第59話 桐谷凛音

「何すんのよ」


「いいから着いてこいや」


 俺は桐谷の袖を握り強引に屋上へと連れて行った。桐谷も自分なりに抵抗はしていたものの、俺の力を上回るはずもなく結局抵抗することをやめ屋上まで着いてきた。


「鬼頭が私に何の用よ」


 桐谷は俺を鋭い目で睨み、今にも噛みついてきそうなオーラを放っている。


「いきなり呼び捨てか。まあ、ためだし全然構わないが」


「そんなことはどうでもいい! 私に何の用って訊いてんの!」


 桐谷の態度を見ればすぐわかるように、早くこの場から退散したいらしい。しかし、この俺がそんなことを許すわけがない。


 俺はニヤッと恐ろしい笑みを浮かべながら桐谷に近づく。


「何よ。来ないで! 私に何をするきよ!」


「別に何もしねえよ」


「嘘よ! 私の体に指一本でも触れたら速攻先生に言いつけるから!」


 高校生になってまで先生に頼ろうとする桐谷。全く、恥ずかしくないのか。生徒同士の問題は生徒同士で解決するもんだろ。


 どんどん桐谷に迫った結果、桐谷の背中は屋上の扉にピタッとついた。もうどこにも逃げることが出来ない状態。


「本当にやめてください......」


 自分の中の恐怖に負けたのかとうとうための奴相手に敬語を使い始めやがった。全くこいつはどこまで弱いのか。


「ドンッ」


 俺は屋上の扉を思い切り蹴る。そのせいで鈍い音が屋上全体に響き渡った。桐谷は音にビビって肩を震わす。


 俺は桐谷の顔に自分の顔を近づける。桐谷の顔と俺の顔の距離はおよそ10センチにも満たない。


「やめて......本当にやめてください」


 もうこいつの声を聞くだけでイライラする。


 俺は思い切り息を吸い込んで口を開く。


「別に暴力とか変なことをしようとは思ってねえ。けどな、これだけは言わせてもらうぜ。お前のしたことは簡単に許されるものじゃねえ」


「わ、分かってる......」


「分かってるならこれからしっかり、自分のやってしまった過ちを改めて自分の生活を見直せ。そこでようやくスタートラインだ。スタートラインに立ってからどうするかは自分で見つけろ。そして自分なりの答えを行動に表せ」


「何であんたにそんなことを......」


「俺は中西の友達だからだ! 友達を傷つけた奴は許せねえ。たとえ中西がお前のことを許そうとも俺はお前を絶対に許さない。分かったか!」


 自分で言うのも何だが、今の俺の迫力は生きてきた中で一番すごいかもしれん。その迫力を前にして立っている桐谷。流石いじめの主犯格。さっき敬語を使った時は弱い奴と思ったが、やっぱり胆が座っていやがった。


 俺は伝えたいことを伝い終え屋上から去った。屋上から教室に続く階段を下りていると杉山の姿があった。


「何だお前。いたのかよ」


「聞いちゃった! まあ許せないもんねぇ~」


 杉山は頭の後ろで手を組んでのこのこ歩き出した。


「かっこよかったぜい!」


白い歯をどうどうと見せそう言った杉山。


「うるせえよ」


俺は明後日の方向を向いてそう言ったのだった。


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