第35話 やり返しだぁ

「きもい奴って本当に人気がないとこに潜んでいるんだな」


林に例の男の家に案内してもらっている途中にそんなことを呟いた。


「じゃないと、私みたいなJK女子高生を家に連れ込めないでしょ」


林は呆れたようにそう言った。こんな表情の林を見ていると昨日の夜の出来事が嘘みたいだ。


正直言って昨日の夜の林は少し素直で可愛かったかもしれない、だが......


今日の林はいつもとあまり変わらず憎たらしい雰囲気を漂わせている。


「で、まだつかねえの?」


俺はあの男をボコボコにしたくてうずうずしている。


いち早く例の男の家に突撃したいがなかなか着く気配がない。


するとそんな時林が溜め息を吐いて口を開いた。


「ここだよ」


そう言って目の前にある古びたアパートを指さした。


「げっ。ここかよ......」


今にも壊れそうな階段に今にも壊れそうなドア。


ドアに関しては一発殴ったらぶっ飛んでいきそうだ。


俺は階段を上り始める前に作戦の再確認を取る。


「いいか、お前には少し辛い思いをしてもらう。最初はいつもみたいに一人で家に入ってくれ。そして服を脱がされそうになったら何でもいいから叫べ。外で待機している俺に聞こえるくらいの声量でだ。その叫び声が聞こえたら俺が突入する」


「分かってるって。けど何でこんなにめんどくさいことをするの?」


首を傾げてそう訊いて来る林。


俺はその質問に答えるべくグッドポーズをして口を開く。


「ヒーローは遅れて登場するだろ? 一度でいいから遅れて登場してみたいんだよ!」


満面の笑みを林に向けるが、林は呆れたように首を縦に振り納得したようだった。


「じゃあ行ってくれ。俺はドアの前で待機してるから」


俺の合図に合わせて林が階段を上って行く。


俺はその様子を眺め、家に入るのを確かめる。


林は男の家のインターホンを鳴らし男が出てくるのを待った。


10秒にも満たないくらいで男は姿を現した。


林と何かを話しているようだったが俺の存在には気づいていないようだ。


程なくして林は男の家に入って行った。


するとその瞬間......。


「ガチャ」


ドアから耳を疑いたくなるような音が聞こえてきた。


「嘘だろ......」


俺は物音を立てずに階段を上りドアの取っ手を握る。そして男にバレないようにドアをゆっくりと引いた。


「開かねえ......」


俺は冷や汗を掻き少し焦る。


「やばいやばいやばいやばい。考えろ俺......。あ、取り敢えず電話だ」


俺はポケットからスマホを取り出しある番号に電話をかける。


電話は数分で終わり、俺は再び鍵が閉まったドアをどうするかを考え始めた。


「くそ、軽く10分は経ってる」


するとそんな時家の中から叫び声が聞こえた。


林も鍵が閉まっていることには気づいているはずだ。なのに叫ぶってことを危険な状況ということ。


「今回は完全に俺のせいだ。クソがぁぁぁぁぁぁ」


俺はそんな雄たけびと共に男の家のドアを殴った。


「ゴンッ」


そのような鈍い音が辺りに一面に響き渡る。


その音が耳に入ったのか中から「誰かいんのかよ」という声が薄っすらと聞こえてきた。


するとその時、中からドタドタドタと足音が聞こえてくる。


「ガチャ」


そんな足音が近づいて来たと思えばあっという間に鍵が開いた。


「ナイスだぜ林!」


俺はドアを思い切り開け玄関に足を踏み入れる。


するとそこには真っ白な下着に身を包んだ林の姿があった。


俺はそんな林に自分のカッターシャツを渡す。


男用ということもあり、少し大きいかもしれないが肌を晒すよりましだろう。


「てめえはあの店の」


男が鋭い目で俺を睨んできてそう言った。


「覚えてたのかよ、このゴミが。今から掃除してやるから感謝しな」


「何だと? てめえみたいなガキが大人の俺に喧嘩で勝つつもりなのか? くく、笑わせんなよ」


「勝手に笑ってろや。泣くんじゃねえぞ」


俺はそう言って片手をゆらゆらと動かし相手を挑発する。


それ見た男は怒りが爆発したのか俺に殴りかかってきた。


右手の拳を俺の後頭部目がけて振り下ろす。俺はそれをてのひらで防ぎ距離を取った。


「ガキのくせに大人の攻撃を止めるか。生意気だな」


「もっと強いのくれよ。てめえが林にしたことは許されねえぜ」


次は俺から仕掛ける。


男の間合いに入り腹部目がけて思い切りパンチを繰り出す。


男はそのパンチを見事に防いだ。しかしそんなことはお見通しだ。


俺はその隙を狙って相手のすねに蹴りを叩き込む。


「くっ......」


男の口からそんな声が漏れた。


しかし俺の攻撃は止まらない。


脛の次は腹だ。


男の腹部目がけて前蹴りを叩き込む。


「ガハッ」


男の呼吸は鈍くなりその場に跪いた。


「くそっ、こんなガキにこうもあっさりと......」


「ガキガキうるせえよ。俺は端から負けるつもりなんてねえんだよ」


男は下から俺を睨みつけた。


俺はそんな男の顔面を蹴る。


「ガッ」


男は後方に吹き飛び横たわる。


「てめえ......」


俺は男の口を手で塞いで言葉を遮った。


そして俺は口を開く。


「いい加減口閉じろやカス。てめえのしたことを許すつもりはねえ。第一、あいつが許すわけがねえからな」


俺はそう言って林を指さす。


林は俺を見ながらこくりと小さく頷いた。


「てめえがしたことは犯罪だぜ。女の体を安物扱いしやがって。女の体はそんなに安っぽい物じゃねえんだよ」


男は俺の圧にビビってか涙目になり怯えていた。


「さっさと自首しろクズが」


俺は男の首を掴み家の外に放り投げた。


すると外には数台のパトカーと警察の姿があった。男の家に突入する前に連絡しておいたからだ。


その後男は連行された。


警察にもお礼を言われた。どうやらずっと探していた男だったらしい。


そして警察は具体的なことを聞きたいと言って林を署に連れて行った。


「ふぅ」


俺は安堵の息を吐いた。





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