第15話 ダルス

昨日はそのまま眠れず、シーナとも顔を合わせずらかったので早朝に教会を出た




町の外に出ていつもの川に・・・川原で仰向けになり空を見上げる




日本と変わらない空・・・このまま日本に続いてるんじゃないのか?




本当は異世界なんかじゃなく、映画のセットの中で騙されてるんじゃないのか?




そんな事を考えてたら、腹の虫が鳴った




そう言えば昨日の昼から何も食べてない




コンビニ・・・どっかにないかな?




おもむろにポケットを探ると小銭とメモが出て来た。そう言えば買い物途中で・・・買った物どこやったっけ?・・・母ちゃん怒ってっかな?・・・メモ・・・もう見えないや・・・そのまま洗っちゃったから・・・もう見えないや・・・




「おう!魔物にでも襲われたか?小僧!」




誰かが俺に話しかけてきた・・・ほっといて欲しいのに・・・少し顔を上げると髭面の大男が立っていた。髪も髭も真っ白で・・・爺さんって呼ばれる歳っぽいが筋肉隆々で厳つく、歳を感じさせない




「なんだ・・・生きてんのか?死んでんのか?」




眉毛を片方上げて怪訝そうに俺を見ている。死んでるよって答えたい所だが、面倒そうなので起き上がった




「シケたツラしてんなぁ・・・そこの川で顔でも洗えや・・・それとも死ぬか?」




なんだその二択は・・・ボケてんのか?




「殺してくれって言ったら・・・殺してくれますか?」




ついそんな事を口走る・・・なんかもう・・・どうでもいいや・・・




「ああ?なんだ死にたがりか・・・死にてえなら森の奥深くで死ね・・・迷惑だ」




「なんで森の奥深く・・・なんですか?」




「目の前で死にそうになってたら助けちまうだろ?だから、死ぬなら俺の目の届かない所で死ね・・・なら俺も気にしない」




「・・・何も知らない俺を・・・助けるんですか?」




「おい!そこに立て!」




なんなんだ・・・このジジイ・・・




仕方なく立つ俺の目の前に来て、突然ニカッと笑った




「これでお前は顔見知りだ!・・・だろ?」




「・・・何も知らないくせに・・・」




「あん?何もってこたァねえだろ・・・顔は知ってるぜ!そしてその顔の意味もな!」




「顔の意味?」




「ああ!いけ好かねえシケたツラだ・・・歯ぁ食いしばれ」




「は?・・・ギャッ!!」




顔が吹き飛ぶかと思った・・・いきなり殴られた・・・




「何しやがんだ!このジジイ!!」




「少しはまともになったな・・・だが、まだ足りねえ」




また殴られて今度は吹っ飛んだ・・・痛え・・・なんだコイツ・・・頭おかしいのか?・・・




「生きる気力を失うとな・・・まず目が腐る・・・そして性根が腐ってどっちかになるんだ・・・死人か悪人か、だ」




「・・・」




「生きる気力のある悪人は簡単だ・・・殺すぞって脅しゃあ悪さを止める。だが、生きる気力のねえ悪人は始末に負えねえ・・・平気で何でもしやがる・・・だからお前がもしこのまま腐って悪人になるくらいなら・・・このまま息の根を止めてやる」




「さっきと・・・言ってる事が・・・違う・・・」




「お前がただの死にたがりならそうさせたさ。だが、お前は性根も腐りかけてやがる・・・他人を巻き込まねえ内に殺すのが周りにとっても・・・お前にとっても救いとなる・・・安心しろ・・・お前を殺したら素直にお縄になってやるよ」




「・・・・・・なんでそこまで・・・・・・」




「あ?決まってんだろ?俺の目が黒い内は町で好き勝手させねえ・・・例え石にかじりついてでもな」




「だからなんで!」




「惚れた女が居るんだよ・・・何としても守ってやりてえ・・・安全な町で暮らせるようにしてやりてえ・・・ずっと笑顔で暮らせるようにな」




「・・・捕まったら守れないじゃないか・・・」




「なーに、ピンチになったら牢を破ってでも助けに行く!惚れた女の為ならば、たとえ火の中水の中ってくらぁ」




「・・・相手が魔王でもか?」




「はっ!上等じゃねえか!魔王なんざクソ喰らえだ・・・俺の愛の深さを再確認できるちょうどいい相手だ!」




「・・・勝てる相手じゃない時だって言ってんだよ!」




「負ける気がしねえ・・・例えどんな相手でもな」




「・・・バカなのか?」




「おう!バカみてえに惚れちまった!」




話しが通じない・・・でも・・・なんか心地いい・・・




「相手の人が・・・死んじゃったらどうする?」




この人はどうするんだろう・・・後追いで死ぬのかな・・・もう二度と会えないと分かったら・・・




「死んじゃったら?ウチのカミさんもう死んじまったぜ?」




「・・・へ?」




「病気でな・・・でもよぉカミさんはいつまでも俺を信じてくれてた・・・何があってもだ・・・それに応えるのが男ってもんじゃないのか?」




「・・・何を信じてたんですか?」




「俺が俺である事」




「・・・もう少し詳しく・・・」




「ああん?分からねえか?カミさんはなあ・・・俺に惚れてたんだよ!その俺が俺じゃなくなったらカミさんをガッカリさせちまう事になる・・・だから俺は俺である為に何がなんでも貫き通す!それが俺だ!」




「具体的には・・・」




「はあ!?そんもん口に出すもんじゃねえ!信念だよ信念!分かるか?」




「・・・何となく・・・」




「かあぁぁ!最近の若いヤツはこれだから・・・いいか?何かをしようとするなら何がなんでもやり遂げろ!出来ねえ事なんかねえ!」




「空を・・・飛べますか?」




「・・・俺の信念に反する」




「汚ねえ!出来ない事ないって言ったのに!」




「うるせえ!信念の話に具体例を出すんじゃねえ!」




ううっ・・・ゲンコツを食らった・・・




「いや、その・・・不可能と思ってる事を可能に出来るかって意味で・・・」




「出来る訳ねえだろ!バカかお前は!」




ええ・・・うそーん・・・




「不可能と思ってる時点で不可能なんだよ!俺なら出来る!やっちゃるって気概見せんかボケ!そんなら何でも出来るわい!」




そ、そう言う意味か・・・




あっ・・・ケンさんの言ってた物差し・・・自分が決めちゃってたんだ・・・出来る事を・・・その物差しの中だけって・・・物差しを壊せって・・・もしかして・・・枠に囚われるなって事か・・・




「おっ?なんだ・・・少しは新鮮さが戻って来たじゃねえか」




少しでも物差しを越えると出来ないと判断して諦める。普通はそうだ。例えば俺なんかが東大目指しても無駄なだけ・・・でも、なんで無駄なんだ?それは俺が本当に東大に入りたいと思ってないからじゃないか?本当に入りたいと思えば寝る間も惜しんで勉強すれば入れるんじゃないのか?でもそこまでする気はない・・・本気じゃないから・・・だから自分の物差しで測って無理だと思ったら早々に諦める。物差しは常に一定・・・だから安心出来る。無理せず自分の出来る範疇でやれるのだから・・・イデッ!




「おい!無視するな!」




「ポンポンポンポン殴るな!・・・でも・・・ありがとうございます」




「おっ?どうした?殻は破れたか?」




「はい!もう破ってたのに・・・自分は破れないと・・・壊せないと思って・・・」




シーナをゴブリンから守れた時・・・俺は確かに自分の限界を超えた。クマに襲われた時も・・・物差しなんかで測ったらとてもじゃないけど動けなかった・・・俺は出来る・・・そう思って超えたんだ・・・物差しを壊せ・・・出来ないなら出来るように努力しろ・・・俺は勝てる!




「いい目だ・・・歓迎してやる!ようこそ、アンテーゼへ!」




「・・・まるで自分の町みたいな口ぶりですね」




「おうよ!お前の町でもある!」




「・・・ようこそ、アンテーゼへ・・・イデッ!」




「生意気ぬかすな!お前が親父の玉っころに居る時から俺は町に居るわい!」




無茶苦茶だ・・・無茶苦茶だけど・・・クヨクヨ悩んでるどっかのバカより全然・・・気持ちいい




「また死にたくなったら殴ってやるから訪ねて来い!俺は鋼拳のダルス・・・町の誰かに聞きゃあ居場所は分かる!」




「・・・なんかダルそうな名前ですね・・・うわっ!」




「躱すな・・・お前の名前は?」




「アタルです」




「当たんねえじゃねえか」




「殴って良いですか?」




「おっ?一丁前に・・・殴れ殴れ」




今までの鬱憤を晴らすように鳩尾に1発・・・人を殴ったのはこれが初めてだ・・・ダルスの拳も硬いけど腹も鋼のように硬く、こっちの拳がイカれるかと思った




「よし!1発は1発だ!」




「まっ、さっきから散々っ・・・ぐぁ!!」




「フン!俺を膝まづかせたら俺の娘をくれてやる・・・俺に似て美人だぞ?」




「ひ・・・髭面の嫁さんなんて・・・いらねえよ・・・」




「言いよるわい!後で泣いてお願いしてもやらんぞ?ガーハッハッハッ!」




ダルスは笑いながら町の方へ歩いて行った。俺は川原でまた大の字になってる・・・さっきと同じ空・・・でも今は見え方が違っていた




ケンさんに謝らなきゃ・・・ヒカリや城さんにも・・・そして・・・シーナにも・・・




俺は気合いを入れる為に両頬を叩いた




まずは犬っころ・・・アイツを・・・倒す!

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