第11話 ゴブリン退治4
あ・・・あっぶねえ・・・マジで焦った
やっとの事追い付いたと思ったら、ゴブリン達との大乱闘・・・生の魔法を見て感動しているとクソゴブリンがシーナに襲いかかろうとしてやがった
念動力で木に登り、高みの見物をしていた馬鹿な俺は焦って手に持ってた短剣をゴブリン目掛けて投げてみた・・・もちろん念動力を投げるのと同時に使って
ありえないくらい猛スピードでゴブリンに向かっていくが、そこはノーコンとして名高い俺が投げた短剣・・・当たる気配が全くなかった
それを必死で念動力で動かして運良くゴブリンにクリーンヒット・・・初めての魔物討伐に成功する
生きた心地がしなかった・・・あんなに離れた場所の物を操作して当てるなんて神業か奇跡にしか思えん・・・多分シーナの日頃の行いのお陰だろう
その後は危なげなくバッタバッタとゴブリンは倒れていき、最後の方は逃げ出そうとする奴らも居る始末・・・無事シーナに傷一つなくミッションコンプリートと相成った
そのままシーナ達は下山するみたいで、俺は彼女らが去るのを待って木から降りる
興味本位でゴブリン達の死体に近付いてみると、鼻が曲がりそうな嫌な臭いが充満していた。恐らく魔法で焼かれたゴブリン焼きの臭いだろう
「ん?」
ゴブリンの死体を見て回っていると、逃げ出そうとしたゴブリンが向いている方角が気になった。もしかしたらこの先にゴブリンの巣があるかも知れない・・・少し興味が湧いてその方向に足を進めた
よせば良かった花いちもんめ・・・しばらく歩くと洞窟みたいな所があり、見張りをしているのかゴブリンが2体立っている・・・木の陰に隠れながら、どうしようか悩んでしまう
これって打ち漏らしって事なんかな?あんだけ頑張ったのに・・・特にシーナが・・・打ち漏らしがあるので報酬あげませーんとかなったらさすがに可哀想だな・・・って考えていると後ろに荒い息遣いが・・・満員電車なら、俺は男だ!って叫ぶ所だけど、山の中で変態痴漢野郎が居る訳もなくそっと振り向いてみた
あらクマさん
童謡ならここでダンスのお誘いでもするのだろうけど、リアルでは無理だな
しかもスゲーデカい・・・前に川で見たクマよりも遥かに・・・
当然餌であろう俺にロックオン・・・今にもそのゴツイ爪でなでなでして来そうな雰囲気だ
「・・・ちょっと待ってみようか・・・」
提案は棄却された
話し掛けた瞬間にクマは突然立ち上がるとクマフックをお見舞いしてくる
何とか横に飛んで躱すが、隠れるのに使っていた木がベキベキと音を立てて倒れよった・・・どんだけハイパワーだよ・・・
もちろんゴブリン達もその音に反応・・・ギャッギャギャッギャと大騒ぎ
ゴブリンでいいから加勢してくれないかなー・・・いやマジで
そんな願いも虚しくゴブリン達はクマにビビってか洞窟の中に引っ込み、俺とクマだけが取り残される
しかーし・・・サイレントキリンガーアタルには奥の手があるのであった!
シーナ達を追いかけている最中に押した木がしなって俺の鼻に逆襲して来た時・・・怒りに任せてやったら出来た幻の秘技・・・それを披露する時が来たようだ
しかし果たしてクマに通用するのだろうか・・・通用しなければ俺はクマの腹の中・・・ヤバい・・・漏れそう
フシューフシューと興奮するクマの前に立ち・・・俺は一世一代の大博打に出るのであった
アジダトの村に着くと歓迎された
テムラが村に入るなり大声で倒して来たぞーって叫んで、村のみんなは歓声を上げてた
でも・・・良かったと喜んでいる瞳の奥は笑ってるようには見えなかった
畑を荒らされ、何人か攫われ・・・村が元に戻るのは凄い時間が掛かると思う
攫われた家族の人は一生心から笑えないかも知れないと思うと胸がキュッとなる
村総出で私達を歓迎してくれて宴を催してくれたけど、食事が喉を通らなかった
「どうしたの?暗い顔して・・・怖かった?」
「エマ・・・違うの・・・どうしても心の底から喜べなくって・・・」
エマが私に気を使って声を掛けてくれた。隣に座るとしばらく何も言わずに村の人達とはしゃぐテムラ達を眺めてた
「テムラも・・・私達もね・・・本当は全てのゴブリンをやっつけて・・・攫われた人達が生きているか殺されているか村の人達に伝えなきゃ・・・そう思ってる。冒険者を始めた頃は正義感に突き動かされて無茶もした・・・でもね・・・そんな無茶は誰も幸せにならない事を知ったの・・・」
「え?・・・」
「ほら、覚えてない?私達が駆け出しの頃・・・少し先輩の冒険者パーティが全滅した話・・・」
あっ・・・そう言えば・・・確かお父さんが現場に呼ばれて向かったけどもう遅くて・・・
「あの人達はね・・・正義感が強くて私達の憧れだった・・・でも、無茶を繰り返してね・・・最後は魔物の罠に掛かって死んでしまったの・・・」
「・・・罠?」
「魔物だって馬鹿じゃない・・・生きる為に必死になってる・・・自分達の巣に入って来られないように罠ぐらい仕掛けるのよ・・・でも、私達も含めあの人達も魔物を舐めていた・・・狩る存在と狩られる存在・・・そんな事はないのにそう思い込んで・・・巣に突っ込んで全滅した」
「・・・どんな罠が・・・」
「単純よ。捕まってる人に近付こうとするとその手前に落とし穴があって・・・そこに落ちると隠れていたゴブリン達が現れて為す術なく・・・人質になっていた人は必死で止めたけど、敵の巣の中だし目の前に助けようとした人達が居て焦ってたんでしょうね・・・戻って来ないのを気にかけた冒険者が何かあったのではと思ってシーナのお父さんを連れて探しに行った時にはもう・・・」
「・・・」
「今回の依頼は本当ならもっとベテランの冒険者達にやってもらうべきだった・・・それでもテムラは村が心配で受けたの・・・無茶は承知・・・だから今回シーナを頼った・・・ここでゴブリンを減らさなきゃ村が危うい・・・でも私達3人だと無茶になる・・・だから・・・」
「でも私は・・・何の役にも・・・」
「バカね・・・神聖魔法使いが居るだけで私達はどんなに心強いか分かってないでしょ?少しでも傷を負えば死に繋がる・・・そう考えながら戦うと身体はガチガチ・・・思うように動けないわ。もし今回シーナが居なければ12体のゴブリンを見て撤退してた」
そう・・・なんだ。てっきり毎回こんな無茶をしているのかと・・・それを聞いて少し安心したのと同時に嬉しくなった。少しでも役に立てた事に・・・
「村の人達も攫われた人達が戻って来る方が嬉しいに決まってる・・・でも、攫われた時点である程度覚悟はしてるだろうし、今はしばらくゴブリンが襲って来ない事に喜びを感じてる・・・だからそんな辛気臭い顔してないで、素直に喜びましょ?」
「・・・うん・・・」
割り切れない思いはあるけど、1番辛いのは村の人達・・・私が暗い顔してても攫われた人達が戻ってくる事は・・・
「アマンダ・・・?」
村の男性が村の入口を見て立ち上がりその名を呟くと、騒いでた人達がその声で一斉に静まり返る。何事かと思い振り向くとそこには数人の人がふらつきながら歩いてこちらに向かって来ていた
「・・・」
か細い声で先頭の女性が何か言うと、男性はその女性に駆け寄り泣き叫びながら抱き締めた
そして、村の人達が一斉にやって来た人達の元に
全員女性で毛布みたいなものを羽織っている。顔が煤けてて表情はあまり分からないけど、全員怪我などはしていないみたい・・・この人達ってまさか・・・
「もしかして・・・あれで全部だったって事?」
「まじかよ・・・そりゃあ奇跡だぜ・・・」
エマが呟くと宴に参加していたテムラとディジーがいつの間にかそばにいた。奇跡・・・つまりテムラ達が倒したゴブリンが全て巣の中から出て来ていて討伐した・・・もぬけの殻になった巣から自力で攫われた人達が戻って来た・・・
「クルト・・・私・・・」
「何も言うな・・・生きて戻って来てくれた・・・それだけで・・・」
アマンダさんって人が涙ながらに何か言おうとすると抱き締めているクルトさんがその口を塞ぐ・・・他の人達は泣き崩れ、宴は感動の渦に包まれた
宴は当然お開きとなり、私は戻って来た人達の治癒を買って出た。見えない所が怪我してるかも知れないし、治癒は精神にも効くから・・・
1人目は先頭に立っていたアマンダさん
クルトさんに支えられ、ぐったりとしていた
寝かせてあげた方が良いのかと思ったけど、クルトさんに心配だから是非お願いしますと言われて家まで来た。何故かテムラもついて来たけど・・・
「お怪我はありませんか?もしあるならそこを重点的に・・・なければ全身にヒールをかけますけど・・・」
「・・・怪我は・・・ありま・・・せん・・・」
「そうですか。では、全身にかけますね・・・敬愛なるレーネ様・・・御力を私にお貸し下さい・・・ヒール」
魔法は本来詠唱なんて必要ない。魔力を必要な分溜めて放つだけで良いんだけど、溜め方は人それぞれ・・・私の場合は尊敬するレーネ様を思い浮かべる事で集中して魔力を溜める事が出来るからこの言葉を言っている。エマみたいに何も言わずに溜めれるのが1番なんだけどね・・・
私は膝をつきロッドの先をアマンダさんに近付けるとアマンダさんの全身が淡く光る
アマンダさんは不思議そうに自分の身体を見ていた
「・・・暖かい・・・」
「・・・ふう・・・もし何かありましたら気軽に声をかけて下さい。それでは他の人達の所に・・・」
「あの!・・・ありがとうございます!・・・助けてもらって更にこんな・・・あと私達を助けてくれたローブの人にもお礼を言いたいのですが・・・」
「え?・・・ローブの人・・・ですか?」
「え、ええ・・・私達が連れて行かれた洞窟の中に入って来て助けてくれた・・・村まで一緒に来てくれたのですが、その後見かけていないので・・・もしかして皆さんのお仲間じゃないのですか?」
「く、詳しく教えて下さい!」
「え・・・は、はい。私達が洞窟の奥に捕らわれていると物々しい音が聞こえてきまして・・・助けが来たのかと思い見ているとローブの人が現れました・・・」
「そ、それで・・・」
「はい・・・私達は洞窟の1番奥に居たのですが、その部屋は落とし穴だらけで・・・ゴブリン達が掘っているのを見ていたので私達はローブの人に落とし穴がある事を告げたのですが、ローブの人は気にした様子もなく私達のそばへ・・・落とし穴の上を平然と渡り近寄って来たのです・・・」
「・・・」
「ローブの人はその後私達を連れて洞窟の外に・・・洞窟から外に向かっている最中に何体かのゴブリンが倒れているのを見ましたからてっきり討伐依頼を受けて下さった皆さんが助けてくれたものかと・・・」
・・・彼だ!間違いない・・・以前一緒に歩いている時、ふと足元を見たら少し浮いていた・・・クマに襲われそうになっていた私を突き飛ばしたあの・・・恐らく風魔法・・・その魔法を使って身体を浮かしてるから落とし穴に引っかからなかったんだ!
「あの・・・」
「あ、ごめんなさい。お疲れのところ色々聞いちゃって・・・ご安静になさって下さい」
私は立ち上がると頭を下げて家を出た
そうかぁ・・・彼が・・・
心の中のモヤモヤが晴れた気がする
助けられなかった人が助けられ、その助けた人が・・・
「チッ・・・気に食わねえな・・・」
「え?」
私と共に家を出たテムラが舌打ちして呟いた。何が?攫われた人も助かって良い事しかないのに・・・
「ゴブリン退治の依頼を受けたのは俺達だ・・・その依頼を掠め取るような真似しやがって・・・更に名乗りもしねえ・・・ふざけた野郎が居たもんだ」
「で、でも・・・その人のお陰で攫われた人達が助かったんだし・・・」
「だからだよ!俺達に出来ねえ事をさらっとやってのけた・・・俺だって助けたいって気持ちはあったんだ・・・でも無茶は出来ねえ・・・シーナも居るし・・・」
「・・・それって私が居なきゃ助けに行けたって事?」
「いや!違う・・・そんなんじゃねえ!ただ・・・」
「・・・他の人の治療があるから・・・」
何なの!?私が居るから何なのよ・・・確かに私は足でまといかもしれないけど・・・誘ったのはテムラじゃない!それを私のせいにして助けに行けなかったなんて・・・最低・・・だったら誘わなきゃ良いじゃない!そしたら今頃私は・・・あれ?今頃私は何してたんだろ?
朝起きて、ご飯食べて、勉強して、ご飯食べて、また勉強して・・・最近ずっと彼と居るなぁ・・・前は外に出るのが楽しみで、例え討伐依頼でも外に出れるのが嬉しくて・・・でも、今は早くお家に帰りたい・・・すぐにでも・・・
私は残りの人達の治療を終えると足早に村で用意してくれた家に行き、横になる。明日は山に入り一晩テントで寝泊まりすれば次の日には帰れる・・・そしたら・・・胸が高鳴るのを感じながら、明日の事を考えて体力を回復しようと瞳を閉じた
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