第2話 序章2
ボインボ歩くの早い
そんな文句も言えず必死に後を追って、立ち止まったのはエレベーター前
鍵を差して捻ると下を向いた矢印のボタンを押した
カギがないと下に行けないのか・・・俺の危険レーダーがビンビンだ
「さっさと乗れ」
俺の危険レーダーはシオシオになった。ボインボが学生時代の家庭教師だったら、俺は東大に合格していたかも知れない・・・素直に従いすぐにエレベーターへと乗り込んだ
ボインボの影に隠れていたから何階を押したか見えなかったが、エレベーターは確実に下へと向かっている。地下2階くらいだろうか?すぐにエレベーターは止まり、扉が開くとボインボは降りて歩き始めた
そして、目の前には磨りガラスの自動ドア。横の機械にカードをピッと当てるとドアは自動で左右に分かれる
ボインボが居て正面は見えなかったが、左右を見渡すと何やらパソコンとか計器みたいのが忙しなく動いている
何の機械だろうと近付こうとした時、ボインボが俺の方に振り返った
「三枝に会いたかったのだろう?三枝は中央のアレだ」
中央のアレ?おおよそ人を指すのに不向きな言葉に俺は怪訝に思いながらもボインボが指す方向を見た
え?何アレ?・・・アレって・・・
「どうした?超能力者を見たかったのだろう?アレが超能力者の成・れ・の・果・て・・・・三枝ヒカルだ」
思い出した・・・なんで突然サエグサなんて苗字が浮かんで来たのか・・・随分前にニュースでやってたんだ・・・超能力者サエグサを確保した・・・そんなニュースを・・・
試験管と言うには大き過ぎる透明な円柱状のケースの中に、超能力者サエグサは居た・・・いや、あった
脳みそに付いてる目玉と目が合う・・・そう、彼女は脳みそと脊髄と目ん玉だけになっていた
「さて・・・アレが果たして生きているかどうかの定義は置いといて、せっかく超能力者に出会えたんだ・・・挨拶でもしたらどうだ?見たかったのだろう?超能力者を・・・君が超能力者ゆえに」
え?俺が超能力者?・・・そんな・・・ボインボの前では使って・・・てか、なんでこんな姿に・・・もしかしたら・・・捕まった超能力者達は・・・
「不思議そうだな。超能力者が出たらこちらにも通報が入る。捕まえたらすぐにここに送られて来て処理しないといけないからな。通報が入り騒がしくなった時に君は現れた・・・もしかしたら三枝を助けに来たのか?だが彼女はあそこから出すとものの数秒で死んでしまうぞ?それでもここから解放してやるか?」
ちがっ・・・そんな・・・
・・・殺して・・・殺して・・・殺して・・・
誰だ!?俺の頭に直接語りかけるのは!?
・・・殺して・・・殺して・・・殺して・・・
まさか・・・サエグサ?
俺は自分の置かれた状況を飲み込めず、ただひたすら語りかけてくる声の主を探しサエグサの方を見た
コポコポと空気の玉が下から出て来て目ん玉の前を通過すると、明らかにサエグサの目ん玉はこちらを見ていた
「もうすぐここにpsychic capture・・・君らの言う所の対能が来る。それまで私と話さないか?望むならなんでもさせてやる・・・残り少ない人生・・・楽しんだ方がお得だろ?」
サイ・・・何を・・・言ってんだ?ボインボは俺に惜しげも無くそのボインボたる部分を押し付け、指で顎をなぞる。妖艶な瞳を細めてしなやかに動かす指になぞられ、俺は逃げる事が出来なくなった
「簡単で良い。君の能力を教えてくれ・・・こうして生身の超能力者と話す機会など早々ない・・・いつ頃から使えた?使うとどうなる?どうやって隠してこれた?仲間は?さあ、全てを私にさらけ出せ」
なんで・・・ボインボは俺を・・・いや、まだ確信には至ってないはず・・・俺はボインボの前では使ってない・・・偶然が重なって・・・それで押し切れ
「俺は・・・別に・・・」
「安心しろ。P・C・Gは人体に無害だ。研究の結果、超能力の妨害をするだけ・・・君が超能力者じゃないのなら恐れる事は無い。ただ発見され逃げて来たのなら監視カメラに全て記憶されている・・・君がもし通報のあった超能力者なら対能が乗り込んできた時点であの培養液の中で生涯を終える事になるだろう」
む、無理だ・・・ババアに騒がれてから逃げて来たのを色んな所で見られている・・・監視カメラがどこにあるか分からないが、あの対能の女にも顔をバッチリ見られている・・・
「ただ・・・私と話をすると言うのなら話は別だ。聞かれた事に素直に答えれば国もそう悪い対応はしないだろう。私も口添えしてやる・・・対能に捕らわれあの姿になりたいと言うのなら好きにするが良い・・・さあ、どうする?」
そんなの決まって・・・
・・・騙されないで・・・貴方は必ず・・・同じように・・・
また!・・・でも・・・もうどうする事も・・・いや、まだ望みはある!ボインボの持ってるカギとカード・・・それを奪ってエレベーターに行き地上に戻って・・・
「ほら、もう来るわよ?答えを・・・聞かせて?」
指先で顎を押し上げてくる・・・これがなんでもない時のお誘いなら是非もないが、そんな状況じゃない・・・俺は顔をずらして指から離れるとボインボを突き飛ばす。もちろん胸を押したが不可抗力だ
突き飛ばしたボインボに手のひらを向ける。人に使った事がない・・・けど人を殴った事も無い俺はこうするしかなかった
「キャア!」
手を付いて倒れているボインボは突然仰向けに倒れた。首が折れたんじゃないかと思うくらい仰け反り、倒れて動かないボインボ・・・殺しては・・・ないよな?
その時遠くからエレベーターの到着を知らせるチンという音が聞こえた。ボインボの言う通りならエレベーターに乗っているのは・・・対能・・・
急いで多分気絶しているであろうボインボのポケットを漁っていると自動ドアの開く音と同時に声が聞こえる
「捕まえてやる!!この危険分子がぁ!!」
危険・・・俺は何もしていない・・・
後ろから現れた女はゴツゴツした銃を構えた
チラリと見てその女がさっき俺の前に立ち塞がった対能の女だと言うのに気付いた。ああ、確かに危険かも
銃口は真っ直ぐにこちらを向いている。ボインボは人体には無害と言ってたからあの銃で死ぬ事はないんだろうけど・・・俺も彼らと同じように・・・
諦めて振り返ると恐らくサエグサと思われる目ん玉と目が合った。どんな表情してるのかな・・・せっかく殺してくれそうな奴が来たのにあっさり捕まってと呆れ顔してるような気がする。ならせめてもの償いとして・・・
超能力が無効化される前に・・・ゾロゾロと対能の連中が集まる前に・・・彼女の願いを叶えるべく俺は手のひらをサエグサに向けた
・・・貴方だけでも・・・生きて!・・・
無理だよ・・・もう・・・無理だよ・・・
銃から聞こえる激しい発射音。その前にあのケースを壊そうとしたが・・・ごめん・・・ひ弱な俺の力じゃ壊せなかったよ。目の前が光に包まれ何も見えない・・・もしかしたら次に見えるようになった時・・・俺はあのケースの中から誰かを見ているのかな?そうしたらボインボをずっと視姦してやる!
そう心の中で誓い、視界が戻るのを待つ・・・・・・・・・どれくらい経っただろうか・・・ほんの数秒かも知れないし、何日も経っているかも知れない・・・ぼんやりと見えてきた光景は明らかにあの場所とは違っていた
青い空、白い雲、小鳥のさえずり、木の隙間から差し込む太陽の光・・・あれ?
ガバッと起き上がって周囲を見渡す
あれあれ?俺・・・森林浴でもしてたっけ?
森の中・・・だよな?どうやら木に囲まれて大の字で寝そべってたみたいだ
記憶が混濁する中、立ち上がるとやはり森の中のようで建物なんかは一切見えない
何が起こったか全く理解不能な俺は急激な喉の乾きを感じて、とりあえず飲み物を探しに歩き始める・・・その先にはお約束が待っていると知らずに
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