第39話 ムカつく野郎

ここ最近、変な出来事に絡まれる。


林の件や潮田の弟子入り。また何か起こりそう正直怖い。


けど、少し楽しみという感情もどこかに存在していた。


そんな考え事をしている俺のもとに杉山がやって来た。


「やあやあ龍ちゃん! そんな怖そうな顔してどうしたのぉ~」


「別にどうもしねえよ。お前は相変わらずテンションが高いな」


杉山が良い奴ということは分かっていることだが、たまに関わるのがめんどくさくなる。そのめんどくさくなっているのが今だ。


「で、何の用だ?」


杉山が何の用もなく俺の席に来るわけがない。何か要件があったから来たのだろう。


俺の質問に答えるべく杉山が口を開く。


「今日放課後カラオケ行っちゃわなーい?」


「カラオケ?」


俺は怪訝そうな表情を杉山に向けながらそう言った。


最後にカラオケに行ったのは確か小学3年の頃だった気がする。それ以降一度も行ったことがない。


けどこれもいい機会かもしれん。このまま大人になるまでカラオケに一度も行かないのはどうかと思う。


「ま、まあ行ってもいい」


「まじ⁉ 決まりねぇ~! おーい龍ちゃん行くって~」


杉山は離れた場所にいたクラスメイトに向かってそう叫んだ。恐らく今日カラオケに行くメンバーだろう。そのメンバーの中には女子の姿もある。


「まじかよ......」


女子の姿を目にした俺はそう呟いたのだった。






放課後になり俺らはカラオケ店に足を運んでいる。


人数は俺入れて6人。男子3人、女子3人。まるで合コンみたいな組み合わせだ。


滅多に女子と遊ばない俺は少し緊張している。


唯一遊んだ女子といえば中西くらいだろう。


しかしその中西とは今も喧嘩中。そのため女子と遊ぶのは久しぶりだ。


学校からおよそ20分くらい経ってカラオケ店に着いた。


店内に入り部屋に案内される。それから一人一つ飲み物を頼んだ。


俺はシンプルなオレンジジュースだ。


飲み物が俺らのもとに届くと一斉に乾杯をした。特に誰かを祝うわけでもないのだが乾杯をした。これが今どきの高校生なんだろう。


乾杯をし終えると女子の一人が曲を入れ始めた。


何度もカラオケ店に足を踏み入れているのか、曲を入れることにとても慣れている様子。


それから早速曲が流れ始めた。


「じゃあ俺が歌いまーす!」


そう言って立ち上がったのは杉山だ。


今どきの高校生のカラオケは自分が入れた曲だけを歌うのではなく、曲が流れ始めたらランダムで誰かが歌い始めるのだろう。


そう考えたら俺もどこかのタイミングで歌わなければならない。


流石にここまで来て一曲も歌わずに帰るのは金の無駄だ。


数分杉山の歌を聞いて次の曲が流れ始めた。


「龍ちゃん歌っちゃおう!」


杉山が満面の笑みを浮かべながらそう言った。


まさか二番手とは。緊張すもののこの空気を壊すのは申し訳ないと思い俺はマイクを手に取った。


そして曲に合わせて口を開く。


しかし俺には一つ欠点がある。


それは......音痴という欠点だ。






数分後


「あーあ疲れた」


歌を歌い終えた俺はジュースのお代わりをするべく部屋から出ていた。


しかしあのみんなの反応は流石の俺でも傷ついた。


「りゅ、龍ちゃん......下手すぎ」


「鬼頭君って歌下手いんだね」


「ま、まあ下手くそでも楽しめたらいいしね......」


そんな感じなことを言われた。


最後の言葉なんて絶対気を使われている。


こうやってジュースのお代わりをするために部屋を出たのは自分の心を少しでも癒すためでもある。


今頃みんなは俺の歌のことを笑っているだろう。まあこういうのも高校生ぽくていいが。


機械の前に着くとコップを置き飲みたいジュースのボタンを押す。


さっきと同様にオレンジジュースを押した。


ジュースがコップの中に入って行く。それをぼーっと眺める俺。


するとそんな時俺とためくらいの女子高校生が隣にやって来た。


その高校生もジュースのお代わりなのか手にコップを持っていた。


俺は何となくその女子高生の顔に視線を向ける。


するとその顔はとても見覚えのある顔だった。


「お前......」


俺の声を聞いた女子高生がこちらに視線を移した。


「りゅ、龍星さん......」


今俺の目の前にいる女子高生は喧嘩中の中西桃花だった。


「何でお前がここに......」


「龍星さんだって何で......」


お互い驚きを隠せないでいる。


するとそんな時一人の男がやって来た。


見覚えはないが俺とためだろう。顔はイケメンで優しそうな性格をしている。


「桃花ちゃんどうしたの?」


「お、小野寺君⁉ どうしてここに?」


「僕もジュースをお代わりしようと思ってね。えっとその方は?」


小野寺と呼ばれた男は俺に視線を向けてきた。


「第3高校の鬼頭龍星さん」


「第3か! うちの学校と近くだね! 僕は小野寺隼人。よろしく」


小野寺は満面の笑みを浮かべながらそう言った。


「桃花ちゃんと知り合いなの?」


いきなり表情が変わりそんなことを聞いてきた小野寺。


「こんな奴知らねえよ」


「え......龍星さん......」


中西が悲しそうにしているのが分かる。


それに気づいた小野寺は俺を睨みつけて口を開いた。


「よく分からないが桃花ちゃん悲しんでるじゃないか」


「てめえには関係ねえだろ」


俺もガンを飛ばしながら会話をする。


何故かこいつとは仲良くなれる気がしなかった。


「や、やめて小野寺君。私は大丈夫だから」


「こいつも言ってるだろ。大丈夫って」


俺がそう言った瞬間小野寺が俺の胸倉を掴んで口を開いた。


「誰であろうと桃花ちゃんを傷つける奴は許さない」


「何言ってんだてめえ。もしかしてお前中西こと好きなのか?」


俺がそう訊くと小野寺の顔は少し赤くなった。しかし一切表情は変えずに再び話を始める。


「君には関係ないことだ。君には何も教えない」


「だったら俺と中西の関係もてめえには関係ねえよ。許さないとか言って実際に何があったか知らねえくせに。よそ者が出しゃばんなよ」


「知ってるよ。桃花ちゃんに全部聞いたからね」


「聞いたって私何も話して......」


「桃花ちゃんは黙ってて」


小野寺は中西の言葉を遮り俺を見た。


先ほどまでの優しそうな雰囲気は微塵も感じられない。


「話を聞いたところ全部君が悪い。桃花ちゃんは一切悪くない」


「てめえがどんな話を聞いたか知らねえがどっちが悪いかなんて、てめえが勝手に決めんなよ」


「僕は桃花ちゃんのことを良く知っている。彼女が悪いわけがない」


「おいおい、話し合いにもならねえ。言ってることがガキ同然なんだよ」


「何だと......」


次の瞬間小野寺は俺の胸倉を掴んだまま拳を振りかぶった。


「やんのか? てめえじゃ俺のは勝てねえよ」


「やめて! 龍星さんも小野寺君も辞めて......」


「桃花ちゃんは部屋に戻ってて」


「でも......」


「早く戻ってて!」


突然小野寺の大声が店内に響き渡った。


それにビビった中西は少し落ち込みながらも部屋の方に向かって行った。


「さあ桃花ちゃんもいなくなったし思う存分暴れてやる」


「俺に勝てるとでも?」


お互い鋭い目つきを交錯させる。


小野寺は一切怯えた様子を見せない。それは俺も同じだ。


しかし小野寺は俺の胸倉から手を離し距離を取った。


「やっぱりやめとくよ」


「急に怖くなったか?」


俺は相手をあざ笑うようにそう言った。


「別に微塵んも怖いとは思ってないよ。君とやり合うだけ無駄だと思ったんだ」


「何だと」


「それに一つ言わせてもらうけど桃花ちゃんは僕のものにする。君には渡さない」


「てめえそんなこと言える立場じゃねえだろ。そんなに中西のことが好きなら何であいつがいじめられている時に助けてあげなかったんだ。あいつは誰にも相談できずに一人で抱え込んでいた。一人でも見方がいれば心強かったはずだ。そんな時てめえみたいな奴が助けてやらねえといけないだろうが」


「怖い怖い。やっぱり君も桃花ちゃんのこと好きなんだね」


小野寺は俺の言葉を無視し、その上勝手なことを口にしてこの場から去って行った。




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