これまでのあらすじ

これまでのあらすじ

 あらすじを紹介するのはオレ、末っ子のハンフリーだ。出番が少なすぎてよ、みんなに忘れられてるんじゃないかと思ってさ?


 オレたちが暮らすのはロンドンだ。古戦場に染みこんだ埋蔵血を燃料や原料に使ってる。道には蒸気車デッカーが走り、都心部には電気も通ってるぜ。イングランド軍の主力はスピーダーバイクっていう高性能エンジンを搭載した大型二輪車部隊な。


 家族は、父親ボリングブルックに、上からハル(ヘンリー)、トマス、ジョン、ハンフリーの四兄弟。父上が前王リチャード二世から王位を簒奪さんだつしヘンリー四世として即位したことで、俺たちの運命も大きく変わったんだ。


 一番変わったのは、いきなり皇太子になったハルだな。もう一人の弟みたいな存在、モーと共に十代から戦場を駆け回り、司令官として必要なあらゆる力を身につけていった。


 過酷な環境下で鍛えられたハルはやがて、プランタジネット家(オレたちの祖先)代々の大義であるフランスの領土回復と王座を手に入れるという野望を抱くようになった。プランタジネット家ってのは元をたどればフランスに領土を持つ貴族だからな。

 しかし、これが父上との軋轢あつれきを生んで、対フランス政策方針の違いで二人は対立してしまう。トマスをはじめ、オレたちも仲裁しようと努力したんだけど、結局仲違いしたまま父上は病で崩御した。


 一方フランスは、国王シャルル六世が精神病を発症し、政権が機能していない。これを狙うのが無怖公率いるブールゴーニュ派と、王家に支援されたシャルル・ドルレアン率いるアルマニャック派の二代派閥だ。シャルル・ドルレアンは父親を無怖公に殺された恨みもあって、血を血で洗う争いが続いている。この時はブールゴーニュ派がパリから駆逐されてたな。


 ヘンリー五世として即位したハルはこれに目をつけ、フランス侵攻を決意する。けど出航前夜、なんと暗殺計画が発覚した。

 首謀者はケンブリッジという、モーの義兄だった。言葉巧みに焚き付けたのはアルマニャック派シャルル・ドルレアンだ。


 モーの父親は、オレたちの父ヘンリー四世が排除した王リチャード二世から、プランタジネット家の後継者と指名されていて、その権利はモーに継承されていた。つまり、簒奪王朝ランカスター家のヘンリーを排し、正統な血筋の義弟モーを王に据えようってわけだ。


 ところが、ギリギリのところでヘンリーに計画を打ち明けたのが、他でもないモーだった。義兄か、兄と慕うヘンリーか。モーにとってはどっちを失ってもつらい選択だったよな。結果、ケンブリッジは処刑された。


 謀略を逆手に結束を強めたオレたちは、ついにフランスへ上陸した。

 まず最初に補給港を確保するために、アルフルールって街を包囲したんだけど、疫病で予想外の損害に苦しめられてさ。トマスの機転で何とか勝利したけど、そのトマスが生死の淵を彷徨ったのには焦ったよ。


 陸路でイングランド領カレーへ向かうオレたちの前に、アジャンクールで10万のフランス軍が立ちはだかる。オレたちはたったの8000だ。けど逃げ場なんかない。一体どうやって立ち向かえってんだ? オレも死を覚悟したね。


 この圧倒的不利な状況で、ヘンリーはイングランド軍の得意技「スピーダーの起動力で敵陣を崩してたたみかける連携攻撃」を封じて、全軍に徒歩で戦うことを命じ、決死のトマスがフランス軍を誘き出した。


 前日まで大雨が降って柔らかくなった地面を利用して相手の動きを封じ、集中砲火を浴びせ、ヘンリー自ら死に物狂いの突撃だ。オレも重傷を負ったけど、終わってみれば大勝利だった。兄弟全員でヘンリーを勝たせることができたから、今思い出しても胸が熱くなるな。


 次はフランス北部ノルマンディ地方の首都ルーアン攻略だ。司令官トマスが破竹の勢いで蹂躙じゅうりんしていく勢いに、ノルマンディ全土が震え上がった。

 それに輪をかけたのが、第二の都市カーン攻略時にヘンリーが見せた冷酷王の顔だ。無抵抗の市民二千人以上を虐殺したんだ。これによりカーンは投降し、その後もほとんどの街は抵抗することなく明け渡された。だから両軍ともトータルの犠牲は少なくできたけど、ヘンリーは今でもどこか悔いている気がする。


 その後オレたちがノルマンディの首都ルーアンを攻めている頃、パリにはブールゴーニュ無怖公が返り咲いていた。国王を支配下に置き、王に代わり国土を侵略者から守るなんて宣言してな。それってヘンリーと対決するってことだろ?


 けど、二人の間には「ヘンリーがフランス王になる支援をする」って密約がある。矛盾を抱えた無怖公は、あの手この手でどちらを裏切るわけでもなく、曖昧な態度を取り続けるわけだ。


 無怖公の動向に振り回されるのもいい加減やめたいよな。そんな時、劇的な事件が起こる。アルマニャック派王太子シャシャとの会見の場で、無怖公が惨殺されたんだ。取り返しがつかないことをしてしまったフランス王家に対し、家督を継いだ息子のフィリップはイングランドとの同盟を決断した。


 こうして、シャルル六世の死後はヘンリーをイングランド=フランス二重王国の王として認めるというトロワ条約が締結され、ヘンリーとフランス王女カトリーヌは結婚式を挙げた。


 望むもののほとんどを手に入れたヘンリーだけど、これを維持していくのは並大抵のことじゃないと思うなぁ。

 というわけで、イングランドの戦いは新たな局面に突入するぜ!


 ちょっとだけ先取りすると……

 ヘンリーはカトリーヌと共に凱旋帰国。

 トマスはフランスに残ってる。酒量が増えたって聞いたけど大丈夫なのかな。


 イングランドで留守を預かっていたジョンは、フランスの攻撃を海上で防ぎながら内政も取り仕切って、結構苦労したみたいだ。議会には戦費削減を強行されて、ヘンリーに泣きついてた。


 オレ? へへっ、オレはヘンリーと一緒に帰国して、彼女ができましたー!

 運命の出会いっていうの?向こうは亡命してきたんだけどさ、一目惚れしたらしいんだよねー。


 ってなわけで、後編いってみよう!

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