第30話 弄び
「これありがとな」
俺は今、目の前にいる潮田に今日借りたペンを返している。
「全然です! また何か忘れた時は頼ってください」
潮田は満面の笑みを浮かべながらそう言ってペンを受け取った。
笑顔を浮かべている顔は少し赤くなっている気がした。
その後俺はいつも通り靴箱で靴を履き校門に向かう。
しかしその途中厄介な出来事が起きた。
一人で歩いている林を目にしてしまったのだ。
関わらないことが一番だと判断した俺はバレないように林の後方を歩く。
校門さえ通過すればそこからは道が違う。今日はバイトも休みなので林に会うことはない。
足音を一切立てずに歩く俺。
しかし......。
「ピロン」
俺の携帯が音を鳴らしてしまった。
その音に気づいた林は当然のようにこちらに視線を移す。
「あ! ぼっちぱいせーん!」
そう言ってのこのこと俺に歩み寄る林。
「クソが」
「どうしたんですか? あ、まさか私に気づかれないように後ろを歩いてたとか? もしそれが本当ならウケるぅ~」
そう言ってくすくす笑う林。
「何で私に気づかれたくなかったんですか? もしかして私が怖いのかなぁ~? ウケるぅ~」
またしても「ウケるぅ~」と言ってくすくす笑う林。
「てめえには関係ねえよ。お前と関わりたくないだけだ」
俺はそう言ってさっき送られてきたメールの内容を確認すべく携帯をポケットから取り出す。
その様子をぼーっと眺める林。流石にメールを確認することを邪魔したりはしないのだろう。
俺はスマホの画面に目をやる。するとそこには中西からのメールが届いていた。
『今日用事が出来たので龍星さんの学校には行けそうにはないです。すみません」
「いちいちそんな報告いらねえよ」
メールの内容を見てそんなことを呟いてしまう俺。
そんな時林が俺のスマホを覗き込んできた。
どのようなメールが来たのか気になったのだろう。
「へえ~。ぼっち先輩って彼女いるんだぁ~」
顎に手を当ててニヤニヤ笑う林。
「彼女じゃねえ。友達だ」
「友達? 友達いたのぉ~? うーわ。いたのかよぉ。つまんねえ」
林は唇を尖らせそんなことを口にした。
「てめえには関係ねえだろ」
「いやまさか、ぼっち先輩の唯一に友達が女とは。隅に置けませんなぁ~」
「あ? てめえ何考えてんだよ」
「ニヤニヤ、ニヤニヤ」
そう言って林はゆっくりと俺の方に近づいて来た。
「やっぱりぼっち先輩って経験豊富なんですかぁ~?」
林は自分の指で俺の首からお腹までなぞってきた。
「てめえ、そんなことしたら殺すって言ったよな」
「大丈夫ですって! もうほとんどの生徒は帰っちゃってますし!」
林はそのまま俺を校門近くの壁に抑えつけた。
しかし俺はこのまま黙って従うつもりはなく林を思い切り後方に押した。
「ちょっと痛いです~。やめてください」
ちょっと涙目になってそう言った林。
流石にやりすぎたかと思ったが、今までの林の態度を思い出すとこれくらい大したことじゃないと思った。
「ふん。罰だ」
俺はそう言って校門を通過するべく足を動かした。
しかしまたしても林が行動を起こす。
背後からいきなり抱き着いてきやがった。
「てめえ。いい加減にしろよ」
俺は睨みつけながらそう言った。しかし林は怯えることなく口を開く。
「先輩の体暖かいです。このまま私の家に来ませんか? 来てくれたらいいことをしてあげます」
林は赤面しながらそう言った。
素直な感想可愛かった。
いつもは憎たらしい後輩だがやはり女の子だ。可愛い一面もある。
俺はそんなことを考えながら口を開く。
「てめえ本当に......失せろや」
俺はそう言って林を無理やり引き離しガンを飛ばした。
流石の林もこれには少しビビったのか俺から少し距離を取った。
しかし時間が経つと諦めが悪い林は負けじと俺にくっついて来た。
「てめえ放れろ」
「嫌だ! 私にあそこまでさせといて何で『失せろ』とか言えるんだよ!」
「だから俺は興味ない奴に何されようが興味ねえままなんだよ」
こんな会話をしている最中でも林は俺に抱き着いている。
傍から見ればただのやばい奴らだ。
するとそんな時一人の少女が姿を見せる。
「龍星さーん! 今日宿題のプリントを忘れて居残りになったんですけど、たまたまそのプリントが鞄に入ってて居残りを免れました! ってこれって......」
俺らの目の前に現れたのは中西だ。
中西は俺らのこの状況を見て言葉を失っている。
「よ、よお中西! こいつどうにかしてくれ。邪魔でしょうがねえんだ」
俺がそう言っても中西は一向に口を開こうとしない。
「中西?」
「龍星さん彼女いたんですか......」
「は? 何言って......」
「今まで私の気持ちを弄んでいたんですか......」
中西はそのまま俯い涙を隠していた。
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