第58話 始業式
長かった夏休みも終わり、今日から二学期が始まる。
久しぶりの登校ということもあり学校が遠く感じた。
「これで始業式を終わる」
校長が始業式の終わりを告げ俺ら生徒は教室に足を運ぶ。
「いやー久しぶりすぎて体がだる子ちゃんだぜ」
俺の席の周りに集まって雑談をしている杉山と潮田。
すると教師が教室に入って来て口を開いた。
「本当は始業式前に紹介しようと思ったが生憎都合が悪くこのタイミングとなった。今日は転校生が来ている」
先生の言葉を聞いたクラスメイトの男子がざわざわ騒がしくなり始めた。
高校二年男子が転校生と聞いたらだれもが性別を気にするんじゃないだろうか。
女子だったら歓声の声を上げ、男子だったら静まり返る。
「入って来てくれ」
教師が廊下にいるであろう転校生にそう促した。その合図を聞いて転校生が教室に入ってきた。
最初に見えたスカートで性別がどちらかは判断できた。あとこいつらが期待しているのは顔面偏差値だろう。男子共は固唾を呑んで転校生の顔を眺める。
俺も興味はないがどんな奴なのか気になるので視線を転校生に移す。
「何っ⁉」
俺は思わずそのような声を漏らしてしまう。俺の声が聞こえたのか杉山や潮田がこちらを見てきた。
俺は何でもないと首を横に振る。
しかしこの転校生は凄く見覚えがあった。
俺はじっと顔を見つめた。しかしどれだけ見つめても思い出せない。
教壇までやってきたことを確認した教師が転校生に自己紹介をするように促した。
「初めまして。
桐谷凛音。その名前に違和感を覚える。どこかで聞いたことのある名前だからだ。
——くそっ。全然思い出せん。
俺が頭を抱えて悩んでいると桐谷がこちらに歩いてきていた。
何でこっちに来てるんだよ、という疑問が生まれる。
「桐谷さん、鬼頭君の隣の席らしいよ」
右斜め前の女子が俺にそう言ってきた。恐らく俺が考えこんでいる間、教師に俺の隣の席に座れと言われたのだろう。
俺の隣に来た桐谷がこちらを見ながら突っ立っている。やはり桐谷も俺のことを見たことがあるのだろうか。
俺がゆっくりと顔を上げることでお互いの視線が交差する。
すると桐谷が口を大きく開けて「あっ」と言った。
その声を聞いたクラス全員が一斉にこちらに視線を寄越す。
「何だよ。お前も俺のこと知ってんのか?」
「いや、あんた桃花の......」
「中西だと」
目の前にいる桐谷の口から「桃花」という名前が出て来た。
その瞬間、俺の脳内の記憶がよみがえる。
こいつは確か中西をいじめだした女。
全部思い出したぜ。駅のホームで携帯番号を聞かれた。
そんな女がわざわざこの学校に転校してくるとはな。
俺の口角が上がった。
「思い出したぜ。そういえばいたな、お前」
「え?」
俺の恐ろしい笑みを目にした桐谷は怯えながらそう言った。
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