第61話 桐谷の家庭事情

「はあ。何しよう」


 学校が終わり私はぶらぶら歩いている。


 前の学校にいた時の私は今頃友達と遊んでたっけ。土日だけバイトをしてそれ以外の日は毎日友達と遊んでいた。けど今の学校に来てからは仲良くなった人はいるものの遊ぶほど仲が良い人が出来ていない。


 誰かと遊びたい。家に帰りたくない。これが私の正直な気持ち。

 

何故、こんな風に思っているのか。それは私が小学六年生の時だった。私が小学六年生の時両親は離婚した。私は母親に着いて行った。けど私はそれが間違いだったと思っている。


 女手一つで私を育てた母親は何を思ったのかある日を境に暴力を振るい始めた。毎日のように暴力を振るわれた。

 暴力を振るい始めた時の母親の年齢はまだ27歳。まだ遊んでいたかったと後悔しているのだろう。私を生んだことを後悔しているだろう。


 中学校には入学することができ、高校にも入学できた。暴力を振るっているとはいえ母親はちゃんと仕事をしている。まあ、仕事をしていると言ってもそれは自分のためなのかもしれないが。その証拠に私が中学生の時、給食費を払ってくれなかった。それ以外にも学校で必要な物は買ってくれなかった。


 高校生になったらバイトを始められる。私は猛勉強をして公立高校の第11高校に合格した。そして私は中学を卒業してすぐにバイトを始めた。少し採用されるまで時間かかったけど無事にバイトを始められた。


 こんな苦労を乗り越え今の私がある。友達と遊ぶためのお金も自分が稼いだお金。たまにはお小遣いを貰ってみたかった。そんな夢叶うわけがないが。


 ここまでは母親の暴力にだけ耐えればよかった。しかし現実はそう甘くはない。


 ある日、母親が一人の男を家に連れてきた。母親よりも少し年下の20代後半の男。母親の新しい彼氏だと見た瞬間確信した。その時私は嫌な予感がした。その嫌な予感は見事的中。


 その男までも暴力を振るってきたのだ。全く部外者の男からの暴力。母親の暴力とは違い痛みの次元が違った。母親の暴力なら耐えられそうだったが、その男の暴力は耐えられそうになかった。交際の邪魔だから消えろと何かい言われたことか。


 まあ、その男がたまにしか家に来なかったことが、どれだけ安心できたか。


 もちろん児童相談所の人が何回か家に来たこともある。けど、母親が上手く誤魔化した。


 そして母親の転勤があって今この第3高校にいるというわけだ。着いてきたくなかったが無理やり着いて来いと言われた。ただストレス解消の道具を無くしたくなかったからだろう。


「帰りたくない......」


ポロっと私の口から漏れた言葉だった。

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