第38話 こいつは変な奴だった

俺は今、ラブレターに書かれてあった体育館裏に足を運んでいる。


あのラブレターのせいで午後の授業は集中出来なかった。


俺がこんなにも緊張することは滅多にない。


俺は額に浮かび上がってくる汗を拭いながら体育館裏に辿り着いた。


しかし人影が一切ない。何度も周りを見渡してみるがやはり誰もいない。


「俺の方が先かよ」


俺は重い溜め息を吐きながらここで待つことにした。


約2分後、ラブレターの送り主らしき人物が姿を現した。


こいつが送り主じゃなかったら何故ここにいるのかって話になるが。


一応確認するため口を開く。


「お前なのか? 俺の鞄にこれを入れたのは」


俺はそう言ってラブレターを目の前にいる女子に見せる。


するとその女子はすこしもじもじしながら口を開いた。


「は、はい。私が入れました」


「そうか。まさかお前だったとはな潮田」


そう、俺の鞄にラブレターを入れたのは同じクラスの潮田芽衣だったのだ。


正直あまり驚きはしなかった。もしかしたらこいつかもって思っていたからだ。


「で、こんなのを俺に渡して来たってことはやっぱり......」


「そうです。思いを伝えたくて」


潮田は真剣な眼差しで俺を見つめた。


その顔は少し赤くなっていてどこか照れているようだった。


そんな表情を見ればどんな要件かは分かってしまう。


俺はもう返事を決めている。


潮田が口を開くと同時に俺も口を開いた。


「私を弟子にしてください!」


「悪い、お前とは付き合えねえ」


二人の声が重なり合った。


潮田の言葉を聞いた俺の額には冷や汗がだらだら垂れ流れてきた。


「で、弟子?」


「付き合えねえってどういうことですか?」


——完全にミスった~。早とちりしてしまった......。告白じゃなかったとは。恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃ~。


俺は一度咳払いをして口を開く。


「つ、付き合えねえっていうのはあれだ、あのぉー、なんとなく今付き合えねえって言ってみたかっただけだ! あははははは」


俺は後頭部を掻きながら誤魔化すようにそう言った。


しかし自分でも思ったが俺は誤魔化すのが超下手らしい。


こんなんじゃ信じてもらえねえ。そう思ったが潮田は意外な言葉を口にした。


「ま、まあよく分かりませんがそこはどうでもいいです! それより私を弟子にしてくださいよ!」


潮田は目をキラキラさせながら俺に顔を近づけてきた。


「何だ弟子って」


「実は私ヒーローオタクなんです! そんな私は人助けをする鬼頭さんにすごく憧れを抱きました! 人助けをする鬼頭さんがヒーローみたいですごくかっこいいんです!」


次々と意味の分からないことを口にする潮田。


「お前がヒーローオタクっていうのは分かった。けど何で俺の弟子入りなんだ?」


「私ヒーローになりたくて、鬼頭さんみたいなヒーローに弟子入りしたら私もなれるかなって!」


「いやいや、なれねえよ」


俺は片手を左右に振り否定する。しかし潮田は諦めるどころかどんどん俺に迫ってきた。


「そんなことはありません! 鬼頭さんの弟子になれば絶対ヒーローになれます!だから私を弟子にしてください鬼頭さん。いや、師匠!」


「し、師匠だと」


俺は困惑しながらも今の状況を整理する。


潮田が俺に手紙を渡してきたのは好意を寄せているわけではなくただ単に俺の弟子になりたかっただけ。


俺が弟子入りを拒否しようとしても潮田は諦める気がない様子。


これはもう断った方がめんどくさい気がしてきた。


「もういいよ弟子になって。特に何もしなくていいんだろ?」


「まあ今のところは何もしなくていいですよ!」


「何だよ今のところって。嫌な予感しかしねえ」


「やっぱりなし、とかなしですよ! けどどうして弟子にしてくれたんですか?」


「断るのがめんどくさかっただけだ」


「そうですか!」


潮田は満面の笑みを浮かべてそう言った。


そんな時ふとあることを疑問に感じた。


俺はその疑問をそのまま潮田に問いただす。


「話が変わるが何でこんな色の封筒にこんなシールを貼ったんだよ」


俺がそう訊くと潮田はニコニコしながら話を始めた。


「今持ってる封筒そのピンク色のしかなかったからですよ! シールもこのハートのシールしかなくて~あははは」


まじでこんな封筒にこんなシールを貼られたら男なら誰でも勘違いしてしまうじゃねえか。


今後はちゃんと茶色い封筒に普通のシールで封を閉じろよ、と心中で呟いたのであった。








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