第31話 喧嘩

「おいおい。何でそうなるんだよ」


「彼女がいるのに何で私に優しくしたんですか......」


「彼女? こいつがか?」


俺は林を指さしながらそう言った。


林も「しまった~」と思ったのか少し反省している様子が見られる。


「違いますよ! こんなぼっち先輩と私がカップルなわけないじゃないですか!」


そう言って林は手をパチパチして笑った。


しかしそんな様子をただただ怪訝そうに見つめる中西。


林、今はそんなことをする場面じゃないぞ、と言ってやりたい。


すると林のスマホがブルブル震え出した。


林はポケットに入っているスマホを取り出し電話に出る。


「もしもし。あ、そうでしたね! 今から行きます!」


そんな短い会話をし終え林はスマホを再びポケットにしまった。


「こんな状況の中大変申し訳ないのですが、私用事があることをてっきり忘れてまして......。本当にすみません」


林は深く頭を下げた。


この場に俺しかいなかったら「ごめんご、めんご」とか言ってこの場から立ち去りそうなのに、中西がいるからかちゃんとした謝罪をしてきた。


こんな謝罪をされたら俺も行っていいと許可を出したくなるが、これは林がまいた種だ。林がいなかったらこんなことにはならなかった。ちゃんと誤解を解いて欲しい。


俺は今思っていることをそのまま口にする。


「お前ここを立ち去る前にちゃんと誤解を解いてくれよ」


「そうですね」


そう言って林は中西の方に体を向け口を開いた。


「本当に私はこの人とは付き合ってないんです」


真剣な眼差しを中西に向けながら林はそう言った。


すると中西は一度重い溜め息を吐き口を開く。


「分かりました。信じます。それと迷惑かけてすみませんでした」


中西も深々と頭を下げた。


「顔を上げてください。悪いのは私ですよ」


林も今まで見たことのない対応で中西と接する。


その後林はこの場から去り、ここには俺と中西の二人だけとなった。


俺は二人きりになったことで一番気になっている点を問いただした。


「なあ、中西。何でお前は俺の彼女でもないのに俺が違う女と一緒にいたら怒るんだ?」


俺の言葉を聞いた中西は頬を赤らめて俺から顔を逸らした。


しかし俺は中西が質問に答えるまで逃がすつもりはない。


「教えてくれ」


俺がそう言うと中西は深呼吸をしてこちらに顔を向けた。


そして話を始めた。


「そ、それはですね......龍星さんは友達ですから変な女とくっついて欲しくないんです。けどあの子いい人でした。龍星さんのことを先輩って呼んでたから私たちよりも年下ですか?」


『あの子』というのは林のことだろう。


「あいつは俺らより一個年下だ。それにしてもあいつのどこがいい人なのかねぇ。林の本性を知ったらいい人なんて言えないぜ」


俺は苦笑交じりにそう言った。


するといきなり中西がか弱い声で話を始めた。


「林さんって龍星さんには本性を見せてるんですね」


何を言い出すかと思えばよく分からないことを言い出した中西。


すると中西はさっきとは全然違うテンションで話し始めた。


「やっぱり龍星さんと林さんてお似合いですね! いやーこれは応援したくなりますよ!」


少しひきつった笑顔でそう言った。


その笑顔を見れば流石の俺でも分かる。


本心からの言葉ではないと。


「あのな、俺は別に林のこと好きじゃねえよ。何勘違いしてんだよ」


「好きじゃなかったらあんなことしませんよ。林さんに抱き着かれている時の龍星さんすごく嬉しそうでした......」


今にも泣き出しそうな震えた声でそう言ったな中西。


何でこんなにも落ち込むのか俺には分からない。


しかしこのまま勘違いさせとくわけにはいかない。


「だから全然嬉しがってねえよ。本当にあいつのことなんか好きじゃねえよ。さっき林と話してる時信じるって言ってたじゃねえか」


「はい、言いました。けどあれは付き合っていないことを信じただけです。付き合ってないだけで本当は両想いなんじゃないでしょうか」


「うるせえ」


「私も信じたいんです。けど何故か信じれない......」


「うるせえ」


「だから証明してくだ......」


「うるせえよ。だから違うって言ってんだろ。お前もしつけえよ。こっちは真実を言っているだけなのに何故か疑われる。意味分かんねえよ。俺はもう帰る。信じたくねえなら勝手に信じないでいろや」


俺は中西の言葉を遮りそう言った。


俺はそのまま校門を通過し駅に向かおうとした。


その途中、背後で中西が泣いていることに気づいた。


あんなに泣いている中西を見たことがない。


いじめられていた時とは比べ物にならない。


しかし俺は声をかけずそのまま歩いた。





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