第57話 花火
「ピロン」
俺がベッドでゴロゴロ怠けていると一通のメールが送られてきた。夏休みになってメールがよく送られてくる。プールに誘われた時と今回のメール。と言っても二回だけだが。けど昔の俺ならメールなんて絶対に送られてこなかった。こんな風にメールが送られてくるとは俺にも友達が増えたもんだ。
俺は少し自分に感動しながら送られてきたメール内容を確認した。
メールの送り主は中西だった。メール内容は一文に加えどこかのホームページの画像が一枚。
「何だこれ」
俺は一文よりも画像に興味がわきすぐさま画像の内容を確認した。
「夏祭り」
大きな太文字でそう書かれていた。
17時からと書かれている。恐らく中西はどこかのホームページでこの夏祭りポスターをスクリーンショットして俺に送って来たのだろう。
こんなのを送ってくるってことは......。
俺は画像の確認を終わらせると次は送られてきていた一文に目を通した。
『一緒に行きませんか?(照)』
このような一文が送られてきていた。俺の予想は見事に的中していた。
「やっぱりか」
俺は溜め息をつきながらスマホに文字を入力していく。
何故かとても指が重く文字を上手く入力できない。何度も入力しては削除する。その繰り返しだ。
「あーも」
俺は自分の頭をぐしゃぐしゃに掻きまわしながらそう言った。
そしてようやく文字の入力に成功し中西にメールを送ることが出来た。
『めんどくせえ』
夏祭りに行くことを拒否するようなメール内容だ。
このようなメールを送って数秒後中西から返信がきた。
『お願いします! 行きましょうよ~』
「何だこいつ。何でそんなに俺と行きたいんだよ」
俺が今きたメールの返事を考えているともう一通メールが送られてきた。
「何だよ中西の野郎」
俺はそんなことをぶつぶつ呟きながら今来たメールを確認する。
するとそのメールの送り主は中西ではなく林だった。
『夏祭りがあるみたいだけど一緒に行かない?」
「何でこいつまで......もうどうでもいい」
俺は断る相手が増えたことでもう抵抗する気力がなくなった。
「だるい」
「そんなこと言わないでください! せっかく来たんだから楽しまないと!」
中西は唇を尖らせながらそう言った。
俺は猫背のまま歩いている。ほぼ無気力状態。
そんな俺の耳元の近くで声が聞こえた。
「中西ちゃんいるのに私来てよかったの?」
俺の耳元で呟いたのは林だ。
「逆に何でダメなんだよ」
俺がそう言うと林は目を見開いてこちらを見ていた。
何でこんな目をしてこちらを見ているのかは分からないがいちいち突っ込むのがめんどくさいので無視することにした。
すると林は自分の頬を掻きながら口を開く。
「あ、ありがとう」
「何のお礼だよ」
「な、何でもないよ!」
林はそう言ってわははと笑った。ちょっと今日の林もプールの時と同様に何かがおかしい気がした。
俺と林のやり取りを見ていた中西が満面の笑みを浮かべながら口を開く。
「林さんもいることだしみんなで楽しもう!」
「おーう!」
林が腕を上げてそう叫んだ。
——何やってんだよ。恥ずかしくねえのかよ。
そんなことを思っていると中西と林が一斉に俺の方に鋭い視線を向けてきた。
まるで俺の思っていることを見透かされたかのように。
「何だよ」
「龍星さんも一緒に!」
「は?」
「だからこうやるんだよ!」
林はそう言って俺の腕を無理やり掴んで上に上げた。
「「おーう!」」
中西と林が「お前もやれ」とでも言っているような視線を向けてきた。
「お、おーぅ」
「声が小さいです!」
「クソがっ。おーう!」
俺がそう叫ぶと中西と林が同時に手をパチパチと叩いて拍手をした。
周りの人たちにも視線を向けられ恥ずかしい思いをした俺だった。
花火開始まで残り5分。
夏祭りなのだから花火があることは分かっていた。しかしどうしたものか全然楽しみじゃない。
その理由は明白だ。
花火が始まるまで色々な出店に付き合わされた。
綿菓子に焼きそば、イカ焼きなどなど。
こんなに食べると太るぞ、と思ってはいたが口にすることは出来なかった。
今も二人は綿菓子を美味しそうに食べている。
俺も買おうかと思ったが買うのを辞めた。女の子ぽい食べ物を食べると林にどんな風にいじられるか分かったもんじゃない。
俺個人の考えだが綿菓子は女の子ぽいイメージがある。だからといって男子が食べてたら恥ずかしいとは思わない。
しかし俺だけは別だ。ここには林がいる。こいつにいじられるのだけはごめんだ。
まあ、俺の考えすぎなのかもしれないが。
俺がぼーっと空を眺めていると肩をポンポンと叩かれた。
「何だ中西」
「龍星さんも食べたらどうですか?」
中西はそう言いながら綿菓子をちぎり俺にくれる仕草を見せる。
人差し指と親指で綿菓子をつまんいる。恐らくその2本の指はベタベタしているだろう。
しかし正直な感想を言うと綿菓子を食べたい。
中西が持っている綿菓子を貰おうとした時中西が手を引っ込めた。
「あーんさせてください!」
何を言い出すかと思えばこんな恥ずかしいことを......。出来るわけがない。
あーんしてもらうくらいなら食べない方がましだ。
俺は無言のままそっぽを向いた。
しかし中西は諦めが悪く、綿菓子を無理やり俺の口の中に入れてこようとした。
「はいあーん」
中西は俺をおちょくりながらそう言った。
「やめろぉ!」
俺が大声を出しても中西は一切びくりともしない。
しかし次の瞬間。
俺はとてつもない光を直視した。
空いっぱいに広がる花のような光。
花火だ。
中西も花火が打ち上げられたことで動きを止め空を見上げた。
林も目を見開いて花火を眺めている。
それぞれの目に映る色が違うという面白い現象が起きた。
一人一人目にしている花火が違うのだろう。
しかしそれぞれが感動していることに変わりはない。
「綺麗です」
横にいる中西がそう言った。
「うん。とても」
林も中西と同じ感情を抱いている。
俺は二人を交互に見て再び花火に視線を戻した。
俺もつい「綺麗だ」と口に出しそうになるが堪える。
『綺麗』という言葉以外での表し方が見つからない。
花火と一緒に視界に入る星もいい味を出している。
来年もここにくれば同じような花火が見れるというのに、もう二度と見ることが出来ない気がした。
ここで見るのを辞めてしまえば勿体ない。恐らく林と中西も同じことを思っているだろう。
こうして俺らは花火を見ることにただただ集中していた。
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