第43話 初給料
「昨日の夜、色々考え事してたら寝てしまった」
「何を考えてたんですか? 師匠」
俺のことを師匠と呼ぶ潮田が俺の席までわざわざ足を運んで話を聞いてくれている。
「いや、俺の知り合いの女子高生が面倒なことに巻き込まれてな」
俺は一通り潮田に相談してみることにした。
話し始めて約10分ほど経った。
「その中西さんって人が暴力以外で助けてほしいと言ったんですね」
「まあそうだな。けどその方法が見つからねぇー」
俺の話を聞いた潮田も一緒に解決法を考えてくれた。
「俺が思うにはやっぱ、ストレートにお願いするしかないと思ってる」
「けど前にも言った通り、人を助けるためなら暴力も必要だと私は思いますよ」
真剣な眼差しを俺に向けながらそう訴えかけてきた。何故か潮田の言葉はものすごく説得力がある。けど今回は潮田が何と言おうと暴力はダメだ。
「まあ潮田の言っていることもあながち間違えではないが、今回はどうしても暴力を振るっちゃダメだ」
「師匠が他人の言うことをそんなに守るとは......さてはその中西さんって人のこと好きだったり?」
手で口を隠し、ニヤニヤしながらこっちを見てくる潮田。
俺はそんな潮田の言葉を慌てて否定する。
「ち、ちげえよ。俺が誰かを好きになるなんてあり得ねえ話だ」
ちょっと今のは動揺しすぎたかもしれん、そう思った。けど、本当に中西のことが好きなんじゃない。
じゃあこの感情はなんだろうってなるんだが。
俺がそんなことを考えていると潮田が口を開いた。
「ちょっと怪しいですけどまあいいでしょ。取り敢えず暴力がダメなら言葉しかありません。どんなことを伝えるかは師匠が考えてください。私が考えては意味がありませんしね」
「そうだよな......分かった。ありがとな相談を聞いてくれて」
「いいえ。私は師匠の弟子ですから。また困ったことがあれば私を頼ってください。一種の修行と思い協力しますので!」
そう言って潮田はウインクをした。
「二日連続バイトはきついなー」
もう六月も終わろうとしている。
「バイトはきつい」とか呟いてるが今日のバイトはいつもとちょっと違う。
いつも通りバイト先のスーパーに足を運び、エプロンに着替え仕事を始める。
そんな仕事中、俺は少しソワソワしていた。
そんな俺はたまたま近くにいた林に問いただす。
「いつ給料もらえんの?」
俺がそう訊くと林は少し引いたような表情をして口を開いた。
「確かにお金がもらえることは嬉しいことだけどいちいちいつ貰えるか聞く? 普通店長が渡してくるのを待っとくでしょ」
呆れたようにそう言った。その時の顔は「お前子どもか」とでも言いたそうな表情をしている。
「そうかよ。じゃあ待っとくよ」
俺は少しふてくされながらこの場を後にした。
給料のことで頭がいっぱいになりながらも無事に仕事が終わった。
これでようやく給料がもらえる、そう思ったのだが......。
「貰えねえじゃねえか!」
俺は林に向かってそう叫んだ。もちろん周りにいた人達も俺の声量に驚きを隠せないでいる。
「おかしいですねぇ~。普通帰りに渡されるんですが......もしかして忘れられてたりして。ぼっちだから。クスクスクスクスクスクス」
とても楽しそうに俺をからかってくる。こいつ俺への恩を忘れたのか。
「勝手にからかってろよ。自分で聞いて来る」
俺はそんな言葉を残し店長の所に向かった。
俺の姿を目にした店長が口を開く。
「どうしたんだい? 鬼頭君」
「い、いやあ~あのぉ~」
——何だこれ、滅茶苦茶言いずれぇ~。
俺が戸惑っていると店長が手に持った物を俺に差し出してきた。
「はいこれ。鬼頭君の初給料だよ」
店長が手にしていた物は封筒だった。給料と言っているってことはその封筒の中にお金が入っているのだろう。
「店長、忘れてなかったんですね」
「忘れるわけないだろ。ちょうど今君に私に行こうと思ってたんだ。そのタイミングで君がここに来たってわけだ」
「ありがとうございます」
俺は店長が手にしていた封筒を受け取った。
「これからも頑張ってくれたまえ」
「はい!」
こうして俺は初給料を手に入れた。
ちなみに初給料は5万円だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます