第16話 安価

スッキリした後は迷惑掛けた人達に謝らなくては




日本のみんなは向こうからの連絡がないと謝れないから、最初はシーナ・・・うっ、なんか緊張する




昨日の夜、テレパシーの音が妙にイライラして大声を出してしまった時、たまたま俺の部屋を訪ねていたシーナに聞こえてしまい勘違いされてしまった




きちんとあれはシーナに言ったんじゃないと言わないと・・・




それと今後だ・・・まずはあの犬っころを調べる。確か図鑑には載ってたはず。特徴とかを把握してきちんと対策を立てて乗り込む。それと同時に鍛えるのも忘れない




誰かが見てなければ念動力は自由に使えるが、見てる時はなるべく体術に織り交ぜて念動力を使って誤魔化さないと、こっちの世界でも解剖とかされたら厄介・・・追っかけ回されるのはもう御免だ




殴ったり蹴ったりする時に念動力を織り交ぜて威力を上げる




攻撃だけではなく防御にも使えるようにする




そして、これが一番重要なんだけど、同時に多方向の念動力を使えるようにする




犬っころと戦ってた時に『理力斬』が躱されたらお終いだった。でも右手で『理力斬』を出し、左手で防御出来れば躱されても対処出来るはず




戦う事を想定してなかったから気付くのが遅くなったな・・・




家の中で練習する時は右手で右回転でペンを回し、左手で左回転でペンを回したりしたら良さそうだ。町中だったら浮きながら歩いて、遥か上空まで何かを浮かして移動させたりも良いかも知れない




とにかく念動力を色々な動きが同時に出来る力に進化させないとこの先通じないだろう




MPもかなり上限は上がっているように感じる




更に・・・もっと・・・そう言えば今の念動力はどれくらいの力があるのだろうか?犬っころを押し戻すだけの力があるのは確かだけど・・・俺も軽々持ち上げられるし・・・




俺は町に戻ってる最中だったが、一旦戻り人の力では上げられないような大岩を探した




そして、目の前には俺の力ではピクリとも上がらないような大岩・・・さすがにこれは無理・・・かな?




とりあえずやってみよう




手のひらを大岩に向けて上がれと念じてみる




徐々に出力を上げる・・・やっぱり無理か・・・いや・・・無理じゃない・・・上げる・・・上げてる!!!




「うおおおおお!!!」




浮いた!・・・数百kgはあるであろう大岩が・・・浮いた!




俺は目線の高さまで上げるとゆっくりと大岩を下ろした




今ので2つ分かった・・・かなりの重さを上げられる事と上げれさえすれば自由に動かせる事




出力を上げればその力を保持するのは比較的楽だった・・・人力で持ち上げてたら体勢とか変わるから、ある一定の高さまでしか上げられないとかあるけど、念動力ならかなり上まで上げられそうだ




あれ?犬っころを地面から浮かせられれば楽に勝てるような・・・機動力を奪うと言うより、動き自体を封じられる・・・空中でバタバタ動く犬っころを想像すると少し笑えた




しかし、倒すとなるとやはり同時に2つ以上を使う必要がある




浮かせて斬る・・・それが出来れば勝てそうだ




勝てる見込みが出来たと思い意気揚々と町に戻る俺・・・の事を見ている人がいるなんて、その時は思いもしなかった・・・






町に戻った俺を待っていたのは門番の横で仁王立ちするシーナだった・・・門限破った時の母ちゃんか!




「アタルさん!わ、私を嫌いになっても!勝手に居なくなったりしないで下さい!」




なんだ!?某アイドルみたいなセリフで迎えられたぞ!?門番はヒューヒューと冷やかすし、言ったシーナも顔真っ赤だし・・・




「ごめん・・・少し頭を冷やしてたんだ・・・」




「あれ?アタルさん!?その顔・・・何かあったんですか!?」




あっ・・・そう言えばダルスに思いっきり殴られたの忘れてた。テムラはクズらしくシーナにバレないようにボディのみだったけど、ダルスは容赦なく顔面だったな




「ちょっと気合いを入れてもらってね・・・平気だよ」




「平気じゃないです!早く行きますよ!」




腕を引っ張られ強引に町の中へ




門番には冷やかされ続け、俺まで顔が熱くなってしまった




町中でも腕を引かれ、ジロジロと見られる始末・・・恥ずかしい




教会に入ると2階に上がり、俺の部屋ではなくシーナの部屋に連れ込まれる




同じ教会の部屋とは思えない程良い香り・・・思わず鼻が膨らむほど匂いを堪能してしまう




「顔以外怪我はないですか?ちょっと見せて下さい!」




いやん!そこはダメよ・・・って拒否する間もなく上着を脱がされてしまった・・・出てきたのは見るも無惨な青タン多数・・・その傷を見てシーナの表情が一変する




「これ・・・今日出来た痣じゃないですよね?」




さすがは神聖魔法の使い手・・・って顔の傷と腹の傷の違いを見れば一発か・・・




「どうしたんですか、これ?・・・正直に話して下さい」




じっと俺を見つめるシーナ。何となくしばらく無言で見つめ合ってしまった




女の子とこんな長い時間見つめ合ったのって人生初めてではなかろうか・・・無駄に興奮するな・・・ずっと目を見ていられずに視線を動かすと思わず唇を見て顔がまた熱くなる・・・いかんいかん・・・何を考えてるんだ俺は・・・




「・・・まさか・・・テムラ・・・ですか?」




「いや!その・・・」




反射的に否定してしまった。いや、ビンゴなんだが、それでシーナがテムラと仲悪くなるのはちょっと・・・100ゴールドも貰っちゃったし・・・




「・・・とりあえず治療します・・・」




そう言ってシーナは腹と顔にヒールを使ってくれた。欲を言えば足にも・・・って言おうとしたが、足はどう見ても歩き過ぎの状態・・・山なんて登ってない体ていの俺は自然に治るのを待つことにした




「ふう・・・で、どうなんですか?誰にやられたんですか?」




近っ・・・ムッとした表情で顔を近付けてくる・・・息が・・・かかって・・・誰がやったなんてどうでも良くなってくるんですが・・・




「アタルさん!聞いてるんですか!?」




「いや・・・シーナは可愛いなぁって・・・」




あれ?ボンって音がしたような・・・シーナは真っ赤になった顔を両手で隠し、クネクネしてる




「なっ・・・いきなり・・・何を!・・・そんな訳・・・ないじゃないですか!」




何この生物・・・可愛面白い




「本心だよ。シーナみたいな可愛い女の子を毎日連れ回してたら、そりゃあ妬み嫉みは・・・」




「やっぱり・・・私のせいですか?」




「やっぱり?それはどう言う・・・」




と言いかけて気付いた。俺の言い方はシ・ー・ナ・を・連・れ・て・い・る・か・ら・こんな目に合ったと言ってるようなもの・・・あわわわ・・・




「違う!俺はシーナに死ぬほど感謝してるし、返せないほどの恩を感じてる!さっきのは・・・そう!殴られる不幸があったとしても、シーナと毎日居られる事がそんな不幸も些細に感じられる的な・・・」




俺何言ってんだろ?シーナのか細い肩を掴んで取り繕う言葉を並べていると、シーナは下を向いてしまった・・・これは怒らしてしまったのか?




「・・・私といると・・・不幸が不幸じゃなくなる?・・・」




「そ、そうなんだ!人生がバラ色って言うか・・・毎日が充実して・・・シーナの時間を奪ってるみたいで申し訳ないんだけど・・・」




「そんな事ありません!そんな事・・・」




お互い黙ってしまった




この沈黙が妙に居心地悪く、どうしていいか分からなくなり目が回りそうだ




こんな時に安価で行動出来ればどんなに楽なんだろう・・・>>13で




12 顔面パンチ




13 抱きしめてキス




14 キースキースキース




15 ナイス>>13




16 抱きしめた瞬間、もがれるに一票




17 釣乙、異世界ってリアルティ無さすぎ




てな感じで・・・スレタイは【緊急】異世界で女の子の部屋でお互い無言なんだが【童貞】・・・みたいになるのだろうか?




しかし>>12は許さん!




「・・・アタルさん・・・」




「あっ、ひ、昼から図書館で調べたい事があるんだけど、い、一緒にいいかな?」




妄想にふけてしまってた・・・午後は犬っころの生態を調べようと思ってたから、思わず誘ってしまった・・・返事は・・・




「・・・はい・・・」




よし!とりあえず怒ってはない!




安堵した俺はこれ以上気まずくなる前にシーナの部屋を出ると昼食までの時間を自分の部屋で過ごした




途中、空腹に耐えかねて1階に降りるとちょうど昼飯が出来たみたいで、その足で2階に戻りシーナと共に昼食をとる




シーナは時間が空いてせいか普段通りになってくれてて助かった




昼食をとるとすぐに図書館に向かう




2人で歩く町並み・・・随分久しぶりに感じる




あっという間に図書館に着き、さっそく目当ての本を探し出し机の上で開いた




犬っころのページを探していると隣から物凄い視線を感じる・・・何これ、何の罰ゲーム?・・・シーナの視線を気付かないフリをしてページをめくっているととうとう見つけた・・・




『土狼』・・・まんまやんけ。犬っころじゃなくて狼だったんか・・・まあ、どっちでもいい。なになに・・・落とし穴を掘り、落ちた獲物を狩る魔物・・・悪食で何でも喰らう・・・徒党を組む・・・人を喰うと稀に人語を話すようになる・・・危険度☆3




つまり少なくとも巨大犬っころは人を喰った訳だ・・・道理で人を肉と呼ぶはずだ




「アタルさん?」




「あ、ああ・・・ちょっと気になる魔物が居てね・・・シーナはダルスさんって知ってる?」




「ええ、それはもちろん。鋼牙隊っていう町一番の冒険者ギルドのチームの隊長さん・・・何度か見かけた事あるし、お父さんが治療している時も立ち会った事あるけど・・・ダルスさんがどうしたの?」




「いや、ほら・・・朝気合い入れてもらったのがそのダルスさんで・・・」




「もしかして・・・鋼牙隊に入るの?」




「まさか!俺なんてとても・・・あっ、なんかハムナさんに手伝って欲しいとか言われてなかったっけ?」




「あっ、いけない!・・・じゃあ、私は先に帰るね・・・ちゃんと帰って来てよね!」




「・・・はい・・・」




なんだかシーナの雰囲気が変わった・・・話し方とか・・・それと俺が鋼牙隊に入らないような言い方したら少し残念そうな顔してたな・・・何でだろ?鋼牙隊に入って欲しい?・・・なんで?




疑問は尽きないが、とりあえず俺は図鑑をしまって図書館を後にした




で、向かった先は冒険者ギルド




前に来た時は登録だけだったからあまりギルド内を見てなかったけど、ギルド内はかなり広く、飲み屋みたいな所もギルド内にあった。そして、その横には掲示板があり、様々な依頼が張り出されている




俺は一通り目を通して1枚の依頼書を掲示板から取るとそのまま受付まで進むとテーブルに依頼書を置いた




「この依頼・・・受けたいんですけど」




異世界冒険者としての初依頼・・・失敗すれば死・・・俺はとうとう引き返せない所に足を踏み入れた

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