら『気』かも知れないし、違うと言われれば違うのかも知れない・・・魔法かも知れないし・・・」
記憶喪失設定・・・時々その設定を記憶喪失してしまうが、その設定を活かして押し通す!
「まあいい・・・アタルがそう言うならそうなのだろう。ちょうど2人が来たようだ・・・本題に入ろうか」
2人?本題?・・・そう言えば後から誰か来るって言ってたけど、誰だろう・・・もしかしてハムナ夫婦ご招待?それとも・・・レギンとテムラを呼んで仲直りパーティー?
そんな予想を覆し、来たのはオッサン2人・・・誰?
「君がアタル君か・・・色々と助かったよ。私はギルド長のグモニ。そしてこの方は・・・」
「アンテーゼ町長のピクトスだ。よろしく」
にこやかに挨拶して来た2人・・・ギルド長と・・・町長!?この町で・・・一番偉い人・・・だよな?
「おう!遅かったじゃねえか!まあ、とりあえず座れ・・・話はそれからだ」
ジジイが一番偉そうだ。にしてもギルド長と町長が来て本題って・・・嫌な予感がする・・・
2人はダルスに急かされてテーブルについた。それと同時に店員が俺らに出したものをすぐにセッティング・・・やるな!店員!
全て揃うとまた店員は用事があればお呼びくださいと言って居なくなる・・・もしかして事前に人払い的な事を言ってるのだろうか?
俺の目の前に座ったのがギルド長グモニ。恐らく元冒険者なのだろう・・・厳つい感じで歳を取ればダルスみたいになりそうだ・・・もしかしてダルスの隠し子か?
シーナの前に座ったのは町長ピクトス。2人と違って野性味は全くない物腰の柔らかそうな人・・・姿勢が良くてスーツが良く似合うサラリーマンみたいな・・・町長って言うより出来る課長って感じだな。心の中では課長と呼ぼう
ふと隣のシーナを見ると『ちょちょうちょう』と言って目を回してる・・・そりゃあ神聖魔法使いのシーナでも町長には滅多に会わないだろうし、緊張もするか
「おお!これが『土魔狼』の肉か!さすがに美味い!」
「うん、臭みがなく上質な肉だ。生きてる内に食べれるのは幸運かも知れないね」
さっそく出された料理に舌鼓を打つ2人・・・もしかして本題ってこれの事?俺が狩った『土魔狼』の肉をみんなで食べよう!みたいな?
「だろ?まあ、俺が取って来た肉じゃないのは悔しいがな・・・」
アレ?少しダルスの雰囲気が変わった?
「アタル・・・お前、鋼牙隊に入れ」
「ヤダ」
おおう、考えるより先に言葉が出た
「即答かよ・・・理由は?」
「入る理由がない。めんどくさい。ジジイクサイ」
「んだとてめえ!」
あ、最後のは完全に悪口だった
「まあまあ・・・アタル君だったかな?順を追って説明させてくれないか?グモニ」
課長がダルスを宥め、グモニに視線を送った。鋼牙隊に俺を入れる事に課長も絡んでる?ギルド長も?
「はい・・・昨日君が教えてくれた『土狼』の巣窟を我々が調査した結果、更に奥へと続く穴があった・・・君も見ただろ?」
「・・・はい」
「深さ不明の穴・・・そしてこの町で行方不明者が居ないにも関わらず『土魔狼』が出現した・・・この事が何を指すか君には分かるかい?」
「・・・分かりません」
「『土魔狼』は『土狼』が人を喰らい上位種に進化した魔物・・・そして魔物には縄張り意識があるので移動して来るのは稀だ・・・では、『土魔狼』はどこで人を喰らって上位種へ進化したと思う?」
うん?移動して来なかったとしたら、誰を食べたんだって話になるし、移動して来ただけじゃないのか?稀って事は絶対に移動しないって訳でもなさそうだし・・・でも最初に巣窟内にあった穴の事を言ったのが気になる・・・もしかして・・・
「穴から這い出てきた?その・・・深さ不明の・・・」
「分からん」
分からんのかい!
「ただ我らの仕事は町を魔物から守る事・・・その為には常に最悪を想定して動かねばならない」
「最悪?」
「その穴から『土魔狼』が出て来たとしたならば・・・その穴は『奈落』に通じている可能性が高い」
奈落?・・・地獄みたいなもんか?
「あってはならない・・・だが、ありえるなら調査せねばならない・・・国の調査機関には連絡済みだ・・・しかし、万が一を考えると防衛を強化せざるを得ない。そこで君が現れた・・・『土魔狼』を1人で倒せる、君が」
犬っころ・・・意外と高評価なんだな・・・俺の評価はうなぎ登りだ。でも・・・
「すみません・・・俺にはやる事があります・・・誰かが待ってるかも知れない・・・その為に俺は記憶を取り戻さないと・・・」
かも知れないじゃなくて、待ってるんだ・・・その為に俺は魔法を手に入れて、日本に帰り・・・彼女らの願いを・・・叶えないといけない!
「・・・即答するほど嫌か?即答するほど俺の隊に入りたくねえってか?」
「聞いてたか?俺の話・・・やる事があるって・・・」
「そんなもんは記憶戻ってからすりゃあいいじゃねえか!ウダウダ言ってねえで手を貸せ!アタル!」
「アホか!ウダウダ悩んでた俺を後押ししたのはあんただ!クソジジイ!それにさっき即答したのはな・・・あんたの隊に入っちまったら記憶が戻ったとしてもどこにも行けなくなるじゃねえか!」
「あん?そいつはどういう意味・・・」
「ハッハッ・・・悪かったね。無理を言ったみたいだな。この話は無かったことに・・・」
「おい!勝手に仕切るなピクトス!話はまだ終わっちゃいねえ!」
「終わりだよ・・・ダルスさん。君が町を見捨てる事が出来ないように、彼にも譲れない事がある・・・だろ?」
「・・・はい」
さすが課長・・・分かってらっしゃる。それに比べてこのジジイは・・・
「うん!この話はここまでにしよう!ここの支払いは任せて君達はもう帰りなさい・・・きかん坊は私が宥めておくから」
「仕切るな言ってるやろうが!おい!待て!アタル!!」
俺とシーナは課長に言われるがまま礼をして店を後にした。最後までダルスの怒鳴り声が聞こえてたけど・・・
帰り道、やけにシーナが大人しい。まだ偉い人の近くに居た緊張が解けてないのかと顔を覗き込むと・・・睨まれた
「・・・アタルさんは・・・やっぱり行ってしまうの?」
「やっぱり?」
「世界地図を見てた時・・・この人はいずれこの町を出て行ってしまう・・・そう思ってたから・・・」
「ああ・・・このままじゃ俺は・・・」
「このままで良いじゃない!買い物して、ご飯食べて、川で遊んで、家に帰る・・・それのどこが悪いって言うの!?」
悪くは無い・・・いや、人らしい生活が出来た・・・本当に・・・でも・・・
「俺は・・・」
「みんなそう!みんな・・・そう言ってどこかへと行ってしまう・・・私は・・・こんな事なら神聖魔法なんて・・・覚えるんじゃなかった!」
そう言うと駆け出してしまったシーナ・・・そうか・・・そうなんだ・・・シーナはこっちの世界の俺・・・超能力があるから外もまともに歩けなかった・・・俺なんだ・・・
「ケッ・・・てめえらが後釜を育てろって口うるさく言ってんのに、これじゃあ言ってる事とやってる事があべこべじゃねえか!」
「そう言わんで下さいよ・・・ダルスさん。彼の意思は固そうだ・・・鋼牙隊に入ってしまえば残ってくれたかも知れないけど、そうならないように仕向けたのはダルスさんでしょ?」
「仕向けた訳じゃねえ!・・・まあ、ケツを叩いたのは事実だが・・・にしても記憶が戻るまで入れば良いじゃねえか・・・」
「ふっ」
「何がおかしい!?」
「彼は言ってたでしょ?入ってしまったら抜けられなくなるって・・・彼も同じなんですよ・・・ダルスさんが奥様をいつまでも愛しているのと同じで、長い時を共に過ごせば離れられなくなる・・・好かれてますね・・・ダルスさん」
「気色悪い事言うな!・・・ケッ!」
不貞腐れるダルスに苦笑する2人
その中でグモニが何かを思い出したように表情を変え、ダルスを見た
「そう言えば町の噂でレギンが彼にちょっかいを出したと聞いてますが・・・」
「ああ・・・それなら俺の耳にも入ってる。何でもアタルを殺す殺すと騒いでいるみたいだな」
「ちょっ、ダルスさん!?」
「止めるなよ、グモニ。事情は知らねえが男の喧嘩だ・・・口を出すのは野暮ってもんだぜ?」
「町中で殺しが発生したとしても?」
「殺させやしねえよ・・・まっ、これに懲りたら真面目に訓練するようになるだろうよ」
「ダルスさんは・・・アタル君が勝つと?」
「・・・さあな?」
「ダルスさん・・・あんた悪い顔してますよ?」
「そうか?まあ、楽しみで仕方ねえからな・・・鋼牙隊副隊長のレギンとアタル・・・どちらが上か・・・頼むから決着つけずに町を出るのは勘弁して欲しいな」
「仲間に引き入れたいのか、かき混ぜないのか・・・」
「どっちもだ!ガーハッハッハッ!」
ようやく機嫌を取り戻したダルスの笑い声が金楼館に響き渡った
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