第37話 ラブレター⁉
「はあああああ」
顔の半分ほど口を開けでかいあくびをした。
「学校だりい」
登校しながらついそんなことを口にしてしまう俺。
林の件から数日が経ち再び平和な日常が戻ってきた。
しかし平和すぎて退屈だ。
そこら辺にちょろちょろいるヤンキーに喧嘩を売られたい気分だ。
もしそうなったらぼっこぼこにしてやるが。
そんなことを考えながらいつも通り電車に乗る。目的の駅に着いたら電車から降り学校まで歩く。
なんやかんや言って登下校が一番めんどくさい。
毎日同じことをしなきゃいけないしな。
するとそんな時、いつもと違う出来事が起こった。
「あ!」
「潮田か」
いつも通り学校に足を運んでいると潮田に出くわした。
「珍しいですね、こんなとこで会うなんて!」
「そうだな」
「せ、せっかくなので一緒に学校まで行きませんか?」
少し顔を赤らめながらそう口にした。
特に断る理由もないし一緒に行くことにする。
「いいぞ」
俺の返事を聞いた潮田は目をキラキラ輝かせながら俺の横に早足で歩み寄ってきた。
普段あまり潮田と二人きりという場面がない。
そのせいかお互い口数が減っている。
潮田と初めて二人きりになったのは食堂で飯を食べた時だった。
その時もあまり会話を交わさなかったな。
「はあ」
色々考えると疲れてくる。
俺の溜め息を聞いた潮田が首を傾げて口を開いた。
「どうかしたんですか? そんな溜め息を吐いちゃって」
「いや、どうもしてねえよ。疲れているだけだ」
正確にはこの状況のせいで疲れているだが。
「そうですか。ちゃんと睡眠はとっているんですか?」
「ああ。こう見えてもちゃんと夜は寝ている」
「流石です! やっぱり睡眠は大事ですよ!」
「あ、ああ」
何か潮田の様子が前と変わった気がする。
前の潮田ならもじもじして全く会話にならなかったのだが、今の潮田は前のもじもじが消えている。
一体何があったんだ。
まあ正直そこまで気にならないし考えるだけ無駄か。
「どうしました?」
黙っている俺を不審に感じたのかそう問いかけてきた。
「別に何も」
「そういえば鬼頭さん、また女子高生を助けたみたいですね!」
満面の笑みを浮かべながらそう言った潮田。
「何でお前が知ってるんだよ......」
「だって聞きましたもん! 一年の林さんに!」
「えっ」
——何やってんだよあのクソ女。普通自分が関わっている事件を自分で言いふらすか!
「そ、そうか。林に聞いたのか」
「はい! やっぱかっこいいですね鬼頭さんは! 女の子を助けるなんて!」
ニコニコ笑っている顔をこちらに向けているせいで顔を逸らしてしまう。
俺は顔を背けながら口を開く。
「別にかっこよくはねえだろ。ただ喧嘩してるだけだし。人を暴力でねじ伏せてるだけだし」
「そんなことはありません! 確かに暴力はいけないものです。けど、人を助けるためなら暴力も必要になってくると思いますよ!」
「そ、そうか」
俺自身心のどこかで暴力を振るっている自分が情けなかった。
けど潮田の言葉を聞いて少し自信がついた。
「サンキューな」
俺の言葉を聞いた潮田は満面の笑みを浮かべ「はい!」と言った。
その後俺らは学校に直行した。
昼休みになり俺は一年の教室に足を運んでいる。
林を見つけるためだ。しかし俺は林のクラスを知らない。
一つ一つの教室を見ていくしかない。
そう思った時だった。
「あ! ヒーロー先輩だ!」
「お、俺?」
俺は自分を指さしそう言った。
「そうですよ! ねねから話は聞いてます!」
ねねと言っているってことは林の友達か。ちょうどいい。林の居場所を聞くとしよう。
「ところで林って何組?」
「ねねは3組ですけど何か用なんですか?」
「そうだ。取り敢えずありがとな」
俺はそんな一言を残し1年3組の教室に向かった。
1年3組に辿り着き教室を見渡す。すると何人かの友達と一緒に昼飯を食べている林の姿があった。
ご飯を食べているのに呼び出すのはちょっと申し訳ないが、ささっと用事を済ませたいし別にいいか。
「林!」
クラスの入り口で林の名を叫んだことで教室にいた生徒ら全員がこちらに視線を移してきた。
そして小声で何かを言い出している。
「あれってヒーロー先輩じゃね」
「ヒーローって呼ばれてるのに顔こわ」
「怖いけどイケメンじゃん!」
そんなくだらない会話が俺の耳に入って来る。
俺に気づいた林がこちらに歩み寄ってきた。
「どうしたのぼっち先輩」
「話があるから着いて来い!」
「え、もしかして告白とか? うわぁ~ぼっち先輩って告白とかするんだ~」
「ちげえよ。ただの話だ」
「ちぇっ。つまんなーい」
そう言いながらも林は素直に着いてきてくれた。
ある程度人気がない場所に来て足を止める。
「こんなとこに呼び出して何するの? あの大人みたいに私を犯すの?」
「だからそんなことはしねえよ」
俺の言葉を聞くと林は唇を尖らせてそっぽを向いた。
そんな態度をとるってことは犯してほしかったって言ってるもんだぞ。
まあ、そんなことはどうでもいい。早速本題に入らせてもらう。
「お前あまりあの事件のことを言いふらすなよ」
「別に言いふらしてないよ。ただ単にぼっち先輩が私を助けてくれたってことしか言いふらしてない」
「言いふらしてるじゃねえか」
俺が怪訝そうな態度をとると林は苦笑交じりに話を始めた。
「だから私が犯されたってことは誰も知らないよ!」
「はいはい分かった分かった。じゃあ言い方を変える。今後俺のことも言いふらすな」
俺がそう言うと林は分かりやすく嫌な顔をした。
「何でそんなに俺のことを言いふらすんだよ」
俺がそう訊くと林は目を輝かせて口を開いた。
「だってかっこいいじゃん! みんなもかっこいいって言ってたよ! それにみんなぼっち先輩のことヒーロー先輩とか言い出したの! 超ウケるぅ~」
林は両手をパチパチ叩いて笑っている。
「あーもうどうでもいい。勝手にしろ」
俺は説得するだけ無駄だと感じこの場から立ち去った。林一人残して。
教室に戻り軽く何かを食べようと思い鞄を開ける。
すると......。
「な、なんじゃこりゃあああああ~」
俺の声に驚いたクラスメイトが一斉にこちらに顔を向けた。
俺は一度咳払いをして冷静さを取り戻す。
俺は鞄に入っていた物を眺める。
「何で手紙が入ってるんだよ」
鞄に入っていたのはハートのシールで封を閉じているピンク色の封筒だった。
「これって完全にラブレターじゃん」
ラブレターなど生まれてから一度も貰ったことがない。そのため物凄く困惑している。
封を開けて中身を確認する。
中には一枚の紙が入っていた。
そこには短く『今日の放課後体育館裏に来てください』とだけ書かれていた。
名前などは一切書かれておらず誰が書いたのか不明だ。
俺は固唾を呑んで何度も文章を読み直す。
流石の俺でのこの状況は理解出来ん。
「絶対告られる......」
誰にも聞こえない声でそんなことを呟いた俺であった。
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