第44話 黒い不審者

今日の授業が全て終わり、ようやくホームルームの時間がやって来た。


「えーここ最近この近くで不審者が出ているという連絡がありました」


担任の教師が俺たちに向かってそう言った。


それを聞いた杉山が調子に乗った感じで教師に問いただす。


「その不審者ってどんな感じぃ~?」


杉山のふざけた態度にクラス全員が一笑い起こしたところで教師が口を開く。


「上下真っ黒の服に、真っ黒のサングラスと帽子を身に着けている。そんな格好の人を見つけたらすぐにその場から立ち去るようにしなさい」


担任の教師は俺ら生徒を一通り見渡しながらそう言った。


教師の言葉を聞いた杉山は「なるなるほど」とか意味不明な言葉を発して納得していた様子だ。


「それでは気を付けるように。さようなら」


そのような教師の言葉で俺らのホームルームは終わった。


ホームルームが終わってすぐに俺のもとに潮田がやって来た。


「師匠! 一緒に帰りましょ!」


今日は特に用事があるわけじゃないから一緒に帰れるものの、中西と仲直りしてからあいつは、またこの学校の校門に足を運ぶようになった。


まあ、潮田と中西を合わせても何の問題にはならないと思うが。


「別に構わねえよ」


俺がそう言うと潮田は目をキラキラさせながら何度も「ありがとうございます」と礼を口にした。


俺らは教室から真っすぐに靴箱に向かった。


そのあとはいつも通り靴を履き校門に向かう。


しかしいつも校門に立っている中西の姿が見当たらない。


俺は今までの経験で色々学んだ。こんな時絶対に何かトラブルが起こると。


「はあ~」


思わず口から重い溜め息が出る。


「どうしました師匠?」


「いや、何でもねえよ」


俺はそんな一言を残し足を動かした。潮田はその後を着いてくる。


歩き始めて約5分ほど経った時だった。


「師匠あれ......」


潮田がどこか遠くを指さしてそう呟く。俺はその指の先に視線を移し何が起こっているのかを確認しようとした。


すると......。


「あの真っ黒な格好。それに真っ黒なサングラスに帽子」


「はい間違いありませんよ師匠。あれって今日先生が話してた不審者です」


俺は不審者に目をやりながらももう一つ気になったことがあった。


「何か不審者ともう一人誰かいねえか?」


俺がそう訊くと潮田は目を細めながら確認していた。


「あれって......女子高生ですよ! けどうちの学校じゃない」


「だよな。あれ女子高生だよな」


しかもその女子高生にはとても見覚えがあった。


「あぁ~あれ中西だ」


「中西ってこの前の相談の時に出てきた女子高生ですよね?」


「そうだ」


——あぁ~何であいつはこんなにもトラブルに巻き込まれるんだよ。正直ここまでくると面白いぜ。


俺がそんなことを考えていると潮田がキラキラした瞳で訴えかけてきた。


『助けますよね? 師匠なら助けますよね? 助けましょう!』


恐らくそんな感じのことを言っているのだと思う。潮田は自分が事件に出くわしたことがすごく嬉しいのだろう。


まあ、不審者に連れ去られている中西を助けないわけにもいかないしな。


「じゃあ行くか」


俺はそう言って走り出した。潮田はその後を嬉しそうに着いて来る。


「おいこらぁ! くそ不審者が調子に乗るんじゃねえよぉ!」


「そうだそうだ! 師匠にかかればお前なんかけちょんけちょんだぞ!」


俺と潮田を目にした中西は目を見開いて驚きを隠せないでいる。


そりゃそうだ。毎回こいつが事件に巻き込まれたら俺が登場するのだから。


「龍星さん何でここに......」


「てめえがこいつに連れていかれるところを見たんだよ」


そう言って俺は不審者を睨みつける。


すると不審者が口を開いた。


「またお前か......」


「またってどういうことだ!」


俺がそう訊いた次の瞬間......。


不審者は俺の言葉など無視し、思い切り俺の腹部に蹴りを繰り出してきた。


「ぐっ......」


俺は腹を抑えその場に膝まづく。


——なんて速さだ。一瞬で俺のもとまで。


「大丈夫ですか師匠?」


「ああ、こんな軽い蹴り痛くも痒くもねえよ」


それを聞いた潮田は安堵の息を吐いた。それは中西も同様だ。


するとそんな時不審者が帽子とサングラスに手をかけた。


「へえ~どんな面してんのかねえ~」


俺はニヤッと笑いそう言った。




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