第29話 めんどくせえ奴とありがたい奴
「うわぁー。ぼっち先輩だぁ~」
朝、校門を通ると嫌な偶然が起こった。
何人かの女子生徒と一緒に登校している林が俺に声をかけてきた。
林の言葉を聞いて周りにいた女子生徒も一緒にクスクスと笑いだす。
俺はそんな様子を目にして腹を立てたが、相手にするだけ無駄だと感じ無視することにした。
俺が一人で靴箱に向かっていると後ろから思い切り押された。
俺は少し体制を崩すが踏ん張ったことで倒れることはなかった。
俺はゆっくりと視線を後ろに向ける。するとそこには予想通り林の姿があった。
せっかく見逃してやろうと思ったのに今の行動で完全に俺の怒りはMAX状態だ。
「お前まじでうぜえよ」
「先輩怖いでちゅ。そんなに怖い目で私を見ないで~」
林は明らかにわざとらしく体を震わせている。
しかし今日の林は俺のことをちゃんと先輩って呼んでいる。
やはりバイトの時だけ俺のことを後輩って呼ぶんだろうか。
少し分からない部分も多いが、今はそんなことどうでもいい。
俺はゆっくりと林の方に歩み寄る。
しかし林はそんな俺の様子を見てもニヤニヤしているだけ。
そんな態度をとるから余計に腹が立つ。
俺は林の目の前に立ち口を開く。
「お前殺すぞ」
その言葉を聞いた林は手を口に当ててクスクスと笑った。
完全に俺のことを馬鹿にしている。
「『殺すぞ』とか言ってもどうせ殺せないくせにぃ~。ほんと面白いね~。ぼっち先輩は」
そう言って林は俺の前から立ち去った。
「舐めやがって」
俺は少し機嫌を悪くしながら靴箱に向かった。
「あれ。忘れたか......」
俺は今鞄の中を探って筆箱を探している。
ホームルームが終わって一限目の準備をしようとした時筆箱がないことに気づいた。
自分で言うのもなんだが、俺は優等生ではない。授業中も大人しくはしているもののその代わりほとんど寝ている。教師に注意などされると素直に反省する気になれなかったりする。
しかしこんな俺でも忘れ物はしたことがない。
高校生になって一度も忘れ物をしていない。
今までこんな自分を誇らしく思っていたが、今日のこの出来事で自分が一気に情けなく感じた。
高校生になって初めて忘れ物をした。
朝は林に絡まれるし忘れ物はするし今日はいいことがない。
そんな時、落ち込んでいる俺のもとに二人の生徒が突然現れた。
「良かったらこれ使ってください!」
「龍ちゃーん! これ使ってちょうだい!」
俺の目の前に現れたのは潮田と杉山だった。
二人とも俺の方にシャーペンを差し出している。
「え、えっと......。どうすればいいんだ」
俺が戸惑っていると杉山が口を開いた。
「潮田ちゃんが貸してあげるんだったら俺は必要ないか!」
そう言ってくるくるペン回しをする杉山。
「じゃ、じゃあ潮田から貸してもらう」
俺は潮田が持っていたペンをありがたく借りることにした。
その時潮田の表情を伺ったが顔色が真っ赤に染まっていた。
何でこんなに赤いのだろうか。そんな疑問を浮かべていると潮田は一礼してあっという間に俺の前から消えていった。
「龍ちゃんって潮田ちゃんと仲良かったんだ~」
「いや、仲がいいほどではない。つい最近急に話しかけられてな」
「そっかそっか! これは中西ちゃんのライバル増えるぞぉ~」
ニコッと笑いながら杉山はそう言った。
「どういうことだ?」
杉山の言った意味がよく分からなかったので問いただす。
「まあ、いずれ分るんじゃなーい。それじゃ俺はこれで」
「そ、そうか。それとペン貸そうとしてくれてサンキューな」
「いいってことよ!」
そう言って杉山は自分の席に戻って行った。
こうやって杉山と会話をするのは久しぶりだ。最初はあんま好きじゃなかったが関わって行くうちにあいつの良いとこも見えてきた。
正直男子で一番仲が良いのは杉山だ。
まあ杉山は俺のことを一番仲が良いとは思っていないだろうが。
その後俺は潮田から借りたペンで無事に授業を受けることが出来た。
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