第5話 お勉強

異世界生活・・・何日目だ?最初の頃は日にちも気にしてたけど、今ではお決まりの行動しかしてないから何日経ったか気にしなくなってしまった




教会の居候生活は板につき、ようやく全員の名前が分かった




川全裸少女はシーナ。神父オッサンはハムナ。激辛オバチャンはレジー




そんでお決まりの行動とは、朝起きて、激辛スープパン?を食べた後、楽しいシーナとのお勉強して、ランチ、勉強、夕食、就寝・・・なんて規則正しいのだろう




もちろん勉強はこの世界の言葉・・・片言だが挨拶とか基本的なものは身に付けた。図書館に行って図鑑を見ながらこれは何、これは何と覚えて行く




その生活を続ける中で気付いたことがいくつかある




ひとつはこの世界・・・なんと魔法が存在する




一口に魔法と言っても色々とあり、基本的には1人1属性らしい。例えば火魔法を覚えたら水魔法は覚えられない・・・そんな感じ




不便だなって思ったけど、ひとつに絞った方が覚えが早いから不便に感じた事はないらしい




ちなみに案の定シーナの家は教会で、シーナとハムナは魔法の中でも特殊な神聖魔法が使える。敵を倒すって言うより仲間を癒す事に特化した神聖魔法・・・優しいシーナにはもってこいの魔法だな




もうひとつは人類の敵・・・魔物




あのハチも魔物らしく、針の一突きで人を殺め、肉を食らうらしい・・・聞いた時は血の気が引いた・・・超能力がなかったらお陀仏だったよ




昔は魔王とか居たらしいけど、今はそんな魔王は討伐されて基本的には平和らしい。英雄譚がいくつもあって、その中でも1番人気は魔王討伐を果たした勇者一行の話・・・ちなみに教会にあった女神と思ってた像はその勇者一行のパーティーに居た神聖魔法使いのレーネの像らしい。なんでも死人すら生き返らせた強者で体の一部からも生き返らせられる伝説の神聖魔法使い・・・だったらしい・・・眉唾だな。そんな事出来たら増殖できるやんけ




まあ、言ってみればこの世界はRPGで言う所のクリア後の世界・・・魔王倒してエンディング迎えてハッピーエンド・・・魔物も年々減っているらしく、シーナもそれで油断して川浴びをしている所に魔物のハチが現れたものだからビックリしたらしい。ってな訳で命の恩人である俺は気兼ねなく居候させてもらってる訳だ




食事に関して言えば全て激辛なのではとビクビクしていたが、そんなことも無く、レジーが激辛大好物で結婚当初は3食激辛だったらしいが、ハムナが泣いて頼み朝食だけにしてもらったらしい・・・大変なんだな・・・結婚って・・・




コミュ力激低の俺だけど、話が通じなければ生きていけない・・・なので積極的に言葉を覚える為に率先して会話をする・・・まあ、主にシーナにだけど




英語すらまともに話せない俺が短期間で片言でも話せるようになったのはシーナのお陰・・・もう十分過ぎるくらい恩返ししてもらった・・・いや、かなりお釣りが出るくらい・・・




何とか自立しないと日本と同じようにヒキニートまっしぐら・・・この世界で一生を終えることになる




そう・・・目的は日本に帰ること




その為にはヒカル達の助けが必要なのだが、あの会話から一向に連絡が来ない・・・向こうがどうなっているか分からない為、何とも言えないが、最悪の状態を想定しとくべきだな




「アタル・・・聞いてる?」




「あ、ああ・・・今日の昼飯は川魚が良いよな」




「・・・聞いてない」




俺の耳を引っ張りプンプン顔のシーナ・・・可愛いな




今は例によって図書館でお勉強中・・・単語を並べるだけだったのが、文法も覚えて何とか会話らしい会話が出来る・・・シーナとだけだけど




ホームステイ恐るべし・・・日本に帰ったらお願いしてみようかな・・・英語喋れたら色々便利だしな・・・




「貴方の国は・・・どの辺かな?」




今日のお勉強は世界地図(大まからしい)を見ながらだ。俺は一応記憶喪失って設定を貫いている。じゃないと不審がられるから・・・主にレジーに




シーナは少しでも記憶が戻るようにとありもしない出身国がどこなのか探してくれている。いい子や




「どうだろ?・・・この国はどこ?」




初めて見る世界地図・・・地球儀みたいに丸くなく平面にズラリと国が並んでる。全ての国が地続きになっている訳ではないから、移動は船なんかも使うらしい。交易とかも盛んに行われ、レジーの好きな唐辛子風な辛いやつも輸入品らしい・・・輸入禁止にするべきだな




「メイザーニクス共和国です。隣がテンナクス国とアブラム帝国・・・この小さい国がシューリー国ですね」




シーナが指をさして教えてくれている時、近くに座っていたカップルが突然立ち上がり去って行った。別に普通の事なんだけど去り際に少しシーナを睨んでいたような気がする・・・気のせいか?




「この町はどの辺?」




「ここです」




うーんと、メイザーニクスが中央としたら、西にテンナクス、南にアブラム、東にシューリーか・・・で、この町、アンテーゼは東寄りだな。北は海になっており、その先にはまた大きい大陸がある・・・地続きになってるのはメイザーニクスを含めると4カ国・・・いや・・・5カ国か。西のテンナクスの先にも国があるな




「この国は?」




「そこはブルデン王国ですね。別名『魔法の国』と呼ばれてて、魔法使いのメッカとなってます」




ふーん・・・面白そうだな。魔法・・・使ってみたいな




シーナは俺がハチを魔法で倒したと勘違いしてる。まあ、そりゃあそうか・・・超能力がこの世界になければ、魔法と思うのも無理ない。風魔法辺りで羽根を攻撃したと思ってるらしい




あー、憧れるな・・・魔法・・・




「アタル?」




「あ、ああ・・・いずれ行ってみたいなーって思ってさ・・・」




魔法ならもしかしたら日本に帰れる手段があるかも知れない・・・念動力じゃまず無理だしね




「・・・そう・・・」




突然暗い顔をするシーナ・・・シーナはこの町、アンテーゼから出れない運命らしい・・・って言うのも神聖魔法使いは希少らしく、町に1人は居なくてはならない・・・その1人がハムナであり、後釜がシーナだからだ。地図を見るだけの世界・・・俺のヒッキー生活とは違い、出てはいけないこと運命・・・




「ご、午後は川魚でも捕まえに行く?ほら、図書館にはない実際の物を見て覚えたいし・・・」




せめて町の外に・・・この前ハチが出たから外出するのに難色を示すハムナとレジーだったけど、俺が一緒なら近くならと許可はもらってる・・・一応は信頼されてるのかな?




「うん!いっぱい捕って今夜の夕飯にしましょう♪」




パッと笑顔になるシーナを見て胸を撫で下ろす。やっぱり外の世界に興味あるんだろうな・・・年齢相応・・・って、これは驚いたんだが、この世界には誕生日がないらしい・・・つまり年齢が不明・・・見た目で判断しろって事かな?それにも理由があるらしいが、さすがに専門用語が出るとちんぷんかんぷんなので教わってない




とりあえず機嫌も直った事だし外に出る前に腹ごしらえ・・・図書館を出て適当な飯屋に入るとテーブルについた




あっ・・・図書館に居たカップルもいた。よく見ると女性の方はチャイナ服に似た服を着て、お団子頭・・・男性はカンフー映画に出てきそうな道衣を着ている。もしかしてこれは・・・と期待していると期待通りの展開に




カップルが黙々とご飯を食べていると絡んでくる別の客・・・あー、あるある・・・ここでお盆とか使って撃退するんだな?




絡んできた客は『あーんコラ』とか『澄ましてんじゃねえよ』とか言ってるけど、あとは早口なので聞き取れない・・・もっと勉強が必要だな




カンフー男は一切目も合わさずに無視し続け、食事を終えたのかハンカチで口を拭いている・・・いやはや余裕だね・・・期待していた展開になりそうだ




無視された頭髪の寂しい男が怒り胸倉を掴んだ瞬間、カンフー男は胸倉を掴んでいる腕を捻り膝裏に下段蹴り・・・あえなくハゲ膝をついて撃沈・・・もっと派手な戦いになると思ったのに意外に呆気なく終わってしまった




店員も巻き込んでの大騒動・・・みたいにならなくて残念・・・あれ?




「リュウシ・・・行くヨ」




気のせいかカンフー男は俺を見ていたような気がする・・・チャイナ女に急かされて去って行ったけど・・・ちなみにカンフー男は長髪だった・・・正面から見ると普通くらいの長さだけど、後ろ姿を見ると腰まで伸びてて1本に編んでいる・・・世界地図に中国なんかあったか?




世界は変われど服だったり髪型だったり流行るもんは流行るんだな・・・って、あの髪型は昔のカンフー映画だけなのかな?




とにかくご飯を食べ終えた俺らは外に出て出会った川で魚捕り・・・なんちゃって風魔法と言う名の念動力で次々に魚を捕り、ホクホク顔で家路についたのだった

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