第25話 また中西と放課後を過ごす⁉

「帰らねえのか?」


「はい!」


先ほどの校門での出来事が終わって、俺は中西の後ろを歩いている。


いつも通り駅に向かうかと思っていたがどうやら違うらしい。


駅への道とは違う方向に歩いているからそう思った。


「どこに行くんだよ」


そう訊くと中西は俺に向かって満面の笑みを浮かべながら口を開く。


「龍星さんは知っていますか? この近くに新しいデパートができたことを!」


「し、知らねえ」


俺がそう言うと中西は「やれやれ」と言って溜め息を吐く。


知らないものは知らないのだ。仕方ないだろ。


しかし今の中西の言葉を聞いて分かった。


今向かっている場所はその新しいデパートだろう。


俺はポケットからスマホを取り出しマップを開く。


そして俺はここの周辺にデパートがあるかを確認した。


すると『デデデパート』というデパートが確かにあった。


出来たのは丁度一週間前。


「めっちゃ新しいじゃん」


「そうなんです! 一度行ってみたいと思ったんですよ!」


中西は満面の笑みを浮かべながらそう言った。


そんな笑顔を見せられたら断れるわけがない。


「しょうがねえ。行ってやるよ」


「ありがとうございます!」


目を輝かせながら俺を見てくる。


くそっ。眩しい。


そんなことを思いながら俺らはデデデパートに向かった。


程なくして目的地のデデデパートに辿り着く。


すると中西はぴょんぴょんジャンプしながら口を開いた。


「どこに行きます? どこに行きます?」


よっぽどここに来れたことが嬉しいのか何度も同じことを口にする中西。


俺は溜め息を吐いて口を開く。


「お前の行きたいとこに行けばいい」


「いいんですか?」


中西は首をちょこんと傾げてそう言いた。


「逆に何でダメなんだよ」


「あ、ありがとうございます!」


そう言って中西はデパートの中に入って行った。俺はその後を追う。


すると中西がデデデパートのパンフレットを手に取り俺のもとに歩み寄る。


「私ここに行ってみたいです!」


パンフレットに載っている地図の一部を指さしてそう言った。


中西が指さした店は女性専用の店だった。名前も『キュートショップ』。可愛い店。シンプルな名前だ。男性が入ってはいけないというルールは特にないが女性専用の店に入る男性は滅多にいないだろう。


流石の俺もこれには抵抗を感じる。


「そこの店に行くなら俺はここで待っとく。流石に入れねえ」


俺がそう言うと少し涙目になった中西が俺の鞄を握って口を開いた。


「自分がわがままを言いすぎているのは分かってますが、どうか着いてきてくれませんか?」


こいつまたこんな目をしやがる。


たまにこいつは寂しさを含んだ目を俺に向けてくる。


俺はその目がとても苦手だ。その目を見るとこいつに逆らえない。


「はあ。わーったよ。行けばいいんだろ」


俺は後頭部をポリポリ掻きながら足を動かした。


「本当にありがとうございます!」


後方からそのような声が聞こえたがあえて反応しないでおいた。


中西は満面の笑みを浮かべながら俺の隣まで駆け足で寄ってきた。


俺は中西の様子を横目で確認し少し口角を上げた。


一階から二階への移動ということもあり数分でキュートショップに辿り着いた。


店をまじまじと見ることで気づいてくることもある。


「まじで男が入っていいのかよ......」


ふとそんな言葉が口から漏れる。


キュートショップで売られている商品は、女性用の下着、洋服や女性用のピアス、イヤリング、ネックレスなど。他にも色んな物が売っている。


そのうえ店員も女性。


男性用の品物は一切売っておらっず、男性の店員もいない。男性の客もだ。


俺は少しキュートショップから距離をとる。


その様子を見ていた中西は俺の手を握り強引に店内へと連れて行った。


「もうどうでもいいや」


そんな言葉を俺は口にした。


しかし店内に入ってみるとそこまで抵抗はなく普段通りの自分のままでいられた。


中西は店内に入るとうきうきしながら色々な商品に目を奪われていた。


俺はそんな中西の様子をまじまじと見てしまう。


普段あんなに楽しそうにしている中西は見ない。前に行ったゲームセンターの時よりも楽しそうだ。


俺はそんな中西を見て思わず吹いてしまった。


「ははははは」


いきなり笑い出した俺を店員は不審そうに見ていた。


中西は目を丸くし何度も瞬きを繰り返している。


「ど、どうしたんですか?」


「い、いや楽しそうなお前を見てると何か笑いが堪えきれなくなってな」


それを聞いた中西は頬をぷくーっと膨らませて口を開いた。


「な、何でそんなに笑うんですか!」


そう言ってぽこぽこ俺を殴ってきた。


俺は目に溜まった涙を拭いながら口を開いた。


「お前の楽しそうにしている姿を見ると嬉しくなるんだよ」


そう言って俺はニコッと笑って見せた。


俺の言葉を聞いた中西は少し頬を赤らめて俺から視線を外した。


それから話を逸らすようにして中西が口を開いた。


「あの辺も見てみましょうよ!」


そう言って店の奥の方を指さす中西。


「お、おう」


俺は中西に着いて行き店の奥の方へ移動する。


そこには財布や筆箱などが置いてあった。


「げっ。高っ⁉」


俺はある一つの財布の値段を見てそんなことを口にした。


中西も俺の言葉を聞きその財布に目をやる。


すると中西はその財布を手に取り目をキラキラさせた。


「ど、どうした」


「この財布可愛いなと思いまして」


そう言って中西は財布を顔の真横に持ってきて満面の笑みを俺に向けた。


俺はその表情を見て思わず中西から視線を外してしまう。


自分でも気づいた。顔が真っ赤になっていることに。


俺は真っ赤になった顔を隠しながら口を開く。


「買うのか? その財布」


「買いませんよ。てか、買えません! こんな大金持ってませんから!」


「あはは」と苦笑しながらそう言った。


確かに高校生からしてみればこの財布の値段は安いとは言えない。


3万8000円。4万円近い値段だ。


親にお小遣いを貰って買えばいいとか言えるわけもない。中西の両親は既に亡くなっているからだ。


前に聞いた話だが、中西は県外に住んでいるおばあちゃんから仕送りしてもらっているらしい。そのためお金の大半が生活費で自分のために使えるお金など一割ほどしかないと聞いた。おばあちゃんもおばあちゃんで色々な事情があるらしく今以上のお金を送ってやることが出来ないらしい。


それなら一緒に暮らしたら今よりも楽な生活を送れると思い、何でおばあちゃんと一緒に暮らさないのかと訊いたことがある。しかしその理由はおばあちゃんが今入院しているらしく一緒に暮らすことが出来ないとのこと。


そんなところから中西の周りの環境はあまり良い環境とは言えないだろう。


それなのに中西はいつも笑顔を忘れることなく俺と接してくれる。本当は悲しくて寂しいはずなのに。


そういうとこから俺はこう思うんだろうな。守ってあげたいと。


結局この日は何かが起こるわけでもなく解散の時間となった。


「今日はありがとうございました! とっても楽しかったです!」


満面の笑みを浮かべてそう言った中西。


「まあ、何だ......また行きたい所があれば俺を誘ってもいいからな」


俺は照れていることがバレないように中西から顔を背けながらそう言った。


「はい! 誘います!」


とても嬉しそうにしながら中西はそう言って今日は解散となった。


まあどっちみち駅までは一緒だが。







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