第12話 ゴブリン退治5

朝になり、攫われていた人達の容態を見たら平気そうなので安心した




しばらくは安静にして下さいと全員に告げて外に出ると準備を終えたテムラ達が待っていた




これからアンテーゼの町に戻る・・・嬉しくて顔が綻んでしまいそうだった




でも・・・テムラとなんか気まずい・・・あれから一言も喋ってない・・・




テムラも気まずいのか私と目を合わさずに村長の感謝の言葉を受け取るとさっさと村を出て行った




「・・・何かあった?」




「・・・何も・・・」




エマが私の顔を覗き込んで聞いてくるが、さすがにこの話は出来ない




私が首を振ると呆れた様子で鼻を鳴らし、まっいいけどねと呟いて歩き始めた




私も遅れないように歩き出し、アジダトの村を出た




「テムラ・・・道が違うぞ?」




「黙って着いてこい・・・確かめたい事がある」




ディジーが先頭を歩くテムラに言うと、テムラは振り返りもせずに答えた。確かに昨日通って来た道と違う・・・確かめたい事った何だろう?




その答えはすぐに分かった。恐らくテムラは攫われた人達に聞いたんだ・・・ゴブリン達の巣の場所を




ゴブリン達と戦った場所から少し離れた場所に洞窟があり、そこから悪臭が漂っていた




「ちょっとテムラ・・・今更ここに何の用事があるって言うのよ?確かに私達が助けられなかったのは悔しいけど・・・」




「・・・今後の為だ・・・見てみたいんだよ・・・俺とローブの奴との違いを」




「はあ?つっても罠が残ってるかも知れないでしょ?無闇矢鱈にゴブリンの巣なんかに入るべきじゃないわ!」




「・・・分かってる・・・けど・・・」




「みんな!こっちに来てくれ!」




ディジーが少し離れた場所で私達を呼んだ。何かあったのかと思い3人で呼ばれた場所に行くと・・・巨大なクマの死骸があった




「何これ・・・」




「・・・細切れだ・・・しかも切断面がえぐい・・・どんな斬れ味の剣ならここまで綺麗に斬れるんだ?」




「ああ・・・恐らくクマを倒したのもそのローブの奴だろう・・・相当な手練だな・・・」




クマ・・・もしかして・・・彼じゃない?だってあの時・・・助けてもらわなければクマに・・・でもあれは・・・




「チッ・・・アンテーゼに戻ろう・・・」




「あら?良いの?洞窟に入らなくて」




「・・・この斬り口を見りゃあ分かるさ・・・俺ならコイツを倒すのさえ無理だ・・・お前らが居て五分・・・つまりそういう事だ」




「私達には無茶でも・・・ローブの人にとっては無茶じゃなかったって事ね・・・まだまだ修行が足りませんなぁ」




「・・・まったくだ・・・行くぞ!日が暮れるまでにある程度の所までは進みたい!ディジー!ルートは任せるからなるべく魔物を避けてくれ」




「・・・分かった・・・」




「ん?どうしたの?シーナ」




「・・・大丈夫・・・なんでも・・・ない・・・」








それからの事はあまり覚えてない。歩いて、日が暮れたら野営して・・・気付いたら町に着いていた。テムラが報酬は後で持って行くと言ってくれたから、私は急いで家に戻った。礼拝堂に居たのは・・・お父さん




「おかえり・・・無事で何よりだ。他のみんなも大丈夫だったかい?」




「うん・・・お父さん・・・アタルさんは?」




「・・・2階に居ると思うよ?て言うか帰って来てそうそうそれかね?」




「あっ、ごめんなさい・・・ついでに聞きたい事があるんだけど・・・」




「何のついでだね・・・まったく・・・で、何が聞きたい?」










シーナが帰って来た




いい匂いがしたから間違いない




2階に居ていい匂いを感じさせるとはどんだけだよ!天使か!




シーナ達が無事に戻って来れるか心配だったが、さすがに帰り道は無茶な行動はしないだろうと内心ドキドキしながらも先に戻って来ていた




アリバイ工作もバッチリしたし、短剣も返した・・・俺があの場に居た事は知られる事はないだろう




これで俺が余計な事をしたとバレたらテムラの野郎に何言われるか分かったもんじゃない・・・そう言えばあの野郎に何か言われていた気が・・・まっいっか




とりあえずあの新技は使える・・・今まで念動力は痒い所に手が届くくらいにしか思ってなかったけど、極めればなんでも出来そうだ






たまたまあの時押した枝が戻ってきて、驚いた俺はビビって目を閉じて・・・いつまでも当たらないから不思議に思って目を開けるとそこに枝はなかった




何が起こったのかしばらく呆然としていると、ふと下を見た時地面に枝が落ちており、拾って見るとあらびっくり・・・キレイに切り落とされていた




どこかの居合の達人が助けてくれたと思って辺りを見渡すが誰も居ない




何が起こったのか考えた結果、ひとつの答えに辿り着く




もしかして・・・俺が切ったのか?




同じくらいの太さの枝を探して手刀をお見舞い・・・うん、痛い




懲りずに念動力を使いながら手刀を繰り出すと枝は折れたけど、あんなにキレイには切る事は出来なかった




しばらく考えた結果、切るイメージをしてみようと再度チャレンジ




するといとも簡単に枝は俺の手刀で切り落とされる・・・ゾワッとしたね・・・マジで




だって何の抵抗もなくスパッと切れるんだぜ?怖いわ!




遊び半分でスパスパ切ってたら、普通に大木まで切ってしまいシーナ達にバレないかヒヤヒヤしたもんだ




調子に乗った事を反省しているといつもの頭痛・・・どうやら消費は半端ないらしい・・・MP消費して切るなんてRPGのあの武器に似ている




てな訳で名付けて『理力斬』を手に入れた俺は意気揚々とシーナ達を追いかけ・・・






それにしても対クマ戦は危なかった




とりあえず『理力斬』で無茶苦茶に切り刻んだら勝てたけど、アイツの一撃が先に当たってたらお陀仏だったな




その後洞窟に引っ込んだゴブリンが気になって覗き込むと襲ってきやがって参った・・・2体だったから何とか撃退に成功すると洞窟の奥から女性のすすり泣く声が聞こえた




ホラーが苦手な俺はそのまま立ち去ろうとするが、確かゴブリンって女性を攫ってチョメチョメするので有名だったはずと思い出し、勇気を振り絞って奥へ




途中、慣れない山登りで足が痛くて少し身体を浮かせながら奥に行くとご褒美タイム突入・・・じゃなくて裸の女性が泣いていた




俺は間近で見る・・・じゃなくて助ける為に近付くと彼女らは俺を助けに来てくれた人と勘違いして泣きついて来た・・・




ご褒美も貰った事だし仕方なく村まで連れて行ってあげることに。出る時に妙に真っ直ぐ歩かないと思ったら、どうやら地面に落とし穴があるらしく、それを彼女達は避けながら歩いているみたいだった・・・浮いてて良かった・・・




彼女らは地面に敷かれていた皮か布みたいので身体を隠しているが、後ろから見るとおケツが丸見え・・・村の場所が分からない俺は背後を警戒する為に彼女らを先に歩かせてずっと後ろを歩く・・・




村に到着すると遠くでシーナが見えた・・・その後ろに野郎も見えた・・・シーナに近付くな、ボケェ




バレたら不味いのでサイレントキリンガーアタルは闇夜に紛れて消え去ったのだった・・・




帰り道は最悪だった




足は痛いわ、頭痛はするわ・・・履いてきた靴ももうボロボロ・・・こっちの世界の靴を買わないとダメだな・・・お金ないけど




何とかかんとか町に着き、教会に戻るとすぐに残ったお金と短剣を返した




お金は要らないと言うハムナに俺は自分で稼ぎますと言い切り無理やり返す・・・ヒキニートの分際で




ハムナは微笑み受け取るとどうだったか聞いてきたので、当たり障りのない感じで話した・・・無事やり遂げてもうすぐ帰ってきますよと




で、俺は見ただけで何もしてないからついて行ったとバレると恥ずかしいから口裏合わせてくれと頼んだら快く了解してくれた




で、今に至る・・・






コンコンと部屋のドアがノックされる




間違いなくシーナだ。部屋の掃除に来るレジーの匂いとは明らかに違う・・・いや、母娘なんだけどね




「どうぞ」




平静を装いながら俺はノックの相手を招き入れる・・・さて、第一声は何にしようか・・・おかえり・・・は在り来りか・・・どうだった?・・・は軽過ぎる・・・やばい・・・何も思い付かない




「・・・ごめんなさい、ずっと勉強出来なくて・・・」




なぬ!?どういう感じだ?・・・いきなり謝られたぞ・・・




「い、いや・・・シーナが居ない間も1人で・・・図書館に・・・行ってたし・・・」




って事になってるはず。ハムナ・・・頼むぞ




「うん・・・お父さんから聞いた。1人で勉強してたって・・・」




ナイスハムナ!後でお小遣いあげよう




「そ、そうなんだよ・・・でもやっぱり1人だと限界があるね・・・ははっ・・・」




じゃあもう1人で勉強出来るねって言われたら寂しい・・・もう少し・・・シーナと勉強したい・・・




「・・・私の事は気になんないんだね・・・」




しまったー!!そうだよ・・・知ってるから聞かなかったけど、普通は危険な旅をして来たら、どうだった?とか、大丈夫?とか聞くのが普通じゃない!!・・・しくった・・・




「あっ!その・・・平気そうだったから・・・ごめん・・・」




「・・・お母さんがね・・・一昨日の夜、ご飯辛くしてごめんって言ってたよ?」




ご飯!?辛い??




「あ、ああ・・・もう辛さには大分慣れてきたらから・・・別に・・・」




「後ね・・・お父さんがアタルさんに貸した短剣にキズがあって怒ってた」




「ウソッ!?マジで!?」




あれ?ちゃんと確認したはずなのに・・・




「うそ」




シーナは言うとべーと舌を出して部屋を出て行った・・・やられた・・・カマかけられた・・・一昨日は俺はこの家に居なかったし、短剣も傷付いてないはず・・・てか、そもそも借りた事にもなってない・・・してやられた・・・まあ、シーナの可愛い舌を見れたので良しとするか・・・って、出来るか!!




あーもー、これなら正直に言っとけば良かった・・・これじゃあストーカーじゃん・・・防止条例発動するやつじゃん・・・




ドア越しにシーナが何か言ったような気がするが、よく聞こえなかった・・・もしかしたら『きもっ』とか言ってたりして・・・死ねる・・・




俺は自分のミスを悔やみながら布団をかぶり寝て忘れようと努力する




明日から・・・どうしよう・・・

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