第9話 ゴブリン退治2

俺の名前はサイレントキリンガーアタル




訳あって若き冒険者達を見守る為にあとをつけているのだが、切実な問題に直面していた




それは一向に追い付けない事




若いせいか奴らはキャピキャピ歩きやがる・・・こっちは最近ようやく外に出たばっかりの元ヒキニート・・・体力の差は歴然だ




しかも山道・・・数歩歩く度に気にもたれ掛けゼーゼーハーハー・・・追い付ける気が全くしない。更にテントの代わりに買ったローブが歩きを阻害する




これは夜通し歩いて奴らが休んでいる間に追い付くしか・・・テント?




確か奴らのメンバー構成は・・・剣士風テムラと魔法使い風女、それにイケメンエルフ弓男・・・それに加えて我らがアイドルシーナの4人・・・2対2・・・不味い・・・何かが不味い




少し歩く速度を早めるが、休憩の回数が増えただけの体たらく・・・念動力をもっと鍛えておけば、自分を浮かせてひとっ飛び・・・なんて事も可能かもしれないけど、そんな事は出来ない




せめていい空気を吸って体力を回復しようとするけど、ちょっと歩いただけで脇腹痛い、足も痛い




しかも道無き道の為、本当にこのルートの先に居るかも分からなくなり不安になる・・・別の事を考えるか・・・




そう言えば図鑑で魔物とか植物・・・それに料理なんかは見てたけど、人種は見てなかったな・・・まあ図書館に人種大全!なんてあったらおかしいか・・・初めてエルフを見たけど、お決まりのドワーフとか・・・コビットだっけ?なんか違う気がするが、小さい妖精みたいなのとか、獣人なんてのも居るのかな?町で見掛けたことがあるようなないような・・・あまり他人をジロジロ見てはいけませんと言われて育った俺には町の人の観察なんて出来るはずもない




帰ったらシーナに聞いてみよう




それと今後の計画




今回、冒険者ギルドに登録したのには2つ理由がある




1つは冒険者ギルドに登録してなかったからシーナについて行けなかったから




冒険者は一般人を連れて行ってはいけない規則がある。ちゃんとギルドに登録した者とチームを組まなくてはダメで、図書館でテムラがシーナを誘った時、俺も行くと言えなかったのはそれが原因だ。ちなみにシーナは前からギルドに登録していた。やはり神聖魔法は引く手数多らしい・・・




もう1つは今後の計画に関わる




シーナと共にアンテーゼの町で過ごす毎日は凄く楽しい・・・けどこのままじゃダメだ。目標は魔法を覚えて日本に帰る事・・・その為には『魔法の国』ブルデン王国を目指す予定だが先立つものがない・・・それに今回ハムナに借りたお金もあるし、今までの恩もある・・・お金で返すのもあまり良くないと思うが、それしか思い付かないからドカッと稼いで寄付という形で渡そうと思ってる




で、身元不明の俺が稼げるとしたら冒険者以外俺は知らない




それに超能力も鍛えられて一石二鳥・・・と思ったけど、魔物なんて狩った事がない俺に務まるのだろうか?




ハチはたまたま、クマは助けられ、犬っころにはやられっぱなし・・・あかん!




やっぱり剣とか防具とか買って練習した方が良いのかな・・・でも使いこなせる自信はないし、金は・・・ハムナから預かった金はあるけど、さすがにこれはシーナよろしくって感じで受け取ったから使うのは偲びないし・・・




あれこれ考えているといつの間にか日が暮れていた




さて、ここからが本番だ




どこかにテントで野営するはず・・・そこをRPGで鍛えた索敵スキルで探し出し、見守りながら眠りにつく・・・くー、イカス!




しかしふと思い出すのはラストダンジョンで最強装備をスルーして、引き返せない場所でセーブした時の苦い記憶・・・その時ほど攻略サイトを見れば良かったと後悔した事は無い・・・俺は嫌な予感がするのを必死に抑え込み、ただひたすら山を登るのであった










「今日はこの辺までにしよう。ゴブリンは反対側の山の麓に棲息しているらしい・・・このまま強行したら夜目のきくゴブリン相手には不利だ。朝一番で出発して、午後くらいに攻め込む」




テムラの話をボーッとしながら聞いていた。他の2人が返事をすると、私は慌てて頷いた




アジダトの村は心配・・・だから今回のテムラの要請は断るつもりはなかった。お父さんを説得している時から少しづつ違和感を覚え始めた




町を離れてこんなに不安になった事は1度もないのに・・・前は冒険に連れて行ってもらってワクワクしていたのに・・・今回は不安で胸が押し潰されそう




テムラとディジーが手際よくテントを設置する・・・手伝おうとしたけど、これは男の仕事だって言って断れれた




エマが料理を始めたから声をかけるけど、1人でやるの慣れてるからって言われて1人ポツンとそんな3人を見る




アタルさんなら『悪ぃ手伝って』ってバツが悪そうな顔して私を頼ってくれるのに・・・そう言えば前に川で魚を捕り過ぎた時、持って帰った後でお母さんに怒られてたなぁ・・・こんなにいっぱいウチで食べられないから捨てて来なさいって言われて・・・アタルさんは青ざめた顔で『どうしよう』って言うから、近所に配ります?って聞いたらパッと表情が明るくなって・・・あの変わりよう・・・ふふふ・・・




「何か面白い事でもあったか?」




突然テムラの顔が目の前に・・・ヤダ、思い出し笑いが表情に出てた?




「テントは終わり!後はエマの料理待ちだ・・・外で食う飯はうめえぞ~」




知ってる・・・アタルさんと外で川魚を焼いて食べたから・・・そう言えば火を起こすのに火打石を使ってたら『昔ながらだねー』って言ってたな・・・どういう意味かしら・・・




テムラとディジーが即席の椅子として大きめの石を並べてくれて、4人で囲んでエマが作ってくれたご飯を食べる・・・いつもと違う4人で、いつもと違う場所で食べるご飯は想像したより・・・美味しく感じなかった




「飯食いながら聞いてくれ・・・明日はゴブリンと当たるが他の魔物も居る可能性も考えて行動してくれ。今日のように先頭俺・・・中央にシーナ、後衛にエマでディジーは索敵と木の上からの援護に徹してくれ・・・ゴブリンと当たってもそれで行く」




「まあこのメンツならそれしかないわね。引き際は?」




「俺が下手を打つと思うか?まあ、俺が崩れたらシーナは全力で逃げてくれ・・・今回の依頼はシーナが生命線・・・シーナに何かあったら親父さんにドヤされちまう」




「ハイハイ・・・じゃあテムラが倒れたらシーナを安全な所まで送って、アンタの死体を回収しに行けばいいわけね」




「・・・その前に助けに来いよ・・・」




「テムラが崩れたら私が残ろう・・・木の上からならゴブリン程度なんとでもなる・・・テムラは私の居る方向に逃げてくれれば後は任せてくれ」




「頼りにしてるぜ・・・本来ならゲリラ戦を仕掛けたい所だけど地の利はムカつくがゴブリンにある・・・罠はないと思うが深追いは禁物だな」




「あら?いやに慎重じゃない・・・いつもなら私達の制止も聞かずに突っ込んで行くのに・・・」




「茶化すなよ・・・村を救うのも大事だが、シーナは町で2人しか居ない神聖魔道士だ・・・無茶は出来ねえ」




「それもそうね・・・今日は2人が見張りで良いんでしょ?」




「ああ、村に着いたら盛大にもてなしてくれるからな・・・そこでたっぷり寝るよ」




「本当・・・いつもなら私にも火の番をさせるのにね・・・お優しい事」




「エマ・・・何が言いたい?」




「別に・・・シーナ、もう寝ましょ・・・明日は早いわ」




「え、ええ・・・」




私は最後の一口を口に入れ、先に行くエマの後を追う




どうやらテントを使うのは私とエマだけで、テムラとディジーが交代で見張りをしてくれるらしい




テントに入るとエマが既に横になっていて、私は隣に座ってため息をつく




「・・・どうしたの?」




横になっていたエマが起き上がる。思わず出たため息が気になったよう・・・悪いことしたなぁ




「なんでもないよ・・・ただ・・・みんなテキパキしてるのに私だけ・・・」




「ははっ、仕方ないよ。私達は野営は慣れてるけどシーナは初めてだろ?」




「・・・うん・・・」




「それよりさあ・・・まだ眠れないんだったら・・・恋バナしない?」




「え?恋バナ?」




「ほら、ウチら男2人に女1人だろ?なかなか女の子とこういう話する機会なくてさ・・・シーナはどっちが好みなんだい?」




「えっ!?どっちって・・・」




テムラとディジーの・・・事だよね?




「テムラは腕が立つし将来有望だけどバカ正直過ぎる・・・ディジーは見た目は良いけどクールだし基本無口だ・・・どう?この2人なら」




「えっ・・・エマは?」




「私?私ははっきり言ってどっちも無理。長い事一緒に居るとさ・・・男と女ってより仲間意識が芽生えてね・・・一緒のテントで寝ても安眠よ安眠・・・今更意識しろっつー方が無理・・・で、シーナは?」




「私は・・・」




どうなんだろう・・・テムラは幼なじみだし、ディジーはよく知らないし・・・




「まだ恋愛とかには興味ないかな・・・」




「嘘でしょ!?冒険者仲間でも結構シーナ狙ってる奴多いよ?まあ、次点で私だけどね・・・人気あるの。でもそっか・・・ほら、鋼牙隊の副隊長のレギンさんなんてどう?イケメン、高身長、出世頭・・・うーん、堪んないわ・・・」




レギンさん・・・確か鋼牙隊って言われている冒険者チームの人で女性に人気あるって聞いた事がある・・・見た事あるけど・・・うーん・・・




「もしかしてイケメン好きくない?じゃあ、屋台やってるテッちゃんは?爽やかだし笑顔が堪んないのよね・・・」




テッちゃん?ああ、何度か食べた事ある・・・アタルさんと図書館から出たら屋台やってて・・・匂いに釣られてフラフラと2人で買い食いしたっけ・・・その後のご飯をかなり残してお母さんに2人して怒られて・・・ふふ・・・




「おやおや~?何を思い出して笑ってたのかな?」




「ち、違うよ!私は別に・・・」




「別に?」




「別にただ・・・」




「ふーん・・・そう言えば図書館に一緒に居た・・・」




「アタルさんは関係ないです!別に私は・・・」




「いや、あの人はどんな子が好みなのかねって言おうとしただけだけど・・・あれあれ?」




「なっ・・・そんな事・・・知りません!もう寝ます!」




顔が熱い・・・エマはにやにやとして私を見てる・・・まるで全てを見透かされているようで、私はエマに背を向けて横になった




ワタルさんは・・・記憶喪失で、誰も頼れる人が居ないから・・・私を頼ってくれてるだけ・・・いつかはどこかに行ってしまう・・・それが何処かは分からないけど・・・きっと私を置いて・・・






「エマ・・・あの野郎・・・」




「要らぬお節介・・・って所かな」




「うるせえ!お前もさっさと寝ろ!それとも一晩中見張りするか!?」




「明日狙いが定まらなくて良いなら付き合うが?」




「・・・早めに叩き起してやるから覚悟しろ」




「・・・交代時間は正確にね・・・じゃあ、おやすみ」




「・・・けっ・・・」




夜の帳が下り、テントの中も静まり返る。テムラはそんなテントを見つめながら火をくべる。炎を絶やさぬように・・・

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