第5話【俺のギルティは色々な能力が使えるみたいです②】

「・・・よし。これで旅人登録は終了だ。この街【ラック・ロフト】は賑やかな町だから、十分に楽しむと良い」


ビギン森林を抜けるとようやく文明染みた景色が見えてきた。


門番に手続きをしてもらい、煉瓦製の大門をくぐり抜けると外壁の中には様々な屋台が立ち並んでいる。武器屋に飲食店。花屋に宿屋まで。それこそ漫画で見たことのあるような異種族達が、景気盛んに商売に勤しんでいた。


こりゃぁ・・・まるでお祭りだな。


「ぷはぁ・・・! それにしても強敵でしたねぇ。あのデイズ。おそらく私の勘から察するにラスボスクラス。いや、もしかするとラスボスクラスより更にランクが上かも・・・?」


俺の死を経てようやく虫型のデイズを倒すことが出来た俺とノア。


戦闘終了後、ノアは街中に辿り着くとやり切った表情でポーション(回復用)をゴクゴクと飲んでいた。


俺は溜息をつき、ノアの飲んでいるポーションを奪い取る。こっちの方が疲れてるわ。それに結局デイズを倒したのも俺だしよ。


俺の怒りを察しているのか、ノアはただ指先同士をくっつけ気まずそうにするだけだ。


それから何か切り替える話題はないかと奴は周囲を見渡す。


「そ、そういえば美味しそうなお店がたくさんありますねぇお腹も空いてきましたし・・・禊さんは、何か食べたいものとかありますか??」


「ぁぁ、本当に旨そうだな。誰かさんの攻撃を喰らって死んでいたら、この旨そうな料理も食うことが出来なかったんだろうなぁ」


嫌味満載の俺の一言にノアは冷や汗をダラダラとかいている。


「ーーけ、けど本当に良かったですねぇ! 禊さんのトゥラストが私にピッタリの能力で・・・もし、それでなかったら死んでましたもんね!うんうんうん!本当に良かった!」


よく言うぜ。けど、まぁ、トゥラストに関しては本当に運が良かったとしか言いようがない。もし仮に俺のトゥラストがもっと他のーー仮に言うなら攻撃系統のトゥラストなら、今頃俺はビギン森林で死んでいるところだったもんな。


【トゥラスト】


それは簡単に言えば、ゲームを始めたプレイヤーに一つだけ与えられる特殊能力のようなものだ。


そして俺に与えられたトゥラストの能力名は【自己犠牲オートライフ】・・・つまり『味方からの攻撃を受けて瀕死した際に、自動的に蘇生される』という治癒系統のスキルだ。


最初はこんなの外れ能力だと思っていた。


実際にベルに調べてもらった時も他の能力と比べればランクは【C】と低かったし、普通に旅をする上でこんな無価値な能力もないだろう。


だけど、誤発ばかりを繰り返すノアの持ち主である俺にはぴったりの能力だと思った。というより、この能力が無ければ俺は安全に旅が出来ないとすら思った。


溜息混じりに俺はポーションを飲み干す。続けて側にある屋台でチキンを二つ買うと、ノアにその内の一つを手渡す。


「それよりもだよ・・・まず最初にベルは『ラック・ロフトに向かいなさい。そしてそこにいるガンジュという長老にノアについての詳しい話しを聞くと良いわ』って言ってたけど、その長老はどこにいるんだよ」


せめて長老の居る場所くらいは教えてくれればいいものを。


それにノアについての詳細だって、ベルが知ってることがあるのなら教えてくれたら話しが早かったのに


「ーーあー、見てください!禊さん、あれ!フレアバードバーガーですって!すごく美味しそうですよ!」


当の本人であるノアと言えばハンバーガーの屋台を見つけると猛ダッシュで店に走って向かおうとしていた。本当に良いご身分だ。

それにそんなに急いでると誰かにぶつかーー


「あぶっ!」


・・・遅かったか。


「すみません・・・俺のギルティがご迷惑おかけしてーー」


ノアがぶつかった相手は二人組の女性。いや、一人の少女と一体のギルティだった。


一方の少女は俺と同じくらいの年齢だった。茶色い髪を一部だけ編み込み、ガラス製の髪飾りをつけている。彼女は陶器のような青い瞳でこちらを見下ろしていた。またその側で立っていたギルティはというとーー


「ヴァ・・・ヴァルキリー・・・?」


膝下で転けているノアを気遣う形で上部を見上げると、そこに居たのは確かにヴァルキリーだった。


以前チュートリアル映像で見たヴァルキリーとは格好や髪の色がが少し違うけど、絶対に見間違いじゃない。


「あ、あのヴァルキリーさんですよね・・・? お、俺すごくファンでぇ! 一度で良いからお目にかかりたいと思ってたんですよぉ! あ、良かったらその鎧触ってもーーはぼっ!」


突如頬に喰らう激しい衝撃で俺は吹っ飛び側にあった屋台に勢いよく突っ込む。その衝撃で食べ物の屋台が半壊し、俺は焼きそばみたいな食べ物を頭から被りひよこが頭上をぴよよよよ〜状態になった。


「・・・何、私の許可もなくヴァルキリーに勝手に触ってんのよ。この底辺プレイヤー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る