第10話 ゴブリン退治3

あまり眠れなかった




エマが変な事言うから・・・でもアタルさんの好きなタイプはどんな人なんだろう・・・きっとエマみたいな可愛い女の子なんだろうな・・・




「さあ行こうか」




テムラ達が手際よくテントを片付けてる最中・・・私は何を考えてるんだろう。しっかりしなきゃ・・・今からが本番・・・変な事考えずに集中しなきゃ!




歩くペースは一日目より落としてみたい。時折、止まって周囲を伺いながらというのもあるけど




山の頂上までは登らずに中腹辺りで迂回して反対側を目指してる。風上を計算して、下に居るであろうゴブリン達に気付かれないように慎重に進んでいた




木の枝を踏んで音が鳴るだけで一旦足を止めるくらい慎重に・・・ゴブリンとはいえ数の多さは向こうが圧倒的に多いらしく、何とか虚をつきたいって言ってたなぁ




迫る先頭に心臓がバクバクする・・・逃げ出したい気持ちを堪えて、何とか足を進めると突然テムラが屈んで手で私達にも屈むように合図する




「・・・居た。1・2・3・・・12か・・・他にもいるかもしれない・・・多いな」




どんな状況か私からは見えないけど、テムラの表情を見るとあまり良くない状況っぽい。私は攻撃には参加出来ないから手伝えるとしたら回復だけ・・・つまり誰かが傷付いた時だけ・・・私が必要になる状況にならなきゃいいけど・・・




「エマ・・・この距離から魔法を放ったらどれくらい始末出来そうだ?」




テムラがエマを手招きし、状況を見せながら質問すると、しばらく考えたような仕草をしてエマが答える




「完全に気付かれながらば5匹・・・途中で気付かれたら2~3匹・・・放つ前に気付かれたら0ね」




「ここは風下・・・派手な音を立てなきゃいけそうだな・・・頼めるか?」




「ハイハイ・・・奇襲、特攻、撹乱・・・いつも通りね。ちょっと頭の上の枝折っておいて・・・燃・え・る・から」




エマの言葉にテムラが頷いて静かに頭の上にあった枝を折った・・・エマは火魔法を使う魔法使い・・・私と違って詠唱しないで手に持っていた杖を頭の上に掲げて集中している




ぼんやりと明るくなってきた・・・離れてても熱を感じる・・・徐々に杖の先に出来ている炎の玉は大きくなっていく




「この距離だから放射型は無理・・・玉だから避けられる可能性が高いよ・・・」




「分かってる・・・いつも通りに行こうぜ」




テムラは言うと私を見て手招きした




私は音を立てないように気を付けてテムラに近付くとテムラ達が見ていた光景を覗き見る




一瞬心臓が止まりかけた・・・ウヨウヨと動く本物のゴブリン達・・・見た目もだけど動きも人のそれとは違う・・・ゴクリと喉を鳴らす私にテムラは手短に説明する




「エマが魔法を放った後、俺は着弾する前にここから駆け下りる。そしたら、こことゴブリン達の中間の位置まで下りて来て欲しいんだ。エマの隣から離れなければそれでいい・・・決して前に出過ぎるなよ?」




ゴブリン達から目が離せなくなった私は頷くだけで精一杯だった。心配そうに私を見つめる視線を感じる・・・でも、決して大丈夫・・・なんて強がれそうにはない




そんないっぱいいっぱいの私をよそに、テムラは右後方に視線を送ると手で何かを合図した




いつの間にかさっきまで私の後ろに居たはずのディジーが木の上からゴブリン達の居る場所に矢を放つ




矢は放物線を描いてゴブリン達を越え、私達の居る側とは反対側の地面に突き刺さった




一斉に矢の方に振り向くゴブリン達・・・するとエマが頭上に掲げていた杖を振り下ろし魔法を放った




炎の塊は一直線にゴブリン達の元へ




矢に気を取られているゴブリン達は魔法の存在に気付いていない・・・もうすぐ魔法がゴブリン達の元へ到達する頃にテムラは立ち上がり一気に山を下りながら剣を抜いた




「うおおおおおお!!!」




ゴブリン達は振り向きテムラを・・・そして迫り来る魔法を見た




慌てふためくが既に魔法は躱す間もない所まで来ており、数体のゴブリンを巻き込んで大きな爆発音を鳴らす




「行くよ!シーナ!」




エマに言われて頷くのも忘れて駆け出した




足が妙に軽く空回りしそうだ




両手には初めて討伐に同行する時にお父さんから買ってもらったロッド・・・魔法を増幅する石がはめられており、私の拙い回復魔法を助けてくれる




ギュッとロッドを握りしめ、下りていたらエマの声が聞こえた




「シーナ!そこで止まって!」




その声で慌てて止まる・・・すると何体かのゴブリンが私達の存在に気付きニタリと笑った




テムラは群れに切り込み、中央で剣を振っている




たまに矢が飛んで来て的確にゴブリンの額を撃ち抜き、絶命させているが、3体がそれらを無視して私達目指して上ってきた




「シーナ!少し下がって・・・私が!」




エマは私の前に出ると杖に魔力を溜める。そして、今度は杖を横に振ると炎が放射状に出てゴブリン達に襲いかかる




ファイヤーブレス・・・そんな名前だった気がする・・・炎は瞬く間にゴブリン達を焼き尽くし、死体へと変えてしまった




「あのバカ!張り切り過ぎ!・・・もう何体かコッチに来るよ!」




どうやらテムラがゴブリン達が居た中心より奥に行ってしまった為に、手前にいたゴブリン達がこちらに向かって来るみたい・・・えっ・・・あれって・・・




「テムラ!北東に5体増援!少し引きな!!」




騒ぎを嗅ぎ付けたのか、新たに5体のゴブリンがやって来る




それでなくてもテムラは3体くらい同時に相手してるのに・・・あっ・・・こっちに向かって来ているゴブリンが4体・・・2体づつ前後に並列になって迫ってくる




「シーナ!!もっと下がって!!奴らは学習する!」




学習?・・・あ、足が・・・手に持つ棍棒・・・剥き出しの牙・・・ギョロっとした目・・・近付いてくるゴブリン達を見て、足が竦んで動かない・・・あの時と・・・川に現れたクマに遭遇した時と・・・同じ




「シーナ!!・・・くっ!・・・あんたらの相手は私だよ!!食らえ!」




叫びながら再びファイヤーブレスを放つエマ。さっきと同じようにゴブリンは・・・えっ・・・違っ・・・仲間を盾にして!?




黒焦げになった仲間であるはずのゴブリンを飛び越えてゴブリンが迫って来る。そう・・・彼らは学習した・・・エマの魔法を・・・




エマが魔法を放った瞬間、後ろに控えてた2体がしゃがんで炎をやり過ごし


、ほとんど無傷で私とエマに襲いかかる




エマは何とか杖で棍棒の一撃を防いでるのが見えた・・・私は・・・




何かを確信したように下卑た笑いを私に向けるゴブリン




ゴブリンに攫われた女性がどうなるか私は知っている




そ・う・なったら私は生きていく自信がない・・・ここで攫われるならいっそうの事・・・でも身体は意に反して何も言う事を聞いてくれずただ震えるだけだった




時がゆっくりと進んでる




棍棒を受け止めながら、エマが何かを叫んでいるけど聞こえない




振り上げた棍棒を見て、この棍棒で私を気絶させて運んで攫うつもりなんだと呑気に考えてた




今私に出来るのは恐怖から逃げる為に目を閉じ祈るだけ・・・そう・・・神聖魔法の頂点にいらっしゃったレーネ様の奇跡を信じ祈るだけ・・・






──────アタルさん──────






目を閉じ祈ったのはレーネ様ではなく、ここに居ないアタルさんに・・・何を期待してんだろうと自分でも理解出来ないけど、祈りが通じたのか痛みが全くない




さすがにおかしいと思って薄く目を開けると目の前には動きを止めたゴブリンが居た・・・首にはいつの間にか短剣が刺さっている




「・・・えっ?・・・」




短剣は自ら動きゴブリンの首から抜けるとどこかに飛び去っていく




短剣が抜かれたゴブリンは血飛沫を上げて倒れるとピクリとも動かなくなった




「シーナ!・・・えっ?・・・これシーナが?」




呆然とする私はエマの質問に答える事が出来なかった・・・でも・・・あの短剣・・・








私が呆然としている間にどうやら全てのゴブリンを討伐したらしく、私達はアジダトの村に向かっている




他にゴブリンが居ないかどうか探さなくてもいいのかとも思ったけど、どうやら数を減らせばしばらく村に降りてくる事は無くなるらしい。本来なら10体も倒せば御の字らしく、テムラはやり過ぎたと言いながら討伐証明となるゴブリンの一部を剥ぎ取っていた




「すまなかった・・・テムラの方に5体現れてそっちが手薄になった・・・」




「いえ・・・それよりも・・・ううん、なんでもない・・・」




村に向かう途中、ディジーが私に近寄って謝ってきた。もしかしたら木の上に居たディジーならあの短剣を投げた人が分かるかも・・・そう思ったけど聞くのはやめた




多分あの短剣を見たのは私だけ・・・あの短剣がなければ私は今頃・・・そう言えばあのクマの時も・ありがとうって言ってなかったな・・・早くお家に帰りたい。帰ってあの時と今回の事のお礼を言わなくちゃ・・・アタルさんに・・・

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