第62話 親
俺が桐谷の痣を発見して数日が経った。桐谷の痣のことはまだ誰にも言ってない。中西にも遠回しに桐谷の家庭について聞いてみたが何も知らないと言っていた。いじめられていたとはいえ、最初は仲が良かった友人同士。知らないっていうのも少しおかしい気がする。やはり何かあるから桐谷は話さなかったのだろう。
それにしても......。
「凛音ちゃん! 近くにアイスクリーム屋さん出来たの知ってる? 今日一緒に行かない?」
「行く行く!」
俺の隣が騒がしいと思えば、いつから潮田と桐谷は仲良くなったんだよ。
盗み聞きしたのは悪いと思っているが、近くにアイスクリーム屋さんが出来たって? 俺もいつか行ってみるか。
そんなことを考えている矢先に潮田が話しかけて来た。
「師匠も一緒に行きます?」
「え?」
何か気を使われている気しかしねえ。けど、行ってみたい気持ちはある。一緒に行ってみるか。
「まあ、行ってもいい」
「じゃあ決まりでーす!」
潮田が一人でキャッキャッはしゃいでいると桐谷が不満そうな表情を浮かべながら口を開いた。
「何でこの人を誘っちゃうの!」
「いいじゃんいいじゃん!」
「てか、何で
「だって師匠はかっこいいんだよ! ヒーローって感じがして超かっこいい!」
潮田はにこにこ笑顔を浮かべながらそう言った。
「まあ、人助けはしてたみたいだけどヒーローには見えない」
桐谷は潮田とは真逆の表情を浮かべて俺を見ていた。
「まあまあ仲良く行こうよ!」
この場の会話は潮田のその一言で幕を閉じた。
そして放課後。
俺はこそっと耳元で呟く。
「何でお前着いてきてんの? 気まずくねえの?」
「別に気まずくないですよ!」
そう言ったのは中西だ。中西はいつものように校門で俺のことを待っていた。けど、俺はアイスクリーム屋さんに行くから先に帰ってていいぞ、と伝えた。桐谷もいるし気まずいと思ったからだ。しかし中西は一緒に行くと言って着いて来たってわけだ。
「お前が気まずくなくてもあっちは気まずそうだぞ」
俺はそう言って桐谷の方に視線を向ける。桐谷は俺の視線には気づかずにずっと俯いていた。あの態度から気まずいと感じていることが分かる。
中西はそんな様子の桐谷をポカーンと口を開けて眺めていた。
「それにお前桐谷から謝ってもらったのか?」
流石にあの桐谷でも謝っていると思うんだが、一応訊いてみた。
「いいえ。いじめが解決した日から一切口をきいてません。私は別に話してよかったのですが先生が会話は控えるようにと言ったので」
「なんだそれ。じゃあ今から謝ってもらえ」
俺はそう言って足早に桐谷のもとに駆け寄ろうとした。しかし手に持っていた鞄を思い切り中西に引っ張られその行動を阻止される。俺の体は後方に傾き倒れそうになるが必死に耐え、倒れずに済んだ。
「なにすんだ!」
「必要ありません」
「なんで」
「今は何もされてないのですから必要ありません」
中西本人がそう言うのなら俺が余計なことをするのは間違っている。
俺は中西の手を鞄からゆっくりと放した。
「分かった。余計なことはしない。悪かった」
俺がそう言うと中西が目を見開いて驚いていた。
「な、何だよ」
「い、いいえ。何もありません」
中西は少し照れ臭そうにしていた。
こんな会話から数分経ってアイスクリーム屋さんに到着し、それぞれ食べたいアイスを購入した。
ちなみに俺はキャラメルアイスという物。他のみんなはバニラやチョコなどを購入していた。
店内で食べることも出来たが俺らは食べ歩きを選んだ。特にどこかに行くわけでもないのにぶらぶらと歩いている。
今頃気づいたがこのメンバーの中に杉山がいないのは珍しいな。誘ってやれば良かったかもしれん。
そんなことを考えている時。
「ドンッ」
俺の背中に何かがぶつかった。
「いって」
俺はそう言って後ろを振り返る。するとそこには体をブルブル震わせている桐谷の姿があった。いつもの桐谷の面影はなく全くの別人のように感じられた。
「いきなりどうしたんだよ」
「べ、別に......」
そんなことを口にしているにも関わらず視線は少し遠い場所に向いていた。俺も桐谷の見ている方向に視線を移す。するとそこには男性と女性が二人で歩いていた。年齢は30代くらい。男性の方は金髪でチャラい系。女性も明るい茶髪で耳には複数のピアス。それに肌の露出が多い服を着ている。明らかに普通の大人ではない。
俺はその二人を目にした瞬間気づいた。
「親か?」
「え?」
「だから親かって訊いてんだよ」
「別にあんたには関係ないでしょ」
「そうかよ」
俺と桐谷の会話に潮田が乱入してきた。
「どうしたんですか? 二人でこそこそしちゃって! 実は仲がいいとか?」
「「違う」」
俺と桐谷の声が見事にシンクロ。
「そうですか。あはは」
「あそこにいるの桐谷の親らしいぜ。かっけえよな」
俺はそんな一言を残し歩いた。
「どうしたんでしょう」
後ろから潮田の声が聞こえたがあえて無視をしておいた。
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