第4話 飛んで異世界

しばらく彼女について行くと人の住んでる場所に到着した




これは・・・なんて言えばいいのだろう・・・日本だよな?ここ・・・それともやっぱり夢?




入口と思われる場所に辿り着くと彼女が門番ぽい人と話している。槍を持った門番?鎧も装備してるし・・・現実か夢か区別つかなくなってきた。門番にギロりと睨まれるが彼女に腕を引っ張られ中に入ると、家が建ち並び、人が行き交い、馬が荷物を運ぶ?




どんな田舎でも車ぐらいあるだろ?普通・・・。夢なら景気よく未来の乗り物とか見せてくれよ・・・これじゃあまるで・・・タイムスリップしたみたいじゃないか




人の格好も無地のシャツにズボン・・・たまに着飾っている人も通るが、そんな人は稀だ




そう言えば彼女は少し他の人達と違う格好をしてるな。ケープみたいなのを羽織り、質素だけど模様の入ったスカートを履いている。もしかしたらお偉いさんの娘設定?




彼女は笑顔で俺の手を引くと、町の中ほどまで進んで行く




彼女が立ち止まったのは古い教会みたいな建物の前。もしかしたら・・・これは新手の勧誘か?自然と共に生きよう教みたいな宗教であえて電気とか車とか使わない生活を強いる・・・現代っ子の俺には到底無理・・・あっ、スマホ家だ




彼女は中に入ると迷わず奥に行き、神父のような格好をした優しそうなオッサンと相変わらず理解出来ない言葉で会話する。オッサンは少し怒ったような顔を彼女に向けるが、俺を見ると優しく微笑んでくれた・・・入信します




チョロい俺はどうせ通じないと思ったから頭を下げて微笑み返しといた




どうやら彼女が日本語しか喋れない事を伝えてくれたのか、オッサンは喋らずに軽く頭を下げる。どうやら感謝の意らしい・・・俺が彼女をハチから守ったって事かな?




ようやく周りが見えてきた。ここは言わゆる礼拝堂・・・やっぱりここは教会なんだ。拝むのは十字架に張り付けられた神様じゃなくて、祈りを捧げる格好をした女神様?みたいだな




グウ~




キョロキョロと見渡していると腹の虫が鳴ってしまった。そう言えば夕飯前に買い物に行ってから何も口にしてないや・・・水はたらふく飲んだけど




その音は言語が違えど共通らしく、オッサンは苦笑しながら礼拝堂の奥へと案内してくれた




扉を開けると小さな部屋があり、そこにはテーブルと4つの椅子が置いてある。奥にはキッチンがあるらしく、包丁を持ったオバチャンが怪訝そうな顔をして俺を見ていた




オッサンが何やらオバチャンに説明するが、疑いの目を向け続けるオバチャン・・・どうやらかなり不審がられているようだ




それでもオッサンと彼女の説得?で、渋々納得した雰囲気のオバチャンはキッチンへと引っ込み何かを作っている様子




俺はオッサンに進められ、椅子に座ると居心地の悪さを誤魔化す為にキョロキョロと部屋を見渡した




特に何も無い質素な部屋・・・花瓶に花が生けてあるが見た事のない花だ




彼女は俺の横に座りニコニコ笑う




オッサンも座って俺を見て微笑む




くっ、策士め・・・囲って俺を落とす気か・・・




だが残念だったな!何を言われようと言葉が分からん!フハハハハ!




と脳内で高笑いしていると、オバチャンが何かを運んで来た




木の皿に山盛りに入れられた葉っぱ・・・サラダか?これ・・・




次に先程のサラダの入った木の皿より小さめの皿を俺の前に置く。どうやらサラダはみんなで分け合って、目の前に置かれた皿は個人用みたいだ。中を見ると赤い色のスープ・・・ミネストローネ?




次にサラダの横にパンが4つ入った皿が置かれてオバチャンが席に着く




夕食って言うよりどっちかって言うと朝食だな・・・パンからも湯気が立ってるから自作したのかな?




さすがに最初に手は出せないから様子を伺っていると、3人は両手を組んで何かを呟く




ああ、お祈りか・・・飯にありつけて神に感謝ってやつだな




俺も見様見真似で手を組んで目を閉じる




途中薄目を開けるとまだ祈ってる・・・腹減ったんだけど・・・




ようやく終わったと思ったら、俺にどうぞと手で合図してきた




そう言えばスプーンも取り皿もない・・・え?どうすんのこれ?




とりあえずパンを手に取り口に運ぶ・・・全員驚いた様子で俺を見るが知ったことか・・・で、感想だけど味がほとんどしない・・・パ・・・ン・・・だよな?




口の中で咀嚼しながら首を傾げると彼女はクスッと笑い、パンを手に取り真ん中を裂いた。そして、サラダを何枚か入れるとスープにポチャン・・・え?そういう事?




彼女は微笑みパンを口に運ぶ・・・なんかエロいと思ったが、そんな邪念は捨てて同じようにパンにサラダを挟み、スープに付けてみた




赤いスープは意外とドロリとしており、パンとサラダに上手くからみつく。テーブルを汚さないように顔を前に出して口に運ぶと・・・めっちゃ辛いやんけ!




喉を押さえて水を求めるが、3人はキョトン顔をした後に笑いやがった




いやいや、娘さんを救った恩人ですよ?成り行きだけど




オバチャンは鼻で笑うとキッチンへと行き、木のコップになみなみ水を汲んで持って来てくれた。ありがとう、オバチャン・・・




勢いよく水を飲み、何とか口の中の辛味成分を胃に流し込む。その間も3人は平然とパクパク食べていた・・・水もなしで・・・




言語の壁の他に食文化の壁もあるとは・・・これは早目に帰らないと、味覚障害に陥りそうだ




何とか残りはスープをチョンと付けるだけにして完食・・・他の3人に比べてスープが残りまくる俺・・・お残しさんで申し訳ない




そうこうしている内に眠気が襲ってきた・・・そう言えば昨日は朝まで新作RPGのレベル上げしてたんだ・・・もう時間の感覚も分からなくなりウトウトしていると、オッサンに案内されて2階に上がりベッドのある部屋に連れて行かれた




何か言って頷いているから、恐らくここで寝てくれ的な事だろう・・・眠気も手伝って遠慮なくベッドへとダイブした




オッサンは苦笑して部屋のドアを閉め、完全に1人となる。瞼が重い・・・眠気MAX・・・あれ?・・・夢なのに・・・眠い・・・って・・・






・・・殺して・・・殺して・・・殺して・・・






寝かせてくれ






・・・殺して・・・殺して・・・殺して・・・






頼むから






・・・殺して・・・殺して・・・殺して・・・






しつこい!




「寝かせてくれって言ってるだろ!?」






・・・良かった・・・やっと反応してくれた・・・






「・・・誰?」






・・・知ってるでしょ?・・・三枝・・・






「サエグサヒカル?」






・・・ヒカリ!・・・良かった・・・もう通じないかと・・・






「通じない?」






・・・貴方を逃がそうと・・・だけどP・C・Gが・・・






「??・・・何の話だ?」






・・・覚えてないの?・・・対能がやって来て貴方に向けて・・・






「・・・P・C・Gを放った?」






・・・そう・・・あの実験室でP・C・Gを使われたら逃げる術はないわ・・・






「それで君が逃がそうと?」






・・・ええ・・・私の超能力はテレポーテーション・・・でも普通と違うの・・・






「普通と違う?」






・・・自らを転移するんじゃなくて・・・手に触れた物を転移する能力・・・






「待て・・・俺を転移した?触れた物って・・・触れられないんじゃ・・・」






・・・ええ・・・だから賭けだった・・・城さんに頼んで・・・






「城さん?」






・・・あー、城島だ・・・このテレパシーは俺の能力でな・・・ヒカリちゃんはあの時、俺のテレパシーにテレポーテーションの能力を乗せた・・・






「・・・訳が分からん」






・・・私もよ・・・出来るかどうかも・・・出来たとしてもどうなるかも・・・分からなかった・・・






「んで、ここはどこだ?」






・・・分からない・・・






「おい」






・・・ごめんなさい・・・あの時はとにかく遠くへ・・・それだけ思って使ったから・・・






「・・・いや、ごめん・・・助かったよ・・・まあ、出来れば日本にして欲しかったけど・・・」






・・・ごめんなさい・・・もうひとつ・・・言わないといけないことが・・・






「・・・なに?」






・・・そこね・・・日本じゃないの・・・






「いや、それぐらい分かるよ。ここに居る人誰一人として日本語通じないし、見た目も外人だし・・・」






・・・そこね・・・地球じゃないの・・・






「だから分かるって。言葉が全く通じない・・・え?」






・・・そこね・・・異世界なの・・・






・・・やばい・・・サエグサともコミュニケーションが取れなくなったぞ・・・日本じゃない、地球じゃない、異世界でしたって・・・脳みそだけになって厨二病が発症したか?






・・・城さんのテレパシーは・・・一度話した相手とどこにいようと繋げられるの・・・で、ある程度どこに居るか分かるんだけど・・・貴方は地球には居ないの・・・そこは・・・地球じゃない別の星・・・異世界なの・・・






「冗談・・・だよな?」






・・・残念ながら冗談じゃない・・・俺も君とは長く通信出来ない・・・遠いと負担が激しい・・・もうすぐ限界だ・・・






「ちょっ・・・待って!」




なんだよその国際電話は高いから早目に切り上げる的な感じは・・・基本カケホだろ?まだ聞きたい事が山ほど・・・






・・・ごめん・・・なさい・・・






「おい!待て!ここはどこなんだ!?おい!待てって!」




返事はない・・・




ウソだろ?テッテレーって言ってくれよ・・・じゃあ・・・あの3人・・・いや、町の人全員異世界人!?




途方もない出来事に眠気が一気になくなった




そして、これが夢ではないと確信した時、あのハチの恐怖が込み上げてくる




もし刺されていたら・・・身体の震えを手で両手で押さえながら、俺は布団の中に潜り込んだ




どこかも分からない場所で、あんな化け物のいる場所で、知る人も居ない場所で、言葉も通じない場所で・・・俺は生きていかなくてはならなくなった

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