剣と魔法・・・時々超能力

しう

第1話 序章


・・・殺して・・・殺して・・・殺して・・・






頭にこびり付いて離れない




目の前には液体が入った容器の中で脳みそと脊髄と目ん玉だけになった元人間




そんな不気味なものが何個も並べられてる部屋で俺は1番前のソ・レ・と目が合った






・・・殺して・・・殺して・・・殺して・・・






殺してって人を殴った事すらない俺にはハードルが高過ぎる・・・そう思った時、後ろから声が聞こえた




「捕まえてやる!!この危険分子がぁ!!」




危険・・・俺は何もしていない・・・




後ろから現れた女はゴツゴツした銃を構えた




対超能力用銃──────psychic control gun 通称P・C・Gを躊躇なく打っ放す




目の前が光に包まれ、俺は──────


















──────現在行方を追っており、市民には不必要な外出は控えるよう呼び掛けております──────




まるで犯罪者のように扱うニュース番組を消すと部屋のベッドに寝転がり天井を見た




ため息しか出て来ない




突如として現れた『超能力者』




最初はみんなヒーローを見るように羨望の眼差しで見ていたにも関わらず、今となっては恐怖の対象だ




国ですら『対超能力者部隊』を結成し、超能力者狩りをしている始末




お陰で超能力者達はその能力を発揮する事無く身を潜めて生活するようになった




・・・まあ、俺もその一人なんだが・・・




ふと机の上にあるペン立から1本のボールペンを浮かび上がらせる




そして目の前でクルクルと回していると突然部屋のドアが開いた




「ねえ、中あたるちょっと買い物に・・・ってアンタ!またそんな事して!!見つかったらどうすんの!」




「うげっ!母ちゃん!勝手に開けんなよ!」




「はあ?家に母ちゃんが開けたらダメな場所なんてありゃあせん!さっさと買い物行ってきい!ほら、コレ!」




と、バックとメモを渡す母ちゃん・・・メモの内容を見てみるといつも行ってるスーパーで揃うものばかりだった




くそっ、はじめてのおつかいレベルじゃねえか




「母ちゃんこれからご飯作るから早く行って買ってきんさい!買って来ないと夜飯ないからね!」




就職に失敗して3年もの間ダラダラしている肩身の狭い俺には逆らう手立てはなかった




ニュースで連日のように放送される超能力者確保の話題や超能力者がいかに危険かを伝える自称専門家の話・・・そんなものを聞かされて働けるかってんだ




まあ、両親には悪いと思ってる




大学も出させてもらって、いざ就職となったら引きこもり・・・学生時代は良かったんだ・・・ぼっちに慣れていたから




でも就職するとなるとそうは言ってられない




普段からコミュニケーションを怠っていた俺は次々に面接で落ちた




超能力の事を理解してくれている両親は最初は暖かい目で見てくれていたが、3年もニートしてるとそりゃあ怒りたくもなるだろうな




部屋と1階の居間を行き来する毎日




ネットやテレビの世界だけが俺の世界




そんな世界を憂いてか、母ちゃんは何かにつけて俺を外に出そうとする




今日は1人でお使い、前は重い物を買うから付き合えだっけか?大して重くないのに・・・そう思いながら運んだっけか




俺は立ち上がるとパジャマからよそ行きのシャツに着替え外に出た




もう夕方・・・そろそろ冬も近いな。日が落ちるのが早くなってる






買い物は朝食用だと思われる牛乳と食パン。朝はご飯が良いのだが、ニートに贅沢は禁物だ。食わせてくれるだけでもありがたいと思わねば




メモに書いてあるもの全てを買って、そそくさとスーパーを出た




すると遠くから高校時代のクラスメイトが歩いて来るのが見えた。談笑しながら横並びで歩いてる。そんなに広い道ではないのに邪魔な奴らだ・・・俺はすぐに路地裏に隠れやり過ごすことを決意・・・気付かれたら面倒だ




『今何してるの?』




そんな言葉を掛けられたら死にたくなる




そもそも話した事ないから話し掛けられる可能性は低いけど、奴らはそういう者にも平気で傷口を抉るような質問を平気でするような人種だ




ここは隠れてやり過ごすのが正解・・・そうやって俺は生きていくと決めていた




後もう少しで通り過ぎる・・・と、その時レジ袋の底が破けそうになっているのに気付いた




クソっ・・・こんな事なら母ちゃんが言っていたようにマイバックを持ってくるべきだった。でも花柄だったし、恥ずかしいだろあんなの・・・




もう少し・・・もう少しだ・・・通り過ぎたら下から抱えて家に帰ればいつも通りの毎日が送れる




だが無常にも牛乳パックの重みに耐えられなくなったレジ袋は一気に裂け目を拡げてしまう




牛乳パックが落ちれば、奴らは立ち止まりこちらに興味を持つかも知れない・・・そうしたら・・・




そう考えていると牛乳パックは地面へと落下を開始する。思わず俺はその落下を止めてしまった・・・身動きひとつせず




お陰で奴らは気付かず通り過ぎて行く。路地裏の暗さと日が落ちているにも関わらず明るい道を歩く奴ら・・・その光景が悔しくてすぐに次の行動に移せなかった事を一生悔やむ事になる




「えっ・・・い・・・いいやぁぁぁぁ!!」




同じレジ袋を持ったババアが叫ぶ。レジ袋を両手に抱え、恐らくこの先にある小汚い自転車で帰ろうとしてここに入って来たのだろう。自転車が奥にあるのは知っていたが、まさか使ってるとは思わなかった。だからこんな路地裏に誰かが入って来るとは思わずに、すぐに牛乳パックを手に取らなかった




地面に落ちず宙に浮く牛乳パック




それを見てババアは叫んだ




──────超能力者が居ると──────








頭がパニックになり、路地裏からババアを押し退け走り出す




言い繕う暇はない




奴・ら・は何処にでも現れる




警察よりも早く現場に駆け付け、迅速に、無慈悲に無力化して連れ去って行く




その後の事は分からない。お決まりのセリフ『その後、彼を見たものはいない』で締めくくられるバッドエンドだ




無意識に顔を隠して家とは反対側に走り出していた




顔を見られたら終わり、家を知られても終わり




こうならないように引きこもっていたのに・・・でも、母ちゃんが悪い訳じゃない・・・元クラスメイトと向き合えなかった俺の弱さが引き起こしたんだ




ジロジロと見てくる視線を掻い潜り、人気のない道を選んで走る




もう少し日が落ちれば闇に紛れて逃げれる・・・そう思えた瞬間に最悪の相手が道を塞ぐ




「そこまでだ!」




灰色のツナギ・・・ホームセンターに普通に売ってそうだが、動きやすさを考慮した奴・ら・の制服




──────対超能力者部隊──────




正式にはもっと長い名前だったと思うが、愛称みたいな形で『対能』とか呼ばれている




最悪だ・・・奴らはテレビで見る限り、1人居たら10人はいると思った方がいい




ワラワラと出て来る前にここを離れなければ、俺は連れ去られた彼らの行く末を知る者になってしまう




銃を構える対能・・・明らかに動揺して持つ手が震えているのが分かる




「くっ!」




アレを撃たれれば終わりだ。撃たれれば俺はただの人間になり、簡単に捕まってしまう




手を振り払うといとも簡単に対能の者の手から銃が弾け飛ぶ




もし、しっかり持っていたら俺は反撃で撃たれてアウトだっだろう・・・もしかしたら彼・女・は配属されたばかりなのかもしれない・・・俺の弱い力でも弾くことが出来たのだから・・・




俺が走って通り過ぎようとするとキッと睨みつけてくる彼女・・・ああ・・・笑ったら可愛いだろうに、そんな目を向けないでくれ・・・俺は何もやってない・・・ただ牛乳パックを浮かせただけだ




慌てて銃を取りに行こうとする彼女を横目に、俺は全力で彼女から遠ざかる




しかし




「・・・体力の・・・限界!・・・」




壁に手を付き、肩で息をしながらの独り言




そりゃあそうだ。俺の世界は自分の部屋と居間のみ・・・こんな広い世界は俺には不向きだ。近頃は階段の上り下りすら苦痛に感じる始末。体力のなさは自慢じゃないが今がトップピークだろう




ふと触っている壁を見上げると驚いた・・・何mくらいあるだろうか・・・そびえ立つ壁の高さに腰を抜かしそうになりながら、こんな高い壁がある建物なんかあったかどうか記憶を探る




「・・・分かるわけないか・・・」




家からほとんど出ない俺が知る訳もなく、自嘲気味に笑うと壁伝いに歩いて行く




壁の上には有刺鉄線・・・もしかしたらいつの間にか刑務所を誘致したのだろうかこの街は・・・




そんな呑気な事を考えていると後ろの方がにわかに騒がしくなってきた




俺を探している?あの子が応援を頼んだのか?




焦った俺は弱気な肺に喝を入れ、残り少ない体力を全て足を動かす事に集中した




走る俺・・・だが、聞こえて来る足音は近付いている




生きて帰ったら貯めたお年玉でランニングマシンを買おうと心に決め、痛くなってきた横っ腹を押さえながら走り続けた




壁の切れ目に巨大な門。看板は見る暇がなかったが、ちょうど門が開くと車が1台外に出る




門は自動で閉まっていくが、これをチャンスと思いするりと中へと進入した・・・これが刑務所だったら笑えるな




だが、その考えはすぐに違うと分かる・・・敷地の中央にあるのは病院ぽい建物で、刑務所には見えなかったからだ。となると高い壁に有刺鉄線とくれば精神病院?逃げ出さないように隔離しているヤバい病気の持ち主が集う隔離病棟?・・・何がなんでも看板は確認しておけば良かった・・・




ちょうどその時建物から出て来る白衣のオッサン・・・よし・・・




「どうもー」




「おい!君!?」




いつもの出入り業者のようにすれ違いざまに入ろうとしたら止められた・・・失敗




「あっ・・・サエグサさんは居ますか?ちょっと用事があって・・・」




しまったぁ!!もっと無難な名前にすれば良かった・・・白衣のオッサンは顔を顰めて俺の身体をジロジロ見てる・・・




「サエグサ?・・・すまないが私は赴任したばかりでな・・・用があるなら表に向かってくれ。ここは関係者以外立ち入り禁止だ」




「そ、そうですか・・・ありがとうございます」




ラッキー・・・危なく不審人物扱いで警察に引き渡される所だった。でも、どうする・・・表に回れば警備員とか居そうだし、どっちにしろ・・・




「三枝?貴様三枝に何の用だ?」




やべぇ・・・知ってる人キター・・・白衣の上からでも分かるめっちゃボインのキツめなメガネ女子が俺の適当に言った名前に反応して近付いてきた




「あ・・・いや・・・その・・・」




どうする?男か女か分からんサエグサに何の用かって聞かれたら、どう答えれば正解なんだ?てか、サエグサは医者か?患者か?面会って言って医者だったらアウトだぞ・・・そうだ!




「その・・・とある情報筋に聞いたら、サエグサは超能力者の疑いが・・・」




魔女狩りじゃあー。こうやって密告すると対能の連中がわんさかやって来る・・・そうすれば病院も混乱して、その隙におさらば出来る!我ながら策士よのう




「三枝が超能力者?・・・ハッハッハッハッハッ」




突然笑い出す巨乳メガネ・・・ヤバい、もしかしたらコイツが・・・




「篠塚さん?どうしたんです?」




違うんかい




「瀬名・・・お前まだ被・験・者・の名前すら覚えてないのか?」




明らかに年上のオッサンに偉そうに言う巨乳ボイン・・・じゃなくて、メガネ。それにしても被験者?なんの事だ?実験とかしてる訳?つまり医者じゃなくて研究者か?




「あっ!」




瀬名と呼ばれたオッサンが何かに気付いたように声を上げる




「ふん・・・で、君は三枝が超能力者の疑いがあると知って何しに来た?」




確かに・・・普通なら通報すれば済む話・・・わざわざ超能力者を見に来るなんて奴はいないよな・・・




「その・・・超能力者を見た事無かったので一目見ようと・・・」




若気の至り!肝試しで廃病院に行く若者代表です!




「なるほど・・・ならば見て行くか?」




え?何この流れ・・・見て行くかって・・・




「ちょっと篠塚さん!」




「安心しろ・・・それと・・・」




ボインボインは瀬名のオッサンに近付くと何やらボソボソと俺に聞こえないように伝えた。ハッハーン、実はこの2人恋人同士だな?この後のボクとの約束は?ふっ、少年の興味を満たしてやるのも研究者の務めだろう?的な?




「分かりました・・・くれぐれも・・・」




今夜のディナーには遅れないで下さいねってか?あー、ヤダヤダ




「付いて来い。特別に案内してやる」




カツカツとヒールを鳴らして歩き始めるボインボ。どうせなら前を歩いて後ろ向きになりたい・・・揺れるボインボに埋もれたい




「どうした?怖気付いたか?」




いや、あれよあれよと進む話に付いていけてないだけです




俺は急いで彼女の後を追った・・・地獄の入口に向かっているとも知らずに・・・

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