幕間

再戦アジャンクール ~料理対決~1

「さあ、やって来ましたフランスはアジャンクール! 激戦のこの地で、なんと今日は料理対決だ。実況は俺! ブラッドサッカー(以下ブ)と、」


「トマス(以下ト)でお送りするよ。早速ルールを説明しよう。赤組イングランド勢と、白組フランス・ブールゴーニュ勢の紅白戦だ。一対一の三本勝負で、出されたお題に対して料理を一品ずつ出し合い、どちらの料理がよりお題に相応しいかを審査員が判定するよ」


ブ:では次に、審査員のご紹介。アジャンクール戦の総大将、我らがヘンリー様と、シャルル・ドルレアン氏!

ト:そしてゲスト審査員はブールゴーニュ無怖公だ。

それじゃ、早速始めよう! 最初のお題は『こんなブランチ作ってくれる人と結婚したい』……完全に作者の願望じゃん。


ブ:黒服に黒エプロン、黒三角巾姿でお玉を手にスタンバイしてるのは、ブールゴーニュ公となったフィリップ坊ちゃん!


「僕が作るのはウフ・アン・ムーレット。ポーチドエッグを赤ワインで煮込んだ、ブールゴーニュの伝統料理だよ」


ト:ブールゴーニュ地方といえば、ワインの名産地だからね。これは期待できそうだ。


「エシャロットとマッシュルーム、細切りベーコンをバターで炒めて、赤ワインで煮詰めていくんだ。今日はブランチだしあっさりさせたいから、ブイヨンも入れるよ。ここにウフを落として、よーく煮詰めて、スライスした田舎パンを添えれば…出来上がり!」


ト:ワインと卵。意外な組み合わせだけど、これが合うんだよね。


「ボリュームが欲しい時は仔牛の肉なんか一緒に煮込んでもいい。ロマネ・コンティと合わせれば最高のブランチさ。んふふふふふふふふふふふふふふふ」

「うんめえぇ〜」


ブ:ヘンリー様はご満悦っすね〜。そして無怖公も故郷の味にがっはっは! だ。

ト:ヘンリーは何食べても基本うまいしか言わないからね。ていうかロマネ・コンティ(世界一高価なブールゴーニュワインで一本100万円は下らない。ヘンリーの結婚祝にフィリップがあげたのもコレ)は反則だろ? いきなり凶器でぶん殴ったようなもんだぞ。


ブ:さあ、対するイングランドは末の弟ハンフリー様だ。


「オレは温かいミートパ———」

「ちょっと待て。こんなに硬くなるまで煮込んでワイン漬けにしたら、卵の良さを全部破壊してるじゃないか。おれが本当の卵ブランチを味あわせてやろう」


ブ:おーっとぉ、乱入してきたのはジョン様! バリっと白衣姿ということは、まさかご自身で調理するつもりなのか!?

ト:あいつが調理なんかできるわけないだろう。顔も洗わずラボに籠りきりで生活してる奴だぞ?


「君に? これを超える卵料理ができるって?」

「見てろよ」


ブ:ジョン様、まずは厚切りベーコンをそのままフライパンでカリカリに、スライスした田舎パンは火のそばで温めている。あーっと!? おもむろに掴んだ卵を見事に片手で割り、そのまま沸騰した湯の中へ! じっと目を凝らしている。卵を透視するかの如く、ものすごい集中力だ。

タイミングを見極めて一気にすくい上げると、手早くベーコンと重ねてパンの上へ。上に乗せるのは濃厚なチーズだ! そのまま直火で軽く炙ると、ああ、とろりとチーズが溶け出してきたぁ!


「どうぞ」

「ん、ふっ」


ト:あれ、フィリップが喉を上下させているな。これは意外にうまそうじゃないか。溶けたチーズにゆっくりナイフを入れると、下からとろーっと卵の黄身が流れて、パンがしっかり受け止めたね。


「ちがう、下のパンまで切って、全部一緒に口に入れるんだ」

「そんな大口開けたらみっともないじゃん」

「なんだ、おれには見せられないってのか」

「…べつに」


ブ:おろろろぉ? ジョン様に見下ろされるフィリップ坊ちゃんの顔が、心なしか赤い気がするんだけど?


「そんなジッと見ないでよ」

「美味いか」

「…うん」

「ブールゴーニュの名産ディジョンマスタードをつけて食べても美味いと思うぞ」

「それ、僕が言いたかった」


ブ:えー、作者からのカンペによると、これは21世紀のニッポンで大流行するエッグ・ベネディクトの原型。それを今ここで開発してしまったジョン様の天才たるや恐るべし!


ト:これはいきなり乱戦だな。判定は!?

ブ:ヘンリー様、白。シャルル・ドルレアン氏、赤。無怖公、白。よってフィリップ坊ちゃんの勝ち!


ト:それでは、フランス勢ながらジョンに軍配を上げたシャルル・ドルレアンからコメントだ。


「チーズの丘の下から卵の黄身が流れたのはまるで、ランカスターの朝日が昇るようだった。実に美味である」


ブ:シャルル・ドルレアン氏まさかのタイトルコール! しかし、ヘンリー様はブールゴーニュとの同盟重視で、きっちり白を出してきましたね。

ト:いいやロマネ・コンティで買収されたな。フィリップの作戦勝ちだ。


ブ:なになに、再び作者からのカンペ。シャルル・ドルレアン氏は現在ロンドン塔に幽閉中で、詩作に没頭しそこそこ快適に暮らしている模様。解放されるまでは二十四年かかるが、その間に英語をマスターし、英語詩を作成するまでになるらしいぞ。



ブ:さて、二回戦のお題は『作ってあげたい彼スイーツ』。対決するのはこの二人、赤組ジュリアと、白組カトリーヌ王妃!

ト:ヘンリーは赤白どっちに上げても波乱の予感だな。

ブ:家庭の崩壊はイングランドの崩壊だ! さあ勝負開始!


「あたしはもちろん、ハル様が大好きなアップルパイ。今日はアレンジして、干しブドウとイチジク、洋ナシも入れたよ」 


「私も…アップルパイを作りました。お好きだと聞いたので。でもお好きなのは、ジュリアさんがお作りになったものなのですね」

「いやぁ、その…そうなんだけど…」

「陛下、ジュリアさんとはどのようなご関係ですか」


ブ:そしてヘンリー様にはぁ、女性の前で嘘がつけないという致命的な弱点がある!

ト:さあどうする?


(つづく)

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