第23話 強襲

一夜明け、未だにシーナとは顔を合わせていない




昨日の晩に一足先に教会に帰ったシーナはそのまま部屋に閉じこもってしまったからだ




シーナの部屋の前に立ち、ノックしようとするが、今はやめておこうと1人で1階に降りた




「おはよう」




ハムナが降りて来た俺に気付き振り返る。足元にはギルドから届けられた5000ゴールドが入った箱・・・物凄い重そうだ




「上に運ぶかい?さすがに私一人では厳しいから手伝って欲しいのだが」




「そのお金・・・貰ってもらえませんか?」




「・・・なぜだね?」




「考えが甘かったんです・・・お世話になった分をお渡しして・・・この町を出ようと稼いだんですけど、それだけの重さのお金を持って行くのはちょっと・・・元々半分以上はお渡ししようと思ってたので・・・」




「・・・出るのかい?」




「・・・はい」




このままこの町に居ると俺は出れなくなる・・・居心地が良すぎて・・・でも、俺にはやる事がある・・・




「いずれはそういう時が来るのではと思っていたけど・・・受け取れない・・・と言いたいところだけど君の枷になると言うのなら預かろう・・・まあ、ちょくちょくつまむかもしれないが」




「大いにつまんで下さい・・・受けた恩はお金には変え難い・・・けど、俺には返せるのは恩ではなく、金でしか返せないので・・・」




「・・・シーナが君を連れて来た当初・・・さすがに困惑したよ・・・見ず知らずの・・・しかも町の住民でもない君は何を企んでいるのか・・・そんな疑念を持っていた・・・」




「・・・当然です・・・」




「それでもシーナの・・・塞ぎがちだったシーナの笑顔を見て・・・私は君ではなくシーナを信用した」




「塞ぎがち?」




「君らが初めて出会ったのは町近くの川だろ?シーナはあの川だけが唯一の町の外の世界・・・しかもほんの少しの時だけ・・・シーナがうたた寝してしまい、少し帰りが遅くなっただけで私はギルドに緊急依頼を出した・・・シーナを探してくれ、とね」




過保護・・・とは言い切れないな。彼女は町の2人しか居ない神聖魔法使いの1人・・・もし何かあったらと考えるとそれぐらいしてもおかしくない




「たまに・・・ごくたまにギルドから神聖魔法使いの同行を頼まれる事があった・・・昔は私が行っていたが、シーナの強い希望でシーナが行くようになり・・・泥だらけになり帰って来て笑顔で言うんだ・・・『私も少しは役に立てた』と」




・・・シーナ・・・




「君が来てくれて、シーナは変わった・・・言葉も喋れない君に言葉を教え、世界を教え・・・人の役に立てる事に喜びを感じていた・・・君に教える事で改めて認識していた・・・世界はこんなにも広いのだと」




ニュースを見て・・・世界を知る・・・俺と同じ・・・




「・・・いつ出るつもりだね?」




「もう少ししたら・・・出るつもりです」




「そうか・・・寂しくなるな・・・シーナも・・・私達も・・・」




ハムナは寂しそうに笑った




俺は・・・俺は・・・








その後何となくシーナと初めてあった川に来た




川を覗き込み、自分の顔を見ると・・・せっかく髪を整えて髭も剃ってもらったのに・・・ひどく情けない顔が川面に映る




決心は揺るがない・・・でも──────










あれ?顔面と後頭部が痛い・・・なんだ??俺は確か・・・川を覗き込んで・・・それから・・・殴られた!?




勢いよく起き上がると更に顔面と後頭部に痛みが走る。何が起こったのか理解出来ずに顔と後頭部に触れると少し腫れているような気がした




殴られた?一体誰に?・・・思い当たる節は・・・テムラかレギン?




「ごめんネ・・・避けるかと思たヨ」




「え?」




突然声をかけてきたのは・・・誰?




「いやー、おニイさんてっきり強いのかと思てネ・・・隙だらけだたからもしやと思て蹴たらそのまま・・・本当ごめんネ」




いや、隙だらけなら普通蹴られるだろ!?なんなんコイツ!・・・でも、このチャイナ服娘・・・どこかで見た事あるような・・・




チャイナ服みたいな服にお団子頭・・・胸はデカい・・・うんデカい・・・あれ?やっぱり見た事ないか・・・




「何ジロジロ見てるネ・・・スケベ」




いやいや通り魔に言われたくないわ!




「じゃっ!そういう事でもう行くヨ!」




はあ?人を蹴り飛ばしといて・・・あっ、行ってしまった・・・なんなんだあのチャイナ女・・・チャイナ女?・・・あれ?・・・










「いいのか?アイリン」




「うーん、前に川で見かけた時は気功に近い技を使てたんだけどネ・・・あれくらいの蹴りを躱せないようじゃ使い物にならないヨ」




「今度から蹴る前に確認しろ・・・敵を増やすだけだぞ?」




「その時はその時ヨ・・・で、他にめぼしいのはいるノ?」




「ジャクスの町にビッケスという男がいる・・・何でも素手で人を切り刻む事が出来るとらしいが・・・」




「らしいガ?」




「・・・性格に難アリ・・・との事だ」




「この際性格なんて二の次ネ・・・ここから遠いカ?」




「3つほど離れた町だ・・・そう遠くない」




「・・・それを遠い言うネ・・・ハア・・・早く帰りたいヨ」




「帰ってもいいが、そしたら・・・」




「皆まで言うナ、リュウシ!分かてる・・・分かてるヨ・・・」




アタルを襲った女性アイリンがリュウシと呼ばれた男と合流すると2人は町とは反対側に向けて歩き出す。中華風の2人とアタルの運命が交わるのは少し後のお話・・・








んがー!なんなんあのチャイナ!!隙があったから蹴ってみましたじゃねーよ!何の検証動画だよ!『人妻が無防備だったので突ってみました』ってタイトルのAVくらい無理があるだろ!・・・あれ・・・返したっけ・・・延滞料金はもちろんの事、俺がいない間にレンタル屋から電話が来て「オタクの息子さんが借りてる・・・」なんて全てのタイトルを読み上げられた日には・・・もう日本に帰れない・・・返したっけ・・・返したよな・・・返してあってくれ!




日本か・・・帰れない今は懐かしく、早く帰りたいと思うけど、このままじゃまた閉鎖的な・・・自分の家の中だけが自分の世界に戻るとなると・・・広い世界を知ってしまった俺にはとても窮屈に感じるだろうな




知らなければ、当然の世界・・・知ってしまえば、失った世界・・・シーナもそう感じているのだろうか・・・俺と出会い、俺に教える事により忘れていた・・・忘れようとしていた世界の広さを再認識してしまい・・・籠の中の鳥である事を・・・思い出してしまった・・・




何か俺に出来る事はないのか?・・・彼女が縛られているのは神聖魔法使いが少ないから・・・なら代わりの者がいれば・・・でも、それはシーナの代わりに籠の中に入ってくれと言うようなもの・・・誰かが犠牲になってもシーナは喜ばないだろう・・・なら・・・どうする?




そうだ・・・神聖魔法使いを増やせばいい・・・確か魔法は誰にでも素養はあるが使えるようになるのは偶然らしい・・・だが、もし使えるようになる方法があるとすれば・・・町の中に数人でも神聖魔法使いが存在するようになれば・・・シーナは自分の行きたい道を歩むことが出来るんじゃないか?




そうだ・・・俺は魔法を使えるようになりたい・・・それとシーナの願いは重なる・・・神聖魔法を覚えた人の中には町から離れない人だって居るはず・・・ははっ・・・なんだ簡単な事じゃないか・・・魔法の国とまで呼ばれるブルデン王国に向かい魔法の取得方法を学び、この町に戻って来て魔法の取得方法を広める・・・そして、その中で神聖魔法使いが現れれば・・・シーナはこの町に残り続ける必要は無い!




簡単な事だ・・・簡単な・・・事かぁ?




まあいい!ジジイ直伝の成せばなる成さねば成らぬ何事も、だ!






鼻息荒く教会に帰ると礼拝堂に居たシーナと目が合った。シーナはすぐに俺から視線を逸らすが、そんなもんは学生時代に何度も味わってるから効かんわ!




「えっ!?ちょっとアタルさん!?」




俺はシーナの腕を掴み、引き摺るように教会の外に出た




初めは何事かと騒いでたシーナも町の外に出ると静かに俺の後に着いてきてくれた。そして出会った川に到着・・・澄んだ川を見て俺は一息ついて振り返った




「シーナ!俺・・・えっ?」




「はぁい・・・また会ったな」




シーナの後ろに居るのは・・・顔に包帯が巻いてあって顔はよく見えないが・・・レギン!そのレギンが剣を振りかぶり今まさに振り下ろそうとしていた




このままじゃシーナが・・・俺が狙いじゃないのか!?どうする?くそっ!




俺は無我夢中でシーナを抱き寄せ、背中を向いた・・・鈍い音と共に背中が熱くなる・・・斬ら・・・れた?




「いやああああぁ!!アタルさん!!!」




耳元でシーナの叫ぶ声・・・良かった・・・シーナは・・・無事・・・




「殺しゃあしねえ・・・だが、見つける度に切り刻んでやる・・・もし町を出てみろ・・・この女を同じ目に合わせてやる・・・謝っても許さねえ・・・お前が自分で命を絶っても・・・何度も何度も女を犯して切り刻んでやるよ!」




レギン・・・クソ野郎・・・てめえは・・・




意識が遠のく中、レギンの笑い声とシーナの泣き叫ぶ声が聞こえる




だが、その声もどんどんと遠くなり・・・

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