第34話 林の謝罪

バイトが終わり外はすっかり真っ暗だ。


こんな真っ暗の中、俺と林は家に帰宅するために歩いていた。


その途中俺は本題を切り出す。


「単刀直入に訊くがあの男とお前はどんな関係なんだ?」


俺がそう訊くと林は俯き数秒沈黙が続いた。


閉じかけている口を一生懸命開こうとする林。こんな様子からあの男との関係は結構ヤバイ系かもしれん。


そう感じた俺はいち早く事情を聞きだすべく口を開く。


「何で黙ってる。話した方が楽になるんじゃねえの?」


「で、でも......」


「そんなに話しにくい内容なのか?」


俺がそう訊くと林は小さく頷いた。


普段の林の表情とはまるで別人。


俺は一向に話を始めない林にしびれを切らした。


「早く話したらどうなんだよ。お前一人で抱え込んでいる悩みを俺が聞いてやるって言ってんだよ」


俺がそう言うと林は口をポカーンと開けて驚きを隠せないでいた。


「べ、別に話を聞いてとか一言も言ってないし......それにぼっち先輩に相談したところで意味ないし」


もぞもぞしながらそう言った林。全くこいつはこんな風に生意気な部分があるからいちいち癇に障る。


俺は思い溜め息を吐き口を開く。


「そうかよ。なら知らん。勝手にしろ」


俺はそんな一言を残し歩いた。


林は突っ立ったままでピクリとも動かない。


俺に見捨てられたことがショックなのか、それとも俺に話をしなくていいことにほっとしたのか。まあどちらにせよ俺はもう知らん。


あいつから謝罪してくるまでは一切口を利かない。


しかしそんな時後方から声が聞こえた。


「先輩!」


初めて俺に向かって林が発したぼっちがつかない『先輩』というワード。


しかし俺は足を止めずそのまま歩き続ける。


するとまたしても林の声が聞こえた。


「すみませんでした!」


普段の林じゃ絶対にありえない謝罪をしてきた。


俺はその謝罪を耳にして足を止める。


すると林の足音がこちらに近づいて来るのが分かる。そして林は口を開いた。


俺は林に背を向けたまま話を聞く。


「実は私......あの男に犯されました」


俺はその言葉に驚きを隠せず思わず林の方に振り返る。


林は俺の驚いた姿を目にしながらも話を続けた。


「あの男だけじゃありません。けどこうなったのは全部私のせいなんです。だからどうすることも出来なくて......。誰にも言うなよって言われてたから相談も出来なくて。もし誰かに相談したらどうなるか分からなくて怖かった......」


次第に林の目からは涙が零れ落ちてきていた。


「何でそうなったんだ」


「それはですね......」


その後林は自分の過去の話をすべて俺に話した。


「なるほどな」


話を終えた頃には林は唇を強く噛みしめて泣いていた。


しかしまだ大人にもなっていない女性がえげつない快感を覚えたもんだな。


俺は林を見つめた。


一切何も言わずただ『あの』言葉を待つだけ。


まだ落ち着いていない林を目にしながらどんどん時間が経っていく。


こんな真っ暗な外で後輩の女子と二人きりで立ち尽くしたことなんて一度もない。


するとそんな時、震えた口を懸命に動かして何か言葉を発しようとしている林の姿が目に入った。


一秒、一秒時間をかけてようやく林の口から一つの言葉が出て来た。


「助けてください......」


俺がずっと待っていた言葉が林の口から発せられた。


俺は林の頭に手を置き口を開く。


「はあ。最初からそう言えやクソ女。こんな俺でも助けを求めている人が目の前にいれば見捨てたりはしねえよ」


バイト中は見捨ててやろうと思っていたが話を聞いて気が変わった。


「うっうう......あ、ありがとうございます」


林は先ほどよりも大量の涙を流し泣いたのであった。








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