第41話 小野寺

学校が終わると昨日メールで言っていたように中西が校門に立っていた。


「こんにちは......龍星さん」


喧嘩する前の時ほど元気がなく、中西はか弱い声でそう言った。


「で、話って?」


「駅に向かいながら話しましょ」


そう言ってとことこ歩き始めた中西。俺もその後を歩き始める。


歩き始めて数分経って俺は口を開く。


「何で昨日既読無視したんだ?」


いきなりの問いかけに中西は肩をビクッと震わせ俺の方に視線を向けた。


そしてもぞもぞと話を始める。


「あのまま返事をしていたら龍星さんが私の話を聞いてくれないような気がして......」


俺はその言葉を聞き首を傾げる。


そんな様子の俺を目にした中西は慌てて口を開いた。


「無駄なことを言ってしまって龍星さんの機嫌を損ねるくらいなら何も言わない方が良いかなと思っただけです」


「何で俺の機嫌が損ねる前提なんだ」


俺がそう言うと中西はそっぽを向いて誤魔化した。


確かに俺と中西は喧嘩中だ。そう考えれば今みたいな考えに至るのも無理はない。


俺は一度溜め息を吐き口を開く。


「取り敢えず話を始めろ」


すると中西は、はっとした表情を俺の方に向け口を開いた。


「本当に大した話じゃないんですけど......」


「分かったから話してみろ。この後バイトなんだ」


「分かりました」


そう言って一度咳払いをし、話を始めた。


「龍星さんは何で小野寺君に喧嘩のことを話したのか知りたいんですよね?」


それを聞いた俺は首を縦に振って軽く頷いた。


「実は私、龍星さんと揉めてからずっと落ち込んでて......」


そう言いながら中西の表情は徐々に曇っていく。


しかし俺は何も言わずにただ中西の言葉を待った。


喋るペースはいつもより遅いものの、詳しく話そうとしてくれた。


「そんな落ち込んでる私に小野寺君が声をかけてくれたんです。何があったのか色々聞いてきて......。でも、私は一切何も話してないんです」


「ん? 話してないってどういうことだ?」


「カラオケ店で小野寺君は私から話は聞いたって言ってましたが私は何も話してません。全部小野寺君の嘘なんです」


俺はしっかり話を聞いているものの理解が全く追いつかなかった。


「てことはお前は全く悪くないのか?」


「まあこの件に関してはですけど......」


「じゃあ何で小野寺って奴はそんな嘘を?」


俺がそう訊くと中西は引きつった表情を浮かべながら口を開いた。


「実は小野寺君ってヤリチンっていう噂があるんです。いや、噂というか事実なんですけど......。狙った女は逃がさないらしく、自意識過剰かもしれませんが今狙われてるのが私かもしれないんです......」


——あーまたこんな話か~。


林の件といい今回の件といい男関係の出来事が多い気がする。


俺は中西に続きを話す様に促す。


すると中西は軽く頷いて話を再開した。


「で、多分ですが小野寺君は龍星さんに敵対心を抱いていて、嘘をついてでもあの場の言い合いには勝ちたかったのかもしれません」


苦笑交じりにそう言った。


「何で俺に敵対心を抱いているのかが分からん」


「これも私の憶測ですが、小野寺君は自分と同じ女を狙っている人を許さない人です。小野寺君の狙っている女は多分私で、龍星さんが狙っている女も私だと小野寺君は勘違いしているのだと思います。そんなわけないのに。あははははは」


「なるほど。確かに俺はお前のことなんてどうでもいいと思ってる。けど小野寺って奴の勝手な考えが許せねえ。だから俺はあいつをぶっ殺す。そのついでにお前を助けてやる。それでいいか?」


俺は自分の掌を軽く殴りながらやる気があることを示す。


しかし中西の表情は明るくなることはなく、むしろ暗くなっていた。


俺はそんな中西の表情を不審に思い問いかける。


「どうしたんだ?」


俺がそう訊くと中西は小さい声量で話を始めた。


「私は暴力をあまり好みません。龍星さんは確かに喧嘩がすごく強い。けど私は龍星さんに喧嘩をしてほしくない。勝手なこと言っているのは分かっています。けど私は龍星さんに喧嘩以外の解決法を見つけてほしいです」


言葉を言い終える頃の中西は何の迷いもなく真っすぐと俺を見つめていた。


そんな中西の目に俺は吸い込まれそうになる。


けど正直なことを言うと暴力以外の解決法なんて分からねえ。


けど暴力はダメだとここ最近感じ始めていた。


中西の意見に同意するようで少し癇に障るが、暴力以外で解決してみようと思う。


「わーったよ。少しは努力してみる」


俺は頬を掻きながらそう言った。その言葉を聞いた中西は目を輝かせながら喜びに満ち溢れていた。


するとそんな様子の中西が突然頭を下げて謝罪をしてきた。


「龍星さんの気持ちを考えずに勝手に好きだと勘違いしてしまってすみませんでした」


恐らく今の謝罪は、俺が林に好意を寄せていると中西が勝手に勘違いしたことについての謝罪だろう。


確かにこのことについては少しイラっとしていた。けどこんな小さなことにイラっといている俺も情けない。


ここはお互い様ということでいいだろう。


「俺も悪かった。すまん」


俺も中西の方を向き頭を下げ謝罪した。


「か、顔を上げてください」


「はははははは」


いきなり笑い出した俺を見て少し驚いた様子を見せる中西。


「どうしました?」


「いや、何でもねえよ。戻って来たなと思って。この日常が」


俺が満面の笑みを浮かべながらそう言うと中西も俺につられてか笑い出した。















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